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第十九話:金持ちは金があるから金持ち

第十九話

 明日からテストだから寝よう。

「俺は前日にどたどたするタイプじゃないからな。おやすみー」

 誰に言うでもなく、そう言って寝ようとすると携帯電話が鳴り響いた。油断したところに蹴りを喰らわされたような気持ちになって少しだけもやもやする。

 しかし、そんな感情も改めて着信音を聞いて首をかしげる。

「ん?」

 登録した事のない着信音に体を起こす。

「……青空奏?」

 未だ二つ折りのケータイのサブディスプレイに表示される名前に再び首をかしげる。いつの間に仕込まれたのだろうか。

 それにしても、一体青空が俺に何の用事なのだろう。今日の放課後終わっても一緒に居たのだ。

「……あれってもしかしてデートか? いや、メイドさんをひきつれてデートとは言えないか」

 着信が今だ鳴り響いている中、ついつい色々な物に興味をひかれていた青空の顔を思い出す。

「そろそろ帰らないと駄目ですよ」

「うっ、今ちょうど楽しいところなのに」

「……今日は忙しいですから奏様、お願いします」

「わかったわよ。じゃあね、夢川」

「ああ、また明日な」

 こんな感じのやり取りで別れたのだ。

 もしかして明日のテスト範囲を今更教えてくれとかいうものか?

 いやいや、もしかして今からこっちに来るとかもしれないな。

「もしもし?」

 色々と考えつつ、答えを知るならさっさと出たほうが早いと結論付ける。受話器を耳に押し当てると想像しているような声じゃなくて、切迫していたものだった。

『ゆ、夢川? あ、あたしどうすればっ……』

「おい、どうしたんだ」

『パパの会社が乗っ取られて……そのパパが雲隠れしちゃって……』

「……おちついて事情を説明してくれ」

 海外の企業に買収されたのかと思えば、そうではないらしい。青空奏……ややこしいので奏と呼ぼう。

 奏の父の口添えで奏の叔母と結婚した男性が企業のトップになったそうなのだ。それを聞いて父とは連絡がつかず、全権があちらに委譲したと言う事である。

「でも、親戚なんだろう? 別に悪いようにされるってわけでも……」

『……こういうのは身内の方が厳しいの』

 確執とかあったから、そう言われて俺は視えないだろうけど首をすくめる。

 正直に言って雲の上の話のようなものだった。

 明日からテストだし、放っておこうと心の隅で考える。所詮は住んでいる場所が違うのだ。

『……どうすればいいんだろう?』

「そうだな……」

 不安そうな青空の言葉を聞くとさすがに適当に言うのは憚られた。

 住む場所は違えど、友達は友達だからな。

「青空、住むところは大丈夫なのか?」

 とりあえず衣食住から考えてみることにする。

『……最低限生活できる場所と、お金はあるけど凄く狭い家に入れられてる』

 青空にとって一般家庭は窮屈なところに違いないな。苦笑しそうになりそうになるのを何とか抑えて堅い口調のまま続ける。

「そうか、放り出されないだけましと考えるか。明日さ、学園に来るのか?」

『……うん、今一生懸命段ボールの紐をといて教科書探してるから……いたっ』

「どうした?」

『指切った……』

 それでも一生懸命段ボールを壊している姿が脳内で想像出来た。

 全く、金持ちは本当に何にも出来ないんだな。

「青空の新しい家、どこだ」

『え?』

 ちらりと時計を見て確認する。少しばかり遅い時間帯だが……何とかなるだろ。段ボールから必要な奴だけ取りだせばいいのだ。

 嫌なら帰れと言うだろうし、俺は提案してみることにした。

「そっちに行って手伝うよ」

『お金、ないわよ。手伝ってもお金渡せないから』

「友達割引だから安心しとけよ。初回って事で無料だ」

『じゃあ、お願い』

 ないなら身体で払ってもらうよととぼけてみたかったけど自重しておいた。

 住所を聞いて青空が俺の階の上に来ていた事を初めて知った。まぁ、これなら別に遅い時間帯でも大丈夫だろう。

 階段を駆け上って廊下に立っている青空を見かける。

「ゆ、夢川―っ」

「っと、おいおい」

 そのまま走ってきて俺の胸へと飛び込んでくる。

「い、いきなり黒スーツが部屋にやってきて『ここはもう、貴女の家ではありません』って言われて……」

 ぽんぽんと背中を撫でていつも見かけるメイドさんが近くに居ない事に気づく。

「……波恵さんとかのお手伝いさんはどうなったんだ」

「そのまま。あっちの屋敷に居る」

「ま、なんだ。とりあえずお前の部屋に行こうか」

「……うん」

 普段元気な奴が駄目になると小さく見える。メイドさんをひきつれていたときの彼女からは想像できない程、普通の少女にしか見えなかった。

 正直言って痛々しかった。少しでも見捨てようとした自分を恥じてしまう。

 女の子の部屋に、しかも一人暮らしのところに入るなんて想像もしていなかった。

「引っ越してきたばかりだから何もないな」

「段ボールはあるけど?」

 うん、まぁ、それはおいておくとしよう。

「どれにどれが入っているのかは分からないのか」

「全部向こうがやっちゃったから。あたしはどれにどれが入っているかわからないんだから」

 あたしは悪くないんだからという視線に俺は頷く。

「そりゃーノータッチだからな……まぁ、引っ越す機会があってもやっぱり青空が自分で段ボールに詰めているところを想像できないな」

「む、失礼な。お金があるならちゃんと渡してやってもらうわよ」

「……そうか」

「そうよっ」

 いつもの調子が出てきたようなので俺は段ボールの一つに手をかける。

「じゃあ、適当に開けていいんだろ?」

「お願い」

 念のため軍手を付けてガムテープをはがす。

「うおっ」

「え? 早速あったの?」

「いや、違った」

 ドキドキしながら慌てて段ボールの蓋を閉じる。

 まさか一発目が下着……しかも、凄くセクシーな奴を着けているとはな。

 それからも俺が開ける段ボールはすごくプライベートな奴ばかりだった。ドキドキしっぱなしで大変だった。

 そして最後の一つになってようやくゴールにたどり着いた。

「おい、あったぜ?」

 三十分かけて引き当てた俺は嬉々として後ろへ振り返るとそこには段ボールをベットにして寝ている青空の姿がある。

「すぅ……」

「おいおい……」

 起こそうかと考え、手を止める。

「確か、これだったか」

「んー」

 近くの段ボールからタオルケットを取り出してかけてやることにした。すると少しだけ眉を歪めて口を動かすのだった。

「……パパ」

 可哀想にな、まさかテスト前にこんな事が起こるとは青空の父も想像していなかったのだろう。

「おやすみ、青空」

 返事は無く、俺はそのまま一室から出ようとして手を止める。

「不用心だよなぁ」

 だからといって今から起こすのも可哀想だ。このまま一緒に寝るかと考えて首を振る。それはさすがにまずいだろう。単なる友達の家に寝るわけにはいかない。

 結局、試行錯誤の末に糸を使って外から鍵をかけてみた。

「テレビで見た密室トリックがまさか役に立つとは……」

 鍵がかかっている事を確認し、俺は自室へと戻るのだった。


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