表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱テイマーとして見捨てられた俺、前世(戦国武将)に目覚めて未知のバグ職【妖将】となる  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/34

第6話 ギルド本部への連行。エリート探索者たちの嘲笑と、タヌキ親父の観察眼


 早朝の冷たい空気を切り裂くように、三台の黒塗りの大型SUVが静かに走り出していた。

 行き先は、関東全域のダンジョンと探索者を統括する巨大組織――関東探索者ギルド本部である。


 中央のSUVの後部座席。

 太田佑は、両隣を筋骨隆々の特務部隊員に挟まれながら、小動物のように肩をすくめて身を縮めていた。

 折れた肋骨の痛みを隠すために丸めた背中が、図らずも「怯えきった弱者」という演技に真実味を持たせている。


「ひっ……あ、あの……。僕、本当に何もしてないです……。ただ逃げてただけで……」


 佑が震える声で弁明を試みるが、隣に座る白衣の女は全く意に介する様子がない。

 彼女――関東探索者ギルド本部、特別研究室主任である雨宮結衣あまみやゆいは、手元のタブレット端末に穴が開くほどの熱視線を注いでいた。

 画面に映し出されているのは、昨晩の生配信のアーカイブ映像だ。佑がグレイブ・ハウンドの首筋にナイフを突き立てる瞬間が、コマ送りで何度も何度もリピート再生されている。


「美しい……。本当に何度見ても完璧な力学演算ね。関節の可動域、筋繊維の断裂方向、そして何より……獲物の恐怖と混乱を誘発する、この完璧な『怯えの演技』」


 雨宮は恍惚とした溜息を吐きながら、時折、舐め回すような視線を佑へ向けてくる。

 消毒液と、微かに混ざる甘い香水の匂い。目の下にある深いクマと血走った瞳が、彼女の知の探求に対する異常な執着を物語っていた。


「え、演技なんかじゃ……っ! 本当に死ぬかと……!」


 佑は涙声で反論するが、内心では極めて冷静に車内の状況を分析していた。


(……この女、俺の動きが偶然ではなく、計算し尽くされた技術であると完全に見抜いている。ギルドの研究主任という肩書き……魔物やスキルの解析が専門か。厄介な目を持った牝狐だな)


 佑の視線は、怯えて泳ぐふりをしながら、両脇の特務部隊員たちへと向けられた。

 鍛え上げられた肉体、隙のない座り方。現代の基準では「プロ」の部類に入るのだろう。

 だが、戦国の泥濘を生き抜いた将の目から見れば、彼らもまた「平和な時代の兵隊」に過ぎなかった。


(銃器の扱いは長けているかもしれんが、白兵戦の覚悟が足りぬ。左の男は重心がわずかに浮いている。右の男は呼吸が浅い。……本気で殺し合えば、この狭い車内でも三秒で両者の喉笛を掻き切れるな)


 もちろん、そんな真似をするつもりはない。

 佑の目的は、大宮ダンジョンの深層に関する機密情報にアクセスし、姉の呪いを解く特級魔石を手に入れることだ。

 そのためには、目の前の狂気的な白衣の女を利用するのが、最も効率的な『戦術』であった。


(利用できるものは全て使う。この女の狂気も、俺の悪名もな。……存分に騙されてもらうぞ、ギルドの牝狐よ)


 車は静かに滑り続け、やがて巨大な城塞のような建造物の地下駐車場へと滑り込んだ。


     *


 関東探索者ギルド本部の1階、メインエントランスホール。

 吹き抜けになった広大な空間は、大理石の床と、水彩画のように淡く光る魔力照明によって、近未来的でありながら重厚な雰囲気を醸し出していた。


 早朝にも関わらず、ロビーには数多くの探索者たちがたむろしている。

 彼らの多くは、高ランクの証である豪奢な装備に身を包んだ「エリート」たちだった。

 ミスリル製の輝く鎧、巨大な宝石が埋め込まれた杖、見るからに重そうな大剣。彼らは自身の強さを誇示するように、それらの装備をこれ見よがしに見せびらかしている。


 特務部隊の黒服たちに囲まれ、雨宮の先導でエントランスを歩く佑の姿は、そんなエリートたちの間で瞬く間に注目の的となった。


「おい、見ろよあれ。特務に連行されてるぞ」

「誰だ、あの薄汚いガキ? ポーターか何かの底辺職か?」

「……待て。あいつ、昨日の深夜にバズってた動画のテイマーじゃないか!?」

「あ! 間違いない、あの『泣き虫の処刑人』とか呼ばれてる奴だ!」


 ヒソヒソとした囁き声が、次第に大きな波となってロビー全体に広がっていく。

 昨晩の配信は、同業者である探索者たちの間でもすでに大きな話題になっていた。しかし、その反応は一般視聴者の熱狂とは異なり、極めて懐疑的、あるいは敵対的なものが多かった。


「おいおい、ギルドも暇だな。あんなフェイク動画を作った詐欺師を、わざわざ特務が出向いて連行するなんてよ」

「だいたい、魔法も使えねぇテイマーが、Bランクのライカンやオークの群れをナイフ一本で倒せるわけねぇだろ。常識で考えろよ」

「どうせ新手の売名行為だろ。高画質のCGか何かを使って、自分を強く見せたかっただけさ。底辺の考えることは浅ましいね」


 嘲笑と侮蔑の言葉が、容赦なく佑に投げつけられる。

 エリート探索者たちにとって、魔法という「才能」を持たない底辺職が、自分たち以上の成果を上げるなど、プライドが許さないのだ。

 未知の事象を否定し、自分たちの理解できる枠組み(フェイク動画という結論)に押し込めることで、彼らは精神的な優位性を保とうとしていた。


「ひぃっ……ご、ごめんなさい……僕、本当に何も……!」


 佑は周囲の嘲笑を浴びながら、さらに身を縮め、怯えた表情で頭を下げ続けた。

 だが、その前髪に隠された瞳は、エリートたちを一人一人、値踏みするように冷徹に観察していた。


(……やれやれ。どいつもこいつも、派手なだけの鉄屑を着込んで誇らしげな顔をしおって。戦場であんな光り輝く装甲など『私を的として狙ってください』と宣伝しているようなものだ)


 佑の視線が、特に声高に嘲笑している一人の剣士に向けられる。

 燃え盛るような赤い鎧を着込んだ、Cランクパーティのリーダーらしき男だ。


(あの男、鎧の重量に足腰が負けて、歩くたびに重心がブレている。大剣を背負っているが、抜刀するまでに二秒はかかるな。……俺なら、あいつが剣に手をかけた瞬間に、鎧の隙間である腋窩(わきの下)に刃をねじ込んで終わらせる)


 彼らは「モンスターを魔法の火力で吹き飛ばす」ことには長けているかもしれないが、命のやり取りという『殺し合い』の何たるかを全く理解していない。

 戦を知らぬ無知な輩の遠吠えなど、佑にとっては路傍の石ころほどの価値もなかった。


「おい、フェイク野郎!」


 突如、先ほどの赤い鎧の剣士が、特務の隊列を塞ぐようにして前に進み出てきた。

 彼は佑を見下し、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべる。


「あんな合成動画で世間を騙して、調子に乗ってんじゃねぇぞ。お前みたいな底辺職が、俺たちエリートと同じ空気を吸ってるだけで反吐が出る。ここで俺が、お前の本当の『弱さ』を証明してやろうか?」


 男が威嚇するように、背中の大剣の柄に手をかけた。

 周囲のエリートたちが、囃し立てるように笑い声を上げる。


「ひっ!? や、やめてください! ごめんなさいぃっ!」


 佑は悲鳴を上げ、腰を抜かしたようにその場にへたり込んだ。

 怯えきった様子の佑を見て、男はさらに図に乗って嘲笑を深める。


 しかし。

 へたり込んだ佑の体勢は、古流武術における『地摺りの構え』に酷似していた。

 男がこれ以上近づき、わずかでも敵意を物理的な行動に移した瞬間、佑の右足が男の膝蓋骨を完全に砕き割る。その計算は、すでに佑の脳内で完璧に弾き出されていた。


 男が一歩、足を踏み出そうとしたその時。


「――そこまでになさい、三流」


 氷のように冷たい、絶対零度の声がロビーに響き渡った。

 声の主は、佑の隣に立つ白衣の女、雨宮だった。


 彼女は血走った瞳を細め、赤い鎧の男をゴミを見るような目で見据えた。


「私の大切な『検体』に、その汚い手を触れようとしないで。あなたみたいな、無駄な魔力放出しかできない粗大ゴミのデータなんて、1バイトの価値もないのよ」

「な、なんだと……!? てめぇ、研究室のヒラが偉そうに……!」


 男が顔を真っ赤にして怒鳴り返そうとした瞬間。

 雨宮の背後に控えていた特務部隊の黒服たちが、一斉にアサルトライフルの銃口を男へと向けた。

 チャキッ、という冷たい金属音が響き、ロビーの空気が一瞬にして凍りつく。


「特務部隊に対する公務執行妨害とみなします。これ以上の敵対行動は、即時の『物理的排除』を許可されていますが、いかがなさいますか?」


 雨宮が薄い唇を歪め、サディスティックに微笑む。

 その言葉と、自分に向けられた無数の銃口に、男は顔面を蒼白にして後退った。

 周囲で囃し立てていたエリートたちも、慌てて視線を逸らし、蜘蛛の子を散らすように道を開ける。


「……賢明な判断ね。さあ、行くわよ、太田佑くん。こんな知性の欠片もない猿山のことは忘れて」


 雨宮は優しく佑の腕を掴むと、彼を立たせ、最上階へと続く専用エレベーターへと歩き出した。

 佑は「あ、ありがとうございます……」と震える声で礼を言いながら、彼女の後ろをついていく。


(……ほう。ただの研究オタクかと思えば、ギルド内での権力も相当なものらしい。ますます利用価値が高まったな)


 エレベーターの扉が閉まり、ロビーの喧騒が完全に遮断された。


     *


 最上階。

 そこは、一般の探索者が決して立ち入ることのできない、ギルドの中枢『特別研究室』のヒアリングルームだった。


 無機質な銀色の壁に囲まれた密室。

 中央に置かれた金属製のテーブルを挟んで、佑と雨宮が対峙する。

 特務部隊は部屋の外で待機しており、完全に二人きりの空間だ。


 カチャリ、と。

 雨宮が手元のスイッチを押し、部屋の防音とジャミングシステムを作動させる。

 これで、この部屋の会話は外部に一切漏れることはない。


 静寂が部屋を包み込む中、雨宮はテーブルの上に両肘をつき、顔の前で両手を組んだ。

 そして、先ほどまでの庇護者のような態度はどこへやら、蛇が獲物を睨むような、鋭くねっとりとした視線を佑へと突き刺した。


「さて。邪魔者もいなくなったことだし、ここからは二人だけの秘密のお話よ」


 彼女の赤い唇が、ゆっくりと弧を描く。


「もう、そんな無能な豚のフリをするのはやめにしない? ――あなたが、あの美しい殺戮劇を『完全に計算して』行っていたことくらい、私の目は誤魔化せないわよ」


 逃げ場のない密室で、狂気の受付嬢が隠された本性を暴こうと迫る。

 その問いかけに対し、怯えていたはずの佑の表情から、音もなく感情が抜け落ちていく。

 垂れた前髪の奥。底知れぬタヌキ親父の瞳が、ついに暗い光を宿して牝狐を睨み返した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ