第十二話:メイドも風邪をひく
第十二話
転校生が五人やって来てから一カ月経って、金持ちがメイドさんを連れてくるのもクラスに馴染んでいた。
朝の光景を見る為に集まっていた男子どもは今か今かとその日を待ち望んでいた。
「おはよう、あんたら」
「おはよう金持ち」
「おはよう金の亡……お、おい、いつもいるポジションに居るの波恵さんじゃねぇぞ」
「波恵さんはどこにいったんだ」
九月終わりの週、波恵さんではなく別のメイドをひきつれて教室にやってきた青空に男子達が駆け寄っていった。
「お嬢様お下がりくださいっ」
「な、何よあんたら」
かすかに震えながら、しかし、しっかりと職務を果たしている彼女はメイドさんの鏡である。男子の集団に囲まれる女の子二人って何だか酷い事をされそうな予感がある。
「波恵さんは今日学園に来ていないのか?」
代表して俺が訊ねると睨みつけられた。
「波恵は風邪をひいただけよ」
「なーんだ……じゃないっ。放課後、波恵さんの家にお見舞いに行かねばっ」
「しかし、どこかわからないぞ?」
「青空の家じゃないのか?」
「それで、青空どうなんだ」
このままだと男子が非常にうるさいので再び代表して聞くと両腕をわなわなと震えさせていた。
「あ、あんたらっ、わたしが風邪だった時そんなに騒いでた?」
「騒いでたよー」
「うんうん、騒いでた騒いでた」
「信用できないわね」
金持ちがそういうので近くに居た千鶴たんを呼び寄せる。
「千鶴たん、この前金持ちさんが休みだった時騒いでたよな?」
「え? まぁ、騒いでたな」
「そ、そう。それならいいわ」
「それで波恵さんはどこに住んでるんだ」
「敷地内よ」
満足したのか少しばかり機嫌よくこたえてくれるのだった。
男子連中はさっそくお見舞い品を考え始めたようで財布を取り出し、中身を確認している。
「メロンか」
「いやいや、ここはフルーツ盛り合わせっしょ。メロンが嫌いだったらどうするんだ」
「じゃあ、ここは定番のリンゴかな。持っていったらむいてもらえそうだし」
「お前、お見舞いに行くんだぞ?」
「しかし、メイドさんにリンゴをむいてもらいたいな」
「お金を出し合ってフルーツの盛り合わせを買おうぜ」
話が脱線し始めたのでそう提案すると納得する。
クラス全員から小学を集めた程度とはいえ、それなりの数がいる為にフルーツ盛り合わせも結構いい奴が買えそうだ。
「で、誰が持っていくかだが……」
「病人の部屋に全員で行くのはまずいだろ」
「一分面会で並ばせてもらうか」
「よし、じゃんけんして勝った一人だけがお見舞いに行く事にしようぜ」
一人がそんなことを言いだしてみんなが頷いた。
そして、クラスを代表し俺が波恵さんの家に行くことになった。やったね。
「ちょっと、あんたらわたしが風邪をひいたときお見舞いの品なんて準備しなかったでしょ」
彼女の批判に男子が笑いだす。
「そりゃあ、そうだろ」
「金持ちだって会ったばかりの知らない男子が自分の家にたくさんきたら嫌だろ」
「それは……確かに嫌だけどさ」
「だろう?」
「そうそう、今度金持ちが風邪をひいたらまた今日みたいな感じになるって」
「本当かな……」
不安げにそう言って俺の方を見てくる。普段は周りの意見なんて聞かず、自分の意見を通すタイプってヨイショされると弱いよなぁ。
それはさておき、こういう表情も出来る子なんだなと気付かせてくれたんだ。頷いてやったほうがいいだろう。
「大丈夫だ」
おそらく、こいつらの魂胆は青空のお見舞いが終わったら波恵さんに会いに行けるといったものなのだろう。
「クラスを代表して夢川がおまえん家にお見舞いに行くからよ」
「今日みたいなフルーツ盛り合わせじゃなくて寄せ書きとかな」
「寄せ書きって何だよっ。というか、俺が行くのかよっ」
「だって、お前さっき勝っただろ?」
「あんたが来るの……?ま、まぁ、期待しないでおくわ」
何だろう、その期待に満ち溢れた目は。
その後も四季先生がやってきても騒ぎは収まらなかった。
放課後、俺は青空の後ろ……ではなく、校門前にやってきた黒塗りの車に乗せられて青空の家にやってきた。途中、フルーツの盛り合わせを買わせてもらった……商店街のおっちゃんが青空に『このばななは彼からの奢りさ。つまり、彼のばななだ』といってばななを渡していたのが目障りだった。
車が止まった先には一般人が住むような家なんてあるわけなかった。
「でかっ」
門があって、続く道の左奥に洋館が建てられていた。
華美と言うわけではない、でもお金を大量に使うんだろうなぁと思わせる佇まいは圧巻だった。
「ついたわよ」
「ここが青空の家かぁ……想像してた通り、でかいな」
「はぁ? ここは波恵とか執事の住む場所よ」
「……マジか」
どんだけ人を雇っているのか知らないけど、でかすぎだろ。
青空に連れられて洋館の中へと案内される。
入口から百メートル程歩いたところに波恵さんの部屋はあった。
「言っておくけど、病人なんだから騒ぐなんてもってのほかよ」
「騒ぐかよ」
「どうだか……」
「寝てたらフルーツ盛り合わせを置いて帰るよ」
ここから家まで結構距離あるから出来れば車で帰らせてもらいたいなぁ。
お願いしようかと考えていたら青空は既に扉のノブを掴んでいる。
「波恵? 入るわよ」
ノックをした後に返事はなかったもののそのまま中に入った。寝ているからだろうな。
「……奏様?」
「具合はどう?」
「殆どなおりました」
そんなやり取りを聞きながら俺は辺りを見渡す。大小様々なぬいぐるみが置かれていて小さなテーブルの上には花瓶が置かれている。
「こんにちは波恵さん。具合の方はどうですか」
「え? 冬治さんお見舞いに来てくれたんですか」
「はい。クラスを代表してきました。これ、お見舞いの品です」
さすがにメイド服を着ているわけではないようで薄いピンクのパジャマだった。
それから三十分程度話をしてお暇させてもらう事にした。
「また来てくださいね」
「ええ、また風邪をひいたらお見舞いに来ますよ」
「今度は遊びに来てください」
「え? 来ていいんですか」
俺の言葉に青空が馬鹿にしたような目で見てくる。
「あんたね、既に来てるじゃないの。何で遠慮するのよ」
「そりゃあ、お前さん……クラスを代表してくるのと友達としてくるのじゃなかなか違うだろ。男子にとって女子に部屋へ誘われるのは一つの目標地点であってだな……」
「じゃあ、今度わたしの部屋に来てもいいわよ」
「……丁重にお断り致します」
面倒くさそうだし。
その後、蹴られて屋敷の敷地外に俺は追い出されるのであった。




