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第十四話:許嫁との共同生活

第十四話

 許嫁との共同生活が気付けば始まってしまい、鈴蘭と俺の間にはいくつかのルールが作られていた。

「夢川冬治と地藤鈴蘭のルールその一っ」

「他の生徒に一緒に住んでいる事を悟られてはならないっ」

 俺の声に鈴蘭が続ける。

二人で決めたルールがいくつかあるのだ。

「夢川冬治と地藤鈴蘭のルールそのニっ」

「呼び合うときは下の名前っ。ね、冬治君」

「……そうだな、鈴蘭」

「だけど、一緒に住んでくれるのを許してくれるなんて思わなかったよ」

「まぁ、それはしかたない」

 以下、ちょっとした回想である。



―――――



「ちょ、パパ、これどういう事なの? あたい、女の子と一緒に住まわされるなんていっちょん聞かされてなかったんだけどっ」

『……そのノリやめろ』

「これは一体どういう事だい。父ちゃん、許嫁がいたと言うのも初めて知ったんだけど」

『許嫁の事についてはお前も事情を知ったんだろう? 証拠も見せてもらっただろうし』

「うぐ……そ、それはまぁ」

『向こうの方が強いんだ。言う事は基本的に聞いておかないとな。また転校する羽目になるぞ。何せ、家賃を払っているのは向こうだからな』

「え? マジで?」

『ああ、本当だ』



―――――――



 許嫁が嫌だ嫌だと騒いで追い出されるのはこっちである。両親のところに戻るとしたって電車で半日ぐらいかかるし、そこから羽津学園へ遅刻せずに通うのは不可能だ。 

 俺の部屋に居候がやってきたのではなくて俺の方が居候だったと言うわけなのである。

「部屋の鍵は開けておくから、夜はいつでも来てくれていいよ?」

「さーて、晩御飯晩御飯。今日は何を食べようか」

 極力聞かないようにしてフライパンをくるくる回す。

「もうっ、ちゃんと聞いてよ」

「鈴蘭は何が食べたい?」

「え? ハンバーグ!」

「わかった」

 鈴蘭の扱い方は何となくわかった。興味がありそうな話をふればすぐに忘れるような子だ。

「あ、なんだか失礼な事を考えたでしょ?」

「鈴蘭の好きな食べ物って何だ」

「えっと、オムライス、ハンバーグ、海老フライとかかな。旗がついてたら嬉しいな」

 顎に人差し指を当てて応える様子は実にほほえましかった。

 この調子ならいずれ許嫁の話も消えるかもしれない。

「……お子様ランチ、もうその年齢じゃ頼めなくて残念だろ?」

「え? 何でわかるの?」

「今日はお子様ランチを作ってやろう」

「わーいっ」

 こんなのが俺の許嫁だなんて……ったく、神様ももうちょいまともな奴にしてくれればよかったのに。

 作者、ではなく神様に文句をたれても仕方がない。冷蔵庫の中身を確認してお子様ランチが作れないことを知った俺は財布を手に掴むのだった。

「どうしたの?」

「悪い、食材がないから買ってくる」

「ついていっていい?」

「別にいいぜ」

「やったね」

 そういって俺の腕に自分の腕を絡めてすりついてくる。

「えへへ、こうしていると夫婦みたいだね」

「……妹が出来たらこんな感じなのだろうか」

 どうやら、お互いの認識には改めて深い溝がほられているらしい。

「あら、夢川さん。妹さんとお買いもの?」

「がーんっ」

「そして世間は俺が正しいと言う事を証明してくれている」

 これじゃ、学園はともかく近所じゃ噂にもならないだろうな。

 妹さんと言われたのが相当ショックだったのか目的地であるスーパーまで黙りこんでいる鈴蘭を引きずり、歩き続ける。

 スーパーに辿り着いて俺はため息をついた。

「鈴蘭」

「ふぇ? 何?」

「お菓子は二百円までだったらいくつでも持ってきていいから」

「えっ……本当?」

「ただし、俺がレジに並ぶ前までだからな」

「わーいっ。冬治君大好きっ」

 そういってかけて行く後ろを姿を眺めながら改めて思う。

「……一緒に食材を選びながら買い物をするという事もなさそうだな」

 そういうシチュエーションは男だったら好きそうなんだけどな。一緒に食材を選ぶよりも、食玩を嬉々として選ぶ鈴蘭の姿の方が脳内ではっきりと再生できる。

 言っていても仕方がないのでオムライスとちょっとしたハンバーグを入れた後に籠の中身を確認する。

「後は旗と……冷凍物の海老フライは後回しだな。おっと、お子様ランチと言えばプリンだな」

 大きめのプリンにした方がいいか、それとも入らないかもしれないので小さい方がいいのかと考えて俺はため息をついた。

「……この状況にすっごく慣れている自分が怖い」

 まだ初日だと言うのにあっという間に馴染んでしまうのは何故だろう。

 結局、『プリンは別腹だよっ』と言いそうな気がしたので大きめの奴を購入する事にする。そして、レジに並んでも鈴蘭はやって来なかった。

「あいつ、何してんだ」

 レジも順調に進み、自前の鞄に商品を入れてもらって金を払う。完全に遅刻、俺はためいきをついた。

「タイムアップにも気付いてないのか」

 おいて帰るわけにはいかないのでお菓子売り場へと向かうしかない。

「うーん、こっちだと十円オーバーだしなぁ」

 子供に交じるとさすがに目立っていた。しかし、違和感はない。

「何してんだ?」

「あ、冬治君。ちょっと困っちゃって」

 本当に困った顔をする鈴蘭をみて思う。

「……お菓子でここまで悩むなんてこの子は本気なんだろうな」

「え? うん。本気だよ? 十円だけど、甘えるわけにもいかないし」

 つい、口から出てしまっていたので軽く咳払いをする。

「あー、なんだ。今日は思ったよりチラシの品が多かったから。ほら、行くぞ」

「どういう事?」

「……つまり、上限額を十円上げてやると言ったんだ」

「え? いいの?」

「おう」

「わーいっ」

 こんなところで騒ぐんじゃない。周りの子供が凄く眩しい顔をして俺達の事を見てるんだぞっ。

 その場でグダグダ言っているよりも鈴蘭を引きずって俺はレジに向かうのであった。

「おや、お帰りかい?」

「はいっ」

「妹さんもお菓子を買ってもらってご機嫌だねぇ」

「冬治君が買ってくれたんですよっ」

 うわさ好きのおばさんから妹さんと言われても凹まない鈴蘭を見て思う。

「……断言したっていい。この共同生活は長くは続かないだろうな」

 少しばかり期待していたお色気シーンも嬉しはずかしラッキースケベも一発で吹き飛ぶほどの喜びようだった。


人間、握られると弱くなるのがお金です。説教するわけではございませんが、生活資金ほどを握られるとにっちもさっちもいかなくなるのはないものかと思います。握られたことが無い人は一度、握られてみたらわかると思いますがこれはもう、言う事を聞くしかありません。

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