第十話:許嫁の住まう部屋
第十話
なんだかんだいって、自分の部屋に女子生徒を招き入れるのは嬉しいものである。
しかし、それが自称許嫁になったらどうだろうか?
今回は許嫁の話を聞く為に仕方なく家にあげたものの、相手の出方によっては……。
「ねぇ、何で家の中に入らないの?」
「……待って、今心の中で色々と説明責任を果たしているから」
「もうちょっとかかる?」
「ああ。これから考察が入っていい感じになるはず」
「中に入ってていい?」
「……行こうか」
勝手に家の中にあげて滅茶苦茶にされたらかなわない。俺は説明責任を捨てて自称許嫁を家の中にあげるのであった。
「お邪魔します」
「今、俺自慢のコーヒーを入れる」
「牛乳がいいな」
「コーヒーが当店のお勧めですが?」
「でも、牛乳がいいな」
人様の家に来てメニューをご所望とはいい御身分……とも思わない。それよりもへぇ、牛乳ねぇ……足りない部分を補いたいって気持ちなのかね。
俺の不躾な視線にどうやら気付いたようで笑いながら自分の胸を揉むと許嫁は笑っていた。胸と言うより、まな板だな。
「えへへ、もうちょっとおっきい方がいいよね?」
「好き好きだろ。別にそのままでいいと思うぞ」
「よかった、冬治君小さい胸の方が好きだったんだね」
「いや、大きい方が好きだよ」
「何でそのままでいいと思うぞって言ったのっ」
そらぁ、どうでもいいって思ってますからね……とはさすがに言えないので笑ってごまかしておいた。
牛乳と自分の分のインスタントコーヒーを出してテーブルにつく。
「それで、許嫁の話なんだけどさ」
「うん、そうだったね」
牛乳で白いひげを作っていたのでティッシュで拭いてやると嬉しそうにしている。さすがに台拭きで顔を拭くのは失礼だろうな。
「小さい頃に……」
ははぁ、さては『小さい頃に将来結婚する約束をした』『小さい頃に両親が勝手に決めていた』という良くあるパターンだな。よくあるパターンの割には現実じゃ見かけないけど。
黙ってコーヒーをすすって話の続きを待つことにした。
「小さい頃、冬治君に丸裸にされた上に押し倒されて……その場面だけみたわたしの両親が『責任とってもらおうかっ』と許嫁にしたの」
「ぶほっ」
「きゃっ」
「げほげほ……っ、あ、わ、悪い」
慌てていたので台拭きで顔を拭いてしまったけど、特に文句は言われなかった。
「これが許嫁の真相だよ」
「それ、本当の話なのか?」
でっちあげだろう……そう思った俺に一枚の写真を手渡した。土手で誰かが誰かを押し倒しているような……。
「うわあああっ。おい、そいつをすぐに仕舞えっ。児ポで、しょっ引かれても知らんぞっ」
「え?」
「いいから、早くっ」
「う、うん……」
確かに写真には俺が写って大変な事をしでかしていた。しかし、記憶が……。
「記憶がないのも仕方がないよ。あの時は大変だったから」
頭を抱える俺にそんな優しい声をかけてくれる。この自称許嫁は優しい子なのだろう。
「一番大変なのは俺……ううん、お前の方だわ」
そして、その優しさに付け込んでみるのも悪くはないだろう。
「えーと、水に流すのは……」
「それは無理だよ。わたしにとっては忘れられない記憶だから」
いくら子供にされたからといって、すっぽんぽんで押し倒されるなんて恐怖だろう。しかし、そんな子供が成長した部屋にほいほいあがってきちゃうこの子は……一体どういう神経をしているのだろうか。
「うーん?」
「えへっ」
じっと見つめてみるけど、笑顔をかえされるだけだ。
「ねぇ、冬治君の部屋ってどこ?」
「部屋? あそこだけど引っ越してきたばかりで段ボールしか置いてないぜ」
「じゃあ、お隣さんだね?」
「は?」
言われた意味がわからなかった。
そして、数秒後、ぴんときた。何と言う、べたな展開だ。
「あれ? 冬治君どこにいくの?」
「外だよっ」
短い廊下を駆けだして、素足のまま玄関から外へ出る。引っ越してきてすぐにお菓子をお隣に渡したけれど表札は特に確認してなかった。
「もしかしてっ」
右隣を確認する。山田、とかかれていた。
「じゃあ、こっちかっ」
そして、次に左側を確認する。佐藤と明記してある。
「……あれ?」
確か自称許嫁の名前は地藤鈴蘭だったよなぁ……。
かつがれたのかと思ってアパートの部屋の中に入ると俺の寝室隣の扉が開いていた。お化けが出ると言われていた開かずの扉があけ放たれていたのだ。
「な、なんじゃこりゃああっ」
そこにはピンクを基調とした可愛い部屋が広がっていた。確認されただけでも机、丸テーブル、箪笥が置かれている。
「今日から一緒だよ。えっと、三つ指ついて頭下げるんだっけ?」
土下座をしているようにしか見えない自称許嫁に、俺の時間は止まったままだった。
記念すべき第十話目。今のところ要らない子はいないかんじですね。ちょっと危なっかしいのがメイドです。全く先が見えてこない。メイドという存在が一番異端のはずなのに一番まともに思えてしまうのが要因の一つなのかもしれません。




