第十五話:金持ちの変化
第十五話
人の態度がころっと変わる事はあまりない。
余程関係を変えてしまうような事があれば話は別ではある。しかし、俺の場合はなかったのに転校生である金持ちからやたら声をかけられる事が多くなった。
ところで、転校生ってどの程度の期間使っていい言葉なんだろうか。
「夢川、おはよう」
「夢川はどう思う?」
「悪いんだけど夢川、五百円渡すからマック○コーヒー二本買ってきてくれない? 残りはもらっていいから」
昔は飲めたんだけどね、マック○コーヒー……。いや、今も飲みたいときは飲むけどさ。さすがに二本は無理かな。
コーヒーの品評はともかく、こんな感じなのだ。
ちょうど千鶴たんが俺に用事でもあるようで近づいてくる。
「千鶴たん青空から五百円渡されてマック○コーヒー頼まれたんだけど……それにさ、やたら話しかけられるんだ。何でだと思う?」
「え? 金持ちなのにカードを使ってないところか? 確か購買のおばちゃんからカードは駄目だと説教喰らってたぞ」
「違うっ、夢川が俺にやたら話しかけてくる事だよっ」
「え? お前が手篭めにしたんじゃないのかって噂がたってるの知らないのか?」
千鶴たんの言葉を聞いて俺の頭の中は真っ白になってしまった。
「は? おいおい、いつそんなチャンス……じゃなくて、いつできるって言うんだよ」
冗談を言って俺をからかっているんだろう。そう思っていたら結構マジな顔をして俺の事を見ている。
「この前の肝試しだよ。かなり密着して歩いてたって演劇部の連中が言ってたぜ」
「……密着はしてたと言うか、なんというか……」
腕を絡めてきたのは最初だけで後はあれだ、腰の砕けた人間を背負っていたと言って間違いない。
「そんで、出てきたらベンチで膝枕したって話もある。あの金持ちがそこまでしたんなら間違いはないだろ……まさかお前ら二人がそんな関係だったなんておれはちょっと寂しいぜ」
何だか盛大に勘違いしている千鶴たんにため息をつく。
「膝枕したのは俺の方だ」
「え? お前が?」
「おう。その噂は全くのデマだな。パニックになった青空を連れていくのは大変だったんだ。千鶴たんがついていけばよかったんだよ」
「……それは、やめておく。そもそも用事があって帰らないといけなくなったからな。いやー、残念残念」
噂によると千鶴は『不良がこんなくだらないことに参加できるかっ。用事が出来たし、帰るっ』といって帰ったらしい。
怖いのが駄目な人間のようだし、青空と一緒に行かせていれば気絶して倒れている姿を拝めていたかもしれない。
「そういえば四季先生が冬治の事を呼んでたぜ」
「俺の事を?」
「ああ、早く行ってやった方がいいかも」
その後、職員室に行って自分の担任に会うと似たような事を言われた。
「あ、あのね、夢川君。実は生徒の間でね……夢川君が暗がりで女子生徒を押し倒したと言う話が広まっているんだけど……せ、先生は夢川君の事を信じてるよ? 前に居た女子更衣室に忍び込んだって話も聞いてるけどそっちは理由があったみたいだし」
俺の事を信じているとか言ってどんどん墓穴を掘っていく先生。他人に信じてもらうのって本当、難しいよなぁ。
「……はぁ、ここでも話をしないといけないのか」
不安そうな四季先生を安心させるため、残りの休み時間をフルに活用し……それでもたらず、昼休みに当事者である青空も連れて行くことになったのだった。
「青空、悪いんだけど俺と一緒に職員室に来てくれないか」
事前に噂を聞いているので周りを刺激しないように極力何でもないように装ってみる。
「……やっぱりトイレの個室が初めての場所って本当だったのか」
「おれは妊娠させたって聞いたぜ?」
「おい、夢川と目を合わせるな。あいつ、男も妊娠させるらしいぞ」
「えーいっ、お前らみたいなアホのせいでこっちは説明しにいかにゃならんのだっ」
チョークを投げまくって連中を静かにさせる。
軽い冗談なんだから別にいいだろうと言っている連中を無視して青空と一緒に廊下へと出る。
「悪いな」
「気にしないでいいわ。夢川の頼み事だから。あたしたち親友でしょ? さ、行くわよ」
「親友ねぇ……」
そんなに仲良くなれたのだろうか。
いまいちピンとこない青空の言葉に首をかしげながら彼女のあとを追うのだった。
ともかく、青空の登場であっさりと四季先生のご機嫌は直って疑いも晴れたわけだ。
「やれやれ……」
放課後、黄昏時の校庭を眺めていたら背後に人の気配を感じた。
「冬治さん、今いいですか?」
「あ、はい」
波恵さんに声をかけられ、居住まいを正す。
「なんですか?」
「奏様の事です」
「青空の? ああ、噂ですか。噂は噂ですよ。実際にそう言う事はありませんでした」
メイドとなると噂と言えど放置は出来ないんだろうな。
青空に嫌われるならともかく、クラスのアイドル的存在になりつつある(アイドルは別にはいるものの)波恵さんに嫌われるのは嫌なので彼女の不安は払しょくしておいた方がいいだろう。
「だから安心してください」
「いいえ、噂の事ではありません。青空様について話がしたいのですが」
「青空の事について?」
「はい。違和感があるのではないかと思いまして。妙に話しかけられると感じませんか?」
「……ええ、何だか最近えらく話しかけてくるなぁと」
「今後もおかしなことがあるかもしれません。波恵からのお願いです。青空様の友達になってくれませんか?」
「え? は、はぁ。それはいいですけど……」
「では、お願いします」
俺が何かを言う前に波恵さんは頭を下げて出て行ってしまった。
「……何だったんだ?」
いつもより少しだけ、波恵さんの顔が堅かったのには何かの理由があるのだろうか。
あるんだろうなぁ、それなりに面倒な理由が。




