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第十一話:金持ち肝試し

第十一話

 羽津学園の演劇部は心優しい人達が揃っているらしい。あと、暇人。

「2-Bにやってきた転校生四人を歓迎したいと思いますっ」

 転校生を歓迎したいだなんて変わった考えである。四人の中に俺が入ってなさそうなのは気のせいかな?

「わたしを歓迎してくれるの? それなら、資金は任せて頂戴」

 そんな心意気を汲んだのか、興味なさそうな感じの青空奏が資金を提供することになった。

「そして結果が学園をホラーハウスにしたのか……何と言うか、アホだな」

 俺達のクラスのためだけに学園が一つのホラーハウスに生まれ変わっていた。

「どうかしら? これがお金の力よ?」

 クラスメートを前にしてそう宣言する青空をみんなが無視してワイワイ騒いでいた。

 演劇部の人が出てきて開始宣言をしようとして、無視されていた青空がシンバルを叩いて全員を振り向かせる。

「ちょっと、お金を出したのはわたしなんだから一番目に行くのはわたしに決まっているでしょう?」

「シンバルだと?」

「一体どこから出したんだっ」

「これが……これが金持ちの成せる技なのかっ」

「いやっ、もしかしてこれは宇宙人が仕組んだ……」

 そこでもう一発シンバルが鳴り響いた。

「これについてはどうでもいいのっ。お金を出したのはわたしなんだから一番先に行かせなさいっ」

 その言葉にシンバル談義をしていた連中は頷く。残りもどちらかと言うと一番手は嫌だったようで彼女が優先されることになった。

「しっかし、あいつは度胸あるな」

 てっきり、ここはおれに行かせろと千鶴が言うかと思っていた。だが、実際は冷静に現実を受け止めているようだ。

「そうか? ただ単に青空は一番に行きたいだけだろ」

「おれは……ゆっくり周りたいぜ。お化け役が疲れていまいち怖くなくなったところを狙……うんじゃなくて、根性を入れておどかしに来るだろうから一番怖いところを狙いたいな」

「もしかして千鶴お前……」

「そこのあんた、一緒に行くわよ」

 怖いのが苦手なんじゃないのか、そんな俺の言葉は青空の接近によってかき消される。

 面食らったのは千鶴だった。

「へ? おれ?」

 素っ頓狂な声を出して自分の鼻を指差している。普段からは想像できない可愛い表情になっていた。

「そうよ。あんたならお化けだろうと何だろうと出ても殴るでしょ」

 資金提供者が忘れないでほしい、今回出てくるのは全員人間だ。もしくは、装置か何かだ。

「い、いや、おれは駄目だ。でも、冬治が是非ついていきたいと言ってるから連れて行ってやってほしい」

 俺の後ろに隠れて青空の前へと押し出してくる。

「千鶴たん、やっぱり怖いのが……」

 千鶴と一緒に入るつもりだったので笑ってしまう。

「怖かったら俺の腕に抱きついていいぜ?」

「だ、だからお前はあいつと一緒に行けよっ。ほらっ」

 尻を蹴りだされて完全に青空の前に出される。

「やれやれ」

「ほら、ついてきなさい」

「はいはい」

 青空が先導し、俺が後をついて行く形になる。てっきり、俺を先行させるものと思っていたから意外と勇気あるんだなぁと感心させられた。

「ぐあああああっ」

「きゃああああああっ」

「うおっ」

 入口に入って一歩目、頭上から降ってきた人間が目の前に落ちてきてその勇気は吹き飛んだようだったが。

「大丈夫か?」

 尻もちをついた青空よりも落ちてきたお化け役に声をかけたつもりだった。お化け役の人は満足したと言わんばかりの笑みを浮かべて動かない。

「わ、私は大丈夫よっ。ほ、ほら、早くこっちきて起こしなさい」

 腰が砕けたのは間違いないな。立てないようなので大人しく支えてやると寄りかかるような形になる。横から俺の胴を抱きしめて右わきから顔を出すようにしている。

「ど、どうかしら? これがわたしの資金の実力よ? 怖いでしょ?」

「……そうだな」

 倒れて動かないと思っていたお化け役の人はトランシーバーに口を近づけて聞きとり辛い程度の声で何かを言っている。

『……上等なかもが来た。全力で怖がらせてやれ』

 その後はもう青空が見ていて可愛そうなくらい恐がっていた。

「きゃあああっ、あ、悪霊退散っ悪霊退散っ」

 そういって万札を投げる投げる。そして、それに微妙に反応するお化けたち。

 五十メートルごとに響き渡る青空の悲鳴は外で待っている他の参加者に恐怖のタネを植えつけて行ったそうな。

「こ、ここって絶対に人体模型が来るわよね」

 理科準備室の扉を開けようとする俺にそんなことを聞いてくる。

「ホルマリン漬けのかえるかもな」

「わ、わたし、かえる駄目なのよっ」

 青空は既に俺に抱きついているのではなく、おぶさっている。猫がびっくりして高いところに駆け上がるのを想像してもらえばいいだろうか。

「くる、来るわよ絶対っ」

「ちょっとうるさい」

 騒いでいる状態で扉を開ける。

 想像していたようなホルマリン漬けのカエルとか、人体模型が出てくる事はなかった。人の気配を感じることもない。

「……おかしいな」

 ひゅっっという音が聞こえてきて俺の頭上で何かと何かがぶつかりぺちっと音をたてる。

 そのまま俺の肩に顎をあてて青空が騒がなくなった。

「青空?」

 そして、俺は青空に当たったものを目にした。

 たんなるこんにゃくだった。後で聞いた話だったけれど、一つ千円する高いこんにゃくだそうだ。

「ここまでですね。お帰りはあちらですよ」

「え?」

 首をかしげて声のした方を見ると波恵さんが手を振っていた。蛍光塗料が塗られているのか、エプロンが発光してみているとぼーっとなってくる。

「途中で気絶してしまったらそこで終わりです。気絶していては楽しめませんから」

「なるほど」

 学園と言う事もあって出ようと思えばすぐに出る事も出来る。波恵さんに先導されることによってお化けたちも成りを潜めているようだった。

 校庭の隅に在るベンチに青空を膝枕してやると数分後に目を覚ました。

「こ、ここはっ……」

「よぉ、終わったぜ」

「終わった……の?」

「ああ」

 よかったぁと心底ほっとした様子を見せたくせに次の瞬間には眉をあげる。

「大したことは無かったわね」

 こんにゃくがぶつかって気絶してたんだぜ?

 あまりにも可哀想だったので強がる青空に俺は相槌を打つだけにしておいたのだった。

「あんた、意外と度胸があるのね。あたしの次ぐらいかしら」

「んー? そうかね」

「そうよ。そこはちょっとだけ自慢してもいいわよ」

 こんにゃくで気絶する人の次ぐらいに度胸があるかぁ……まんじゅうで怖がればいいのだろうか?


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