表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱テイマーとして見捨てられた俺、前世(戦国武将)に目覚めて未知のバグ職【妖将】となる  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/33

第30話 圧倒的暴力と崩壊する城門。死線ギリギリの攻防と黒死の騎士


 大宮ダンジョン第九階層。

 第八階層へと続く関所の防衛線に、真の『絶望』が降臨した。


 ズン……。ズン……。


 重い、重い足音が響く。

 一歩踏み出すごとに、空間の温度が急激に低下していく。地下帝国の廃墟を包んでいた水彩画のような群青色の魔力光が、ドス黒い氷へと変貌し、岩壁や石畳が凍てついていく。


『ギルルォォォォォォォォォォォッ……!!!』


 身の丈四メートルを超える、漆黒の重装甲。

 兜の奥で揺らめく、氷のように冷たく残酷な青白い鬼火。

 右手に握られた、光すらも吸い込むような巨大な大剣。

 かつて第七階層で投影体ファントムとして現れた時とは、次元が違う。これが、大宮ダンジョンの深淵に君臨する絶対的支配者にして、姉・凛を蝕む呪いの元凶。

 『黒死の騎士ブラック・デスナイト』の、真の本体であった。


 その存在が姿を現した瞬間、世界中で太田佑の配信を見守っていた100万人の視聴者たちの画面から、一切の音が消えたかのような錯覚に陥った。

 コメント欄すらも、数秒間、完全に硬直する。

 画面越しに伝わってくるプレッシャーだけで、心臓を直接氷の刃で撫でられているような、根源的な死の恐怖が世界を覆い尽くしたのだ。


『な、なんだよコイツ……』

『幻影の時とプレッシャーが違いすぎる……。画面見てるだけで息が苦しい……』

『Sランク……いや、特級指定のバケモノだろ!!』

『ダメだ、逃げろ太田ニキ! あんなの人間が勝てる相手じゃない!!』

『早くギルドは特務部隊を送れよ!! 彼を見殺しにする気か!?』


 視聴者たちの悲痛な叫びがようやくコメント欄に溢れ出した時には、黒死の騎士はすでに、佑が構築した『見えざる城門』――限界突破した塗り壁の絶対防壁の目の前へと迫っていた。


「(……来るぞ)」


 佑は狐面の下で、古流武術の呼吸法を用い、極限まで心拍数をコントロールした。

 逆手に握った解体ナイフの柄が、じっとりと汗ばむ。


 黒死の騎士は、行く手を阻む不可視の壁に対して、何の感情も交えない無機質な動作で、その巨大な大剣を上段へと振りかぶった。

 大剣の刀身に、ドス黒い呪いのオーラが渦を巻き、空間そのものを歪ませる。


「(耐えろ、塗り壁……ッ!)」


 ズガァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!


 大剣が振り下ろされた瞬間、鼓膜を物理的に破壊するほどの轟音が地下帝国に響き渡った。

 先ほど、何千というデュラハンの重装騎馬隊の突撃を完全に反射し、傷一つ負わなかった限界突破の塗り壁。

 厚さ数メートルに及ぶ空間の断層が、黒死の騎士のたった一撃の前に、ガラス細工のように無惨にひび割れたのだ。


『……ギルッ!!』


 黒死の騎士の兜の奥の鬼火が、僅かに揺らぐ。

 一撃で粉砕できなかったことに苛立ちを覚えたかのように、騎士はそのまま大剣を力任せに押し込んだ。


 ピキリ……パリーンッ!!!


 限界を超えた防壁が、甲高い音を立てて完全に崩壊した。

 水彩画の黒インクが四散するように、塗り壁の霊子が弾け飛び、佑の足元の影へと強制送還されていく。


「(チッ……! 防壁が一撃で……!)」


 佑は舌打ちをし、瞬時に後方へと跳躍した。

 直後、彼が先ほどまで立っていた石畳が、大剣の余波によって数十メートルにわたって深々と叩き割られ、ドス黒い氷のクレバスが形成された。


 城門が破られたことで、堰き止められていたデュラハンやレイスたちのスタンピードが、再び濁流となって押し寄せてこようとする。

 しかし。


『ギルルルルルルォォォォォォッ!!!』


 黒死の騎士が咆哮を上げると、周囲に凄まじい衝撃波と呪いの冷気が撒き散らされた。

 その冷気は、佑に襲い掛かろうとした味方のデュラハンたちをも容赦無く巻き込み、一瞬にして氷像へと変え、粉々に砕き散らしてしまったのだ。


「(……味方ごとすり潰すか。あの化け物の目に映っているのは、自分の『玉座』の扉をこじ開けた俺への怒りだけ、というわけだな)」


 佑は着地と同時に体勢を低くし、次の攻撃に備える。

 黒死の騎士は、邪魔な味方を自らの足で踏み砕きながら、真っ直ぐに佑へと歩み寄ってきた。


『嘘だろ……あんな分厚い防壁を、剣を一振りしただけで粉砕したぞ……』

『味方すら関係なしに巻き込んでる……純粋な破壊の権化だ……』

『太田ニキの罠が、全く通用してない!!』

『お願い、誰か助けてあげて!!』


 配信のコメント欄が絶望で埋め尽くされる中、佑は冷静に反撃の糸口を探っていた。


「(……力押しでは絶対に勝てない。ならば、搦め手で崩すまでだ。管狐、目眩ましだ! 土蜘蛛、足を奪え!)」


 佑の影から、限界突破して九尾の姿となった管狐の幻影が飛び出し、黒死の騎士の兜の目前で太陽のような強烈な閃光を放った。

 同時に、岩壁や床に張り巡らされていた土蜘蛛の銀糸が、一斉に騎士の巨大な鎧の関節部へと絡みつこうとする。


 先ほどの中層ヌシ『城塞魔獣』を完全に無力化した、必殺のコンビネーション。

 だが。


『――ォォォォォッ!!』


 黒死の騎士は、視界を奪うほどの閃光を意に介することもなく、全身からドス黒い呪いの冷気を爆発的に噴出させた。


 パリパリンッ!!


 土蜘蛛の絶対的な強度を誇る銀糸が、騎士の鎧に触れる前に、呪いの冷気によって瞬時に凍りつき、ガラスのように砕け散っていく。

 さらに、管狐の放つ強烈な光の幻影すらも、大剣の一振りによって発生した『空間の歪み』に巻き込まれ、光ごと真っ二つに両断されて霧散してしまった。


「(……物理的な罠は凍らされ、幻影の光すらも魔力で叩き斬るか。まさに、理不尽の極みだな)」


 佑は狐面の下で、冷や汗を流しながらも、戦国武将としての狂気的な笑みを深めた。

 罠が通用しない。力でも圧倒的に劣る。

 ならば、残された手段は一つしかない。己の肉体を死地に晒し、敵の攻撃を紙一重で躱しながら、その鎧の隙間に刃をねじ込む『白兵戦』だ。


 ズガァァァァァァァンッ!!


 黒死の騎士が、瞬きする間もなく距離を詰め、巨大な大剣を横薙ぎに振るう。

 佑は『無足』の歩法で重心を落とし、大剣の刃の下を滑り込むようにして回避する。

 だが、剣そのものを避けても、その一振りが生み出す衝撃波と呪いの冷気は、周囲の空間ごと削り取っていく。


「グッ……!」


 佑の右肩の衣服が引き裂かれ、皮膚に浅い裂傷が走った。

 傷口から赤い血が滲むが、それはすぐに呪いの冷気によって黒く変色し、凍りついていく。

 一撃かすっただけで、神経が麻痺し、体温が急速に奪われていくのがわかった。


「(……これが、深層ボスの呪い。姉ちゃんは、これよりも遥かに濃密な呪いを直接受けたのか……。よくぞ、生きていてくれた)」


 佑の脳裏に、病室で苦しむ姉の姿がよぎる。

 その瞬間、彼の心の中にあった『痛み』や『恐怖』は完全に消し飛び、純粋な殺意だけが研ぎ澄まされていった。


 ガンッ! ズガァァァンッ!!


 黒死の騎士の猛攻が続く。

 縦斬り、横薙ぎ、そして大地を砕く刺突。

 佑は、8Kドローンのスローモーション映像ですらブレて見えるほどの極限の体捌きで、そのすべてをミリ単位で躱し続ける。

 だが、防戦一方だ。反撃の隙など微塵もない。

 土蜘蛛の糸を放っても即座に凍結され、管狐の目眩ましも通じない。

 徐々に、佑の身体に小さな傷が増え始め、薄汚れたポーターの服が血で赤黒く染まっていく。


『ああああっ!! 太田ニキが血を流してる!!』

『躱してるのに、衝撃波だけで削られてるんだ!!』

『ダメだ、これ以上は持たない!!』

『誰か、誰か助けて!!』

『神様、お願いだから彼を死なせないで……!』


 世界中の視聴者たちが、画面の前で手を握りしめ、祈るように叫んでいた。

 圧倒的な力と知略で、どんな強敵もハメ殺してきた無敵のテイマー。

 その彼が、今、全く歯が立たずに蹂躙されようとしている。

 その事実が、視聴者たちに本物の絶望を与えていた。


「(……やはり、小手先の罠や防壁だけでどうにかなる相手ではないか)」


 佑は、大剣の薙ぎ払いを後方転回で躱しながら、荒い息を吐いた。

 限界突破したとはいえ、中層ボスの魔石エネルギーだけでは、この深層の主の理不尽な暴力に対抗するには出力が足りない。


「(……なら、どうする? 逃げるか? 退いて、ギルドの特務部隊が来るのを待つか?)」


 佑の視線の先、黒死の騎士が再び大剣を高く振りかぶる。

 その背後には、騎士の威圧に恐れをなしながらも、地上へ向かおうと蠢く何万というモンスターの群れが控えている。

 ここを退けば、あの群れが地上に溢れ出す。

 そして、直上にある病院が、姉が、蹂躙される。


「(――笑わせるな)」


 佑は、狐面の下で、血の混じった唾を石畳に吐き捨てた。


「(前世の俺は、守るべきものを守れず、冷たい泥の中で死んだ。その悔恨を晴らすために、俺はここによみがえったのだ)」


 佑は、逃げるために後方へと向けていた重心を、強引に『前方』へと切り替えた。


「(俺の兵法に『撤退』の二文字はない。力が足りないというのなら……持てるすべてを、魂の底まで搾り尽くすまでだ)」


 佑は、震える手でリュックサックの中に手を突っ込んだ。

 そこには、これまで大宮ダンジョンで狩り尽くしてきた、数百個に及ぶ高品質な魔石のストックが眠っている。

 通常、テイマーの使役獣にこれほどの数の魔石を一度に与えれば、霊格が崩壊し、主の精神ごと自壊する危険性がある。

 まさに、自爆覚悟の禁じ手。


「(……いざ狂え、我が兵たちよ。俺の命ごと、お前たちにくれてやる)」


 佑は、リュックの中身――数百個の魔石を、自身の足元の影に向かって、一気にすべてぶちまけた。


 ジャララララララララッ……!!!


 無数の魔石が、水彩画の黒インクのように渦巻く影の中へと吸い込まれていく。

 その瞬間、大宮ダンジョン第九階層の空間そのものが、悲鳴を上げるように激しく震動し始めた。


『……!?』


 その異常な魔力の膨張に、黒死の騎士ですら大剣を振り下ろす手を止め、警戒するように後ずさる。


【致命的なエラー。致命的なエラー。】

【対象妖怪の霊格が、観測不能な領域へと突入しています。】

【テイマーの精神リンクに深刻なダメージ。直ちに術式を解除してください。】


 システムのアラートが脳内で絶叫する中、佑はのっぺりとした狐面を天に仰ぎ、血まみれの口から、戦国武将としての凄絶な咆哮を放った。


「来いッ!! 『妖将』の真の姿を、この絶望の底に顕現させろッ!!!」


 ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!


 次の瞬間、佑の足元の影から、限界を遥かに超えた『巨大な三つの厄災』が、天地を裂くような産声を上げて誕生しようとしていた。

 死線ギリギリの絶望から、戦国の亡霊による『最凶の反逆』が、今、幕を開ける。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ