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第二十話:メイドの野望(気になるあの人と金の力で何とかしたい)

第二十話

 中間テストの結果がまぁまぁなのはいいとして、学園祭も一人で過ごした俺は寂しかった。

 アイドルはクラスメートに囲まれながら、自称許嫁は家の用事で来てなかった。金持ちさんは家でごたごたがあったそうでそれを何とかするために帰ったそうな。もちろん、波恵さんも金持ちと一緒に行動している。

 学園祭残り二日なんて一般開放だから学園生にはあってないようなものだ。

「あー、金が欲しい」

 今月は面白そうなゲームとか本とか出るからなぁ。

 だからといってお金がぽんと出てくるわけでもない。

「お金が欲しいんですか?」

 しかし、神様はお金の代わりにお金の匂いのするメイドさんを使わせてくれたようだった。

「あ、いや……ただの独り言です」

 本日の学園祭は終了してしまっている。だから俺はたそがれていたのだ。誘おうにも遅かった。

「とてもいいバイトがありますけど? 急きょ人数が減ってしまいまして」

 危ない匂いがぷんぷんする一言だった。

 こういうときって絶対に乗っちゃいけないんだよな、うん。

「せっかくですけど……」

「そうですか。受けてくれますか」

「いえ、ですからね……」

「こっちですよ」

 聞いちゃいないし。

 腕を掴まれて引きずり始める。思ったより強い力にびっくりしていたらあっというまに廊下へ引っ張られて行く。

 波恵さんが指を鳴らすと各教室からメイドが出てくる出てくる……。

「これでも人数が減ったんですよ。では、衣装をお願いしますっ」

「ひっ、あ、ちょっとーっ」

 俺の叫び声もむなしく廊下に響き、あっという間にすっぽんぽん。新しいメイドさん達にもみくちゃにされながらちょいと嬉しいと思っていたらあっという間に着替えが終わってしまう。

「お金を稼ぐには働かなくてはなりませんね。冬治さん、頑張ってください」

「え? 何この服……」

「執事服です」

 きりっとした表情でそう言われた。

「は、はぁ? 執事服って……俺に執事喫茶に行けと?」

 わかっちゃいるけどさ、一応お約束で聞いておいた方がいいだろう。

「いいえ、冬治さんには奏様の執事になってもらいます」

 頭を下げられても頷くわけにはいかないのだ。

「何故ですか」

「それは、冬治さんがお金を欲したからです。お金が欲しい若人わこうどへ……働け、ニート予備軍っ。そして……」

 私たちは―、お金を欲しがる学園生さんをお助けしますっ。

 そんなセリフを廊下に並んだメイドさん達が綺麗な声で発したのだった。

「待て待て待ってくださいよっ。確かにお金は望んだけど……」

「波恵たちは労働力を欲しています。主に、監視……と言う名の学園内での奏様の相手です。何より、冬治さんにはこれがありますからね」

「ん?」

 手渡された書類には大人が見ても刺激的な数字が刻まれていた。

「しゃ、借金の借用書……だと。しかも、名目は『面白半分で青空グループを転覆させようとした』ってどういうことですかっ」

「はい。名義は四ヵ所史峰。つまり、冬治さんのお父様ですね。息子のあたふたする姿を見たくて青空グループを乗っ取ろうだなんて凄い事をする人ですね」

 にこっと笑った表情が怖かった。

「馬鹿な……」

「確認してもらってもいいですよ?」

 波恵さんが嘘をつくとは全く思っちゃいなかった。しかし、親父が借金をしていると言うのもにわかには信じられない。

「ぶっちゃけ、波恵の母さんが裏から手を回して冬治さんをこっちに引きずり込むための道具でしかありませんけどね。この借用書は」

「そういう裏事情は言っちゃ駄目だろ」

「ともかく、波恵たちとしては冬治さんに協力してもらいたいのです。奏様とは仲良くしていただいていますし。駄目ですか?」

「駄目ってわけじゃないけどさ……」

 俺の方も色々とあるんだよ。出来れば、学園であまり目立ちたくないとかね……この辺をどう説明すれば効果的に伝わるだろうと考えていたら相手はとても強引だった。

「では、決定ですね。冬治さんからオッケーもらいましたし、作業班に連絡をお願いします」

「わかりました」

 波恵さんとは別のメイドが携帯電話で何処かに連絡を入れる。腕章には作業員と言う文字が光り輝いている。

「はい、家財道具一式は屋敷の敷地内に在る部屋に移送されましたよ」

「マジか」

「では、参りましょうか」

 何でこんな超展開になってしまったんだろう。もうちょっとだらだらやる予定じゃなかったのか?

 誰かに文句をたれても、現実と言うのは待っちゃくれない。

 両脇をがっちりとメイドに固定された俺は引きずられるようにして軽自動車に乗せられる。

「思ったより、しょぼいんですね」

 年季の入ったシートを撫でる。ざらざらとしていてどことなくいたんでいる。

「いえいえ、これは波恵のマイカーですから」

「免許持っているんですか」

「色々とありますよ。空を飛びたいときは言ってくださいね」

 にこっと微笑まれて俺は恐ろしいものを感じたのだった。

「いっきますよーっ」

 そしてこれまた別の意味で恐ろしい体験を俺は車内で体験することになったのだ。

 でたらめな運転スキルを発揮させた波恵さんに俺の心臓は決壊寸前。バラバラになりそうな四肢を何とか繋ぎとめて車外へと転がり出る。

「し、死ぬかと思った……」

 実際、壁こすったところで走馬灯とやらを初めて体験した気がするぜ。

「さ、こちらですよ」

「あー……」

 くたばりかけの俺とは違い、ぴんぴんしている波恵さんに引きずられていく。階段からは軽く担がれてしまった。

 女子生徒に肩に担がれるなんて男の風上にも置けない存在になりつつある。

「右太ももに当たっているやーらかいこの感触……間違いなくおっぱい。そして、俺の右視界に入るスカートに隠された肉厚なお尻……下衆と呼ばれてもいい、あと五分だけ桃源郷に居させてほしい」

「着きましたよ」

 そして、乱暴に放り出される俺。

「いてっ」

 現実はいつだって非情である。床の味は非常に堅かった。

「奏様、入りますよ?」

 この前来た時は結構ある板と思ったのに気付けば屋敷の中に入っていた。廊下には調度品が置かれていて、金持ちの家と言うのをアピールしまくっている。

「入りなさい」

「失礼します……冬治さん、仕事中はいつものように奏様と話さないで下さいね。では、行きますよ」

「あ、はい」

 スーツと蝶ネクタイを綺麗にし直してもらい、俺は部屋の中へと一歩足を踏み入れる。

 ベッドの上で一人の少女がごろごろしていた……すっごく薄いシャツのような格好で俺は口をあんぐりと開けてしまった。

「波恵、それで新しいお手伝いって言うのは見つかったの?」

「はい」

 この時点でこっちにお尻を向けて足を上下に動かしながら雑誌を読んでいるようだ。

「既にお連れしています。クーデターを謀った人物の身内です。人質みたいなものです」

 何と言う言い草だろうか。そして、そのクーデターとやらの背景がわからない俺は黙って立っているしかない。

「うそっ。ちょっと、来るなら事前に連絡入れてよっ……」

「驚かせたかったので」

「人質ねぇ。どうせ関係ない人でしょうし。もしかしてすっごくダンディーな人を連れてきたの? やるわね、波恵……」

 慌ててベッドから飛び降りて近くにあったカーディガンを羽織った青空は俺を見て動きを止めた。

「……あのね、波恵。最近あたし疲れてるのかな?」

「何故でしょう」

「すっごく、知り合いに見えるんだけど?」

「奏様はお疲れではありませんよ。こちら、本日付で青空奏様の専属執事になった夢川冬治さんです。屋敷すぐ前の詰め所に波恵と母さん共に待機します」

「よぉ、青空。お前部屋じゃそんな恰好を……」

 そんな挨拶をしようとしたら波恵さんから凄く怖い視線を頂きました。

「……こほん、失礼しました。初めまして夢川冬治と申します。このような仕事は初めてですので頑張りたいと思います」

「ふんっ」

 ベッドに置かれていた枕が飛んできたので受け止めておいた。

「奏お嬢様、枕を放り投げるのはどうかと思いますが」

「馬鹿にしてっ。波恵っ、説明して頂戴っ」

「実は冬治さんが奏様の事を気にかけていたのです。黄昏時の教室、奏様の忘れものを取りに行った波恵はそこで『奏の奴、いまいちクラスから浮いているよなー。仲良くしてやりたいけど恥ずかしいしなぁ』という言葉を聞きました」

「ええっ? 俺そんなこと言いましたっけ?」

 素早く波恵さんが俺との間合いを詰めて目の前で、そう、キスできる範囲で……めっちゃ睨みつけられていましたとさ。

「冬治さん、仕事中ですよ。静かにしていてください。その程度じゃ社会に出ても不適応だと言うしかありませんね」

「さ、さすがにそれは言いすぎじゃ……」

「黙っているのも仕事です。ここまできてお金、欲しくないんですか?」

「ぐぎぎ……」

 理不尽に怒られた俺は歯噛みしながら黙るしかない。

「奏様のお友達として冬治さんはまぁまぁだと判断しました」

「今、下されるちょっといいなぁと憧れていたメイドさんからの辛口評価」

 そして、顎に手を当てて先ほどまでの憤りをなくされているお嬢様が一人いる。

「ふんふんなるほど。つまり、まずは夢川と仲良くなればクラスメートと仲良くなれると?」

「何かしら間違った発言をした時に冬治さんがフォローしてくれますから」

「そうね、波恵との契約は学園だと殆ど意味がないし……」

 いつの間にか離れていた波恵さんに顔を向けるが無視されている。これがお仕事モードと言うやつか。

 まるで忍者だ……。

「よし、いいわよ。とりあえずやらせてみようじゃないの。駄目だったら解雇すればいいんだし」

「これからよろしくお願いしますね、冬治さん」

「……はい」

 いまいち納得いかない気がしないでもないな。

 しかし、こうなっては仕方がない。ここは大人しく従っておこう。隙をついて逃げればいいんだし。


第二十話ですね。これもみなさんが読んでくれているおかげでヤル気が出るんですよ。話にはやっぱりコンセプトなるものがあったりします。アイドルは王道で、許嫁は純粋で、金持ちは騎士道的で、メイドは……メイドは何でしょうね。これだけ頭に浮かんだ文章を打ち込んでいくのではなく筋道立ててやっている気がするのですよ。創作物で出てくる何でもできるメイド、というわけでもありません。それは今後の話で追々話していこうかと……。

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