第十八話:許嫁と欠片
第十八話
体育教師が怪我をしたらしいので十月中旬のある日、体育の時間が突然自習になった。さすがに泳ぐには寒いだろうとなと思っていたら水泳になったりする。
「うおおおーっ、羽津学園ばんざーいっ」
「温水プールばんざーいっ」
「怪我してくれた男子教師、ばんざーいっ」
男子どもが更衣室と言う名の教室で奇祭を始める。すっぽんぽんになり両手をあげてジャンプしているのだ。
ここで女子が入ってきたら凄い事になるだろう。2-B男子勢揃いかごめかごめの餌食になること間違いなし。
「おい、夢川ー、お前ラッキーだな」
「ああ、とんだラッキー野郎だ」
「さ、こうしちゃおられんぞ。野郎どもっ、温水プールに突撃だ」
ひゃっはーと叫びながら海水パンツ一丁の連中が廊下を駆け抜けていく。イエローキャップにゴーグルで統一されたもんだからある意味怖いな。
「……あれ? 今一人全裸で駆け抜けて行った奴がいなかったか?」
俺の言葉を聞いている者は誰ひとりとしていなかった。
誰ひとり転倒するものがなく、そのままプールへやってきた男どもは休み時間だと言うのにプールサイドで準備体操を始める。
そして、準備体操が終えると同時に女子が集まり準備体操を始めるのだった。
「おおーっ」
「みたか、あの揺れ」
「すげぇ破壊力だ」
「波恵さんぱねぇっす」
そして、男どもの視線をがっちり捕らえているのは波恵さんただ一人である。確かに、アイドルや金持ちも顔は悪くないんだよなぁ……総合火力は波恵さんの方がおそらく高い。
「しかし、波恵さんは脱いだらあんなに凄いのか……」
俺の独り言に男子全員がこっくりと頷いた。しかし、一人の男子生徒が首をかしげている。
「……そういえば夢川に視る権利はないよな」
「そうだったな」
「え? どういう事だ」
突如として男どもに囲まれて首をかしげる。
「地藤さんでも見とけよ」
「鈴蘭をか?」
男子全員でそちらのほうへと視線が向けられる。
「あ、冬治君だっ。えへへーっ、ちょっと恥ずかしいな」
両手を後ろで合わせてもじもじしている。
「うん、普通あんな仕草をしたら胸が強調されるのにな」
「……そうだな。でもあれはあれで需要があるんだぜ?」
「この教室だと夢川だけだ」
「おい、勘違いしてるみたいだが……俺はボインが好きだっ……お、おいっ、何をするっ」
男子全員が俺を担ぎあげやがった。
「浮気者だっ」
「浮気者はプールに捨てちまえっ」
「鈴蘭ちゃーんっ、夢川の野郎が浮気発言したから捨てておくねっ」
「あーっ」
耳に心地いい激しい音を立てながら、俺はプールに捨てられるのであった。
「もう十月だって言うのに暑いね」
「……そうだな」
先ほどの騒ぎのせいで女子担当の教師に思いっきり叱られた。その後、プールサイドでだべっている生徒の中に俺と鈴蘭はいる。
「鈴蘭は泳がないのか」
「えへへ、泳げなくって」
「カナヅチなのか」
「うん」
こんなに小さいのだからすぐに浮けそうなもんだけどなぁ……まじまじと顔を眺めていると笑われる。
「……もしかして二つの浮き袋がちゃんと膨らんでないからか?」
「と、冬治君? そんなにみられると恥ずかしいよ」
「あ、悪い……って、そこまで恥ずかしがるような事じゃないだろ?」
「水着でも少し恥ずかしいよ」
「風呂上がりは下着でうろうろしてるぜ?」
風邪をひくからやめなさいと何度も注意しているのにまとわりついてくるからなぁ……一生懸命胸を押し当ててくるのに寂しさばっかり俺は感じていたりする。
会話の内容がそろそろ危ない感じになってきたので(女子生徒がひそひそとこちらを見始めた)カナヅチの話に戻すことにした。
「それで、どのくらいのカナヅチなんだ?」
「顔を水につけられない……」
そういえば毎朝顔を洗っているところを見た事がなかった。熱したタオルで顔を拭いているからなぁ……お風呂は大丈夫なんだろうか。
「全く泳げないのか」
「うん、そうだね。冬治君も泳げないの?」
「いや、泳げるぜ」
「じゃあなんで泳がないの?」
可愛い感じで首をかしげる鈴蘭に俺は頭をかくしかない。プールに上がるのを手伝ってくれたのは鈴蘭ただ一人だけだったし他の知り合いは俺の邪魔ばかりしやがった。
ありがとうと言ったまま話をし始めたからな。特に考えてなかった。
「そ、そうだなー……」
鈴蘭のスクール水着も悪くないかなと思っていたのもちょっとある。し、しかしてっ、大人しくそれを言うのは恥ずかしい。
「もしかしてわたしと喋りたかったの?」
「あ、あれだ。鈴蘭と一緒に遊ぼうかと思ってだな」
「ごめんね、泳げないから」
「……そうだ。俺が泳ぎ方教えてやろうか? すっげぇ、うまいってわけじゃないけど教えてやるくらいは出来るぜ」
「え? え?」
少し困惑している鈴蘭をおどかしてやろうと思いつつ、手を引いて俺自身がプールに入ったところで奇妙な感じを思い起こす。
もう少しでプールに引きずりこめると言うところで俺は急になえた。
「やっぱ、やめとくわ」
「そ、そっかぁ、ごめんね」
心底よかったと言う顔をしている鈴蘭に俺はバツの悪い顔を浮かべているはずだった。
「悪いな、無理やり入れようとしてさ」
「ううん。わたしの方こそごめんね」
「わりぃ、ちょっと頭冷やしてくる」
プールから這い上がってため息をつく。何だか居心地が悪くなったので鈴蘭から離れようとすると腕を掴まれる。
「ん?」
「えっと……覚えててくれたんだね」
「何をだよ」
「ううん、今はそれでいいから。えへへ、一緒に話そう?」
腕を抱かれるように先ほどよりも近い距離で話す俺たちを周りの生徒たちが冷やかしてくる。
しかし、そんな事よりも俺はさっきの感じが気になって仕方がなかった。




