第十七話:アイドルと無視の攻防
第十七話
中間テストが近づいてきた十月中旬。
学園祭も並行して……というより、中間が終わったその日のお昼から始まるそうだからここの学園生は大変である。
もっとも、今では俺もその一人なのだが。
「やっぱり天導時さんも学園のミスコン出るの?」
「えっとぉ、さすがに無理かな。事務所に怒られちゃうし」
「そだよねー、出ちゃったら一位確定だから……あ、もしかして審査員?」
「うん、そういう話でまとまってるかなぁ」
そんな十月中旬。アイドルがクラスメートに囲まれているのも日常になりつつあった。そろそろ、転校生と言う垣根も無くなったかな。
「冬治ぃ、昼飯食おうぜー」
「……そして俺の友達と言えば千鶴たんが主ってことか」
あとは男子エーとか男子ビーとかそこら辺だろうな。他人の事を心配している場合じゃないか。
机をくっつけるわけでもない。お弁当を広げて二人で食事を進めていると視線を感じた。
「ん?」
「……」
「どうした?」
俺が周囲を見渡すと同時に異変を感じたのか千鶴も怪訝な表情で俺の方を見てくる。
「誰かにみられた気がしたんだ……ま、どうせ千鶴の事だから被害妄想とか自意識過剰とか言うんだろうけど」
「被害妄想? 自意識過剰?」
言葉の意味を理解していないかのように小首をかしげる千鶴たんの姿を目にして心の中でため息をつく。
「……いや、何でもない。お昼でも食べようか」
こいつ、ここまでアホなんだろうかと首をかしげながら卵焼きを口に含む。今度の中間テスト、俺と賭けしてたけど絶対に負ける気がしない。
「ん? いや、もしかしてさっきのはもしかしてボケだったのか?」
「え? 何がだ」
思いっきり変な顔をする千鶴たんに首をすくめる。
「……あ、単なる独り言だから」
「ボケ? ……お前、その歳でボケてるのか? 若年性アルツハイマー……は、中年からだろうし。残暑で自律神経に影響が出てるんじゃね」
「俺は時々千鶴たんがわからなくなるよ」
友人と一緒にフレンドリーな昼食を楽しんだのだった。時折、視線を感じたものの、気にしないようにした。
五時間目、六時間目と共に視線はやっぱり感じるもので放課後、千鶴たんと下駄箱に向かうと俺は自分の下駄箱を開けて手が止まった。
「どうした?」
既に運動靴を装着した千鶴たんが俺の下駄箱を覗きこんでくる。
「もしかして画鋲でも入ってたか」
「ん、いや……」
「あれ? これってラヴレターじゃね?」
俺より先に面白半分で手紙を引っ張り出した千鶴たんはさっさと封筒を破いて中を確認している。
「よーし、じゃあ読んじゃうぞっ。『夢川冬治さんへ。貴方の魅力に取りつかれてしまったものです。寝ても覚めても貴方の事しか考えられません。今日の放課後、この前逢引したあの場所で待ってます』……だってさ。頭、湧いてんじゃね」
さっきまで面白半分だったのにどこか不機嫌そうな顔をした千鶴たんが俺に手紙をつっ返してくる。
「んで、これどうするんだ」
「どうするだってなぁ……千鶴たんが勝手に読んだもんだろ」
「でも、お前あてのもんだろ? あー、何だか知らないけど読んでて腹がたってきた。おれ、先に帰る」
去り際に冬治のばーかと叫びながら去っていった。周りの生徒が俺と千鶴たんを交互に見ていたりする。
「小学生か」
ため息をついて千鶴たんから渡された手紙を確認する。下世話な男子生徒数人がにやにやしながら俺を見て去っていく。
「……どうせ、いるのはあいつだろうな」
それならば大人しく従う必要もない。俺は手紙をズボンのポケットに突っ込むといつものように学園からまっすぐ家に帰ったのであった。
次の日の朝、いつもより少しだけ出遅れた為、遅刻ギリギリで学園につくと下駄箱の中にまたもや手紙が入っていた。
勿論、確認しておくことにする。
「……昨日は丁寧だったのに何だか雑になってきてるな。内容も『放課後、貴方のツラを貸してくださいませ』っておかしい感じになってるし」
誰に話せるわけでもない。
教室へと向かうといつものようにアイドルとその周りの生徒たちが話をしていた。他の生徒もテスト、そして学園祭が近づいている為かテンションがいつもより高いようだ。
自分の席に近づくにつれ、嫌でも天導時達の話が耳に入ってくる。
「もう、昨日は本当に最悪だったよー」
「え? 何かあったんだ?」
「あったよー。約束してた人が来なくてね、連絡すら寄こさなかったの。本当酷い話だよね」
ちらりと俺の事をみた気がする。
「千鶴たんおはよう」
「おはよう。冬治、数学の宿題見せろ」
「千鶴にノートを書くと落書き帳になるから絶対に嫌だ」
「ケチだな」
「何とでもいえ」
この日もいつものように隣人からの攻撃を受けながら一日を過ごしたのだった。
そしていつものように終わると思ったその日のHRでいつもと違う事が起こった。
「何もないですね? それでは、これで終わりますよ。学園祭とテストが近いですから準備と勉強、がんばってくださ……」
「センセーっ」
勢いよく手をあげたのは天導時だ。クラスメートは何事かと視線を注目させる。
「はい、天導時さん」
「席替えがしたいんですけど」
「席替えですか? えーと、別にかまいませんけど何か理由でも?」
少し戸惑う四季先生に天導時は立ち上がって答える。
「転校してきて私たちもクラスに馴染みました。でも、ほら、机の周りの人としか喋ってない人もいるかなーと」
「それはあるかもしれませんね。十月になりましたし、席替えもいいでしょう。では、多数決で決めます。席替えしたい人は手をあげてください」
この時の多数決は席替えがしたいが大半だった。多分、天導時の近くに席をもっていきたい男子が多いんだろう。そして、他の転校生もレベルが高い……俺を除いて。
くじが作られている最中、何やら隣の千鶴が怪しい動きをしていた。
「何してるんだ」
「不正。全部の数字を書き込んでる」
「いけしゃあしゃあと言ってのけたな」
通用するかどうかは知らないし、おそらく無理だろう。
「おれは正々堂々しているから。お役人とは違うんだ……出来た」
満足そうにそう言ったところで天導時がやってきた。どうやら、言いだしっぺなので自ら動いているようだ。
「はい、夢川君もひいてね」
「……おう」
極力目をあわせないようにくじを引き、次に天導時は千鶴の所へ向かおうとした。
「きゃっ」
「おっと」
足を絡めて前に倒れかかったところでそれを何とか千鶴が受け止めていた。怪我をしたわけでもなかったようで周りからは安堵の声が聞こえてくる。
「おいおい、気をつけろよ」
「ごめんね」
その後は特に何も起こらず、にやにやした千鶴が結果を見ていた。
「……あれ?」
不正をしていたはずの紙がどうやら違ったようで、千鶴がしきりに黒板に書かれていく文字と自分が持っているいくつかの紙を見渡していた。
「っかしいな……まぁ、冬治の前だからいいか。紙が何故だか宝くじになってるし……冬治、やるよ」
「いや、べつにいらねぇけど……」
「はい、じゃあ席替えお願いねー」
四季先生の号令のもと、俺らは素早く場所を移動する。
「よろしく、夢川君っ。お隣だねっ」
そして、俺の隣にはアイドルが、天導時空が笑顔で待っていたのだった。




