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最弱テイマーとして見捨てられた俺、前世(戦国武将)に目覚めて未知のバグ職【妖将】となる  作者: ぱすた屋さん


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第20話 罠猟師の独壇場。強敵同士をぶつける「二虎競食」の計略


 大宮ダンジョン第七階層、地下墓所カタコンベの最奥。

 無数に立ち並ぶ苔むした墓標の先には、直径五十メートルはあろうかという巨大な円形の祭壇が広がっていた。


 天井の闇から垂れ下がる巨大なアメジストと黒曜石の混成結晶が、水彩画のドロリとした濃紫と群青を混ぜ合わせたような、悍ましくも幻想的な光を放っている。

 空間を満たすのは、息をするだけで肺の細胞が壊死していきそうなほど濃密な、深層直系の『死の瘴気』だ。


 その祭壇の中央に、『それ』は鎮座していた。


『オオオオオオオオオオオオオオ……ッ!!』


 骨と腐肉、そして何十人もの犠牲者の怨念が物質化したかのような、体長六メートルを超える巨大な異形の魔王――中層の真のヌシである『冥府の処刑者レイス・エグゼキューショナー』。

 ボロボロの漆黒のローブを纏い、その骨の手には、触れるものすべてを腐らせる巨大な死神のデスサイズが握られている。

 深層から漏れ出た瘴気を過剰に吸収した結果、その霊格は中層の枠を完全に踏み越え、Aランク上位に匹敵するイレギュラー個体へと変貌を遂げていた。


「ひ、ひぃぃぃっ……!! お、おっきなガイコツ……!! ダメだ、あんなの勝てるわけないよぉぉっ……!!」


 太田佑は狐面を手で覆い、まるで腰が抜けたかのようにその場にへたり込んでみせた。

 ドローンのカメラが、その絶望的な巨大骨魔の姿と、震える青年の対比を映し出す。


『うわあああああああ!!』

『レイス・エグゼキューショナーの変異種じゃねえか!!』

『あんなのプロのSランクパーティが前衛・後衛ガチガチに固めて挑むボスだぞ!?』

『同接二十二万人全員が確信した。これは流石に詰みだと』

『逃げろ太田ニキ! その見えない守護霊(妖怪)でも、あの鎌の一撃を喰らったら魂ごと消されるぞ!!』


 視聴者たちがパニックを通り越して諦めのコメントを流した、その時。

 祭壇の右側の壁面――空間の断層がピキピキと音を立てて裂け、もう一つの『絶望』が這い出てきた。


『シャァァァァァァァァァッ!!!』


 大気の水分を一瞬で蒸発させるほどの熱波。

 這い出てきたのは、全身が溶岩のような外殻で覆われた、体長十メートルを超える巨大な百足の魔獣『インフェルノ・センチピード』。

 これもまた、空間のバグによって深層の燃える地獄から浅い階層へと強制浮上させられた、別系統のAランク級イレギュラーモンスターだった。


『……は?』

『ボス級のバケモノが……二体同時!?』

『冥府の死神と、地獄の大百足……どんな無理ゲーだよこれ!!』

『ダンジョンのシステム完全にバグってやがる!!』

『もう終わりだ……太田ニキ、せめて最後に美味いもんでも食ってくれ……』


 完全に終わった。誰もがそう思った。

 物理も魔法も通じない死神と、すべてを焼き尽くす溶岩の巨獣。その二体に挟まれた一本道の祭壇。

 だが、へたり込んでいた佑の狐面の下。

 その双眸には、恐怖の欠片どころか、冷徹極まりない「愉悦」の光が宿っていた。


「(……ククッ。ハエが二匹同時に飛び出してきたか。しかも、互いに強烈な縄張り意識を持つ『王』の器。……これほど盤面を動かしやすい戦場ステージもないな)」


 佑の脳裏に眠る太田資正の記憶。

 戦国乱世において、小国であった太田家が、北条、武田、上杉といった巨大な大国に囲まれながらも生き残れた理由。

 それは、大敵同士を巧みに煽動し、互いに喰らい合わせる老獪な計略――『二虎競食にこきょうしょくの計』を誰よりも熟知していたからだ。


「(正面から打ち合うのは三流のやること。一流の軍師は、敵の暴力をもって敵を滅ぼす。……さあ、猟師の独壇場を始めようか)」


 佑は極小の声で、自身の影に潜む最高の乱破らっぱたちへ命じた。


「往け、管狐。三体の幻影をすべて使い、両者の『耳』と『目』を狂わせろ。……土蜘蛛、両者の『足』に不可視の糸を繋げ」


「チィッ!!」


 佑の影から、三体の黄金の燐光が弾丸のように飛び出した。

 管狐の幻影たち。

 一体目の幻影は、死神の骸骨の顔面の真ん前で激しい光を放ち、その視界を完全に奪う。

 二体目と三体目の幻影は、大百足の無数の足元で挑発的な霊波を放ち、その凶暴な脳髄を極限まで怒らせた。


『ヌオォォォォォォォンッ!!』

『シャァァァァァァァッ!!』


 二体の怪物が同時に吠える。

 死神は目の前の鬱陶しい光(管狐)を叩き潰そうと、巨大な死神の鎌を凄まじい勢いで横一文字に薙ぎ払った。

 大百足は足元の光を焼き尽くそうと、口から超高熱の溶岩ブレスを激しく放射する。


 だがその攻撃の軌道は、すでに水面下で張り巡らされていた『土蜘蛛の粘糸』によって強引に変えられていた。

 死神の鎌の刃先は、糸に引かれてわずかに右へとズレる。

 大百足のブレスの銃口は、足首の糸を引かれて正面へと固定される。


 結果として起きたのは、完璧に計算し尽くされた『最凶の正面衝突』だった。


 ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!!


 祭壇全体が消し飛びかねないほどの、凄まじい大爆発。

 死神の鎌が大百足の強固な溶岩殻を深々と引き裂き、腐食の呪いが百足の肉体をドロドロに溶かしていく。

 対する大百足の溶岩ブレスは、死神の漆黒のローブを焼き払い、その骨の肉体をドロドロのマグマで包み込んだ。


『グァァァァァァァッ!?』

『ギチギチギチギチッ!?』


 互いに想定外の致命傷を負った二体の怪物は、目の前にいる「自分を傷つけた相手」を真の敵だと完全に誤認した。

 もはや中央で怯えて震えているはずのちっぽけな人間の存在など、彼らの意識からは完全に消失していた。


『オオオオオオッ!!』

『シャァァァァァッ!!』


 ここからは、怪獣大決戦と呼ぶに相応しい、おぞましいまでの暴力の応酬が始まった。

 死神の鎌が猛烈な速度で大百足の巨体を何度も切り刻み、大百足はその巨体で死神に巻き付き、自らの溶岩の熱で骨を一本一本爆破していく。

 紫の魔力光と赤黒い炎が渦を巻き、祭壇の黒曜石がバラバラに砕け散って宙を舞う。


 その地獄絵図のような破壊の嵐の中。

 太田佑は、祭壇の端の、爆風のベクトルが完璧に相殺される『安全地帯エアポケット』にしゃがみ込み、「ひ、ひぃぃっ! 仲間割れしてるぅぅっ!」と頭を抱えてプルプルと震えてみせていた。


『………………は?』

『えっ、何これ、怪獣映画???』

『死神と大百足が、ガチの殺し合い始めてるんだがwww』

『待て、最初の攻撃の瞬間、太田ニキのキツネが二体の間を飛び回ってたぞ!』

『またあの「不可視の守護霊(死神)」の仕業かよ!!』

『二体のボスの攻撃の軌道を完全に重ね合わせて、同士討ち(ハメ)させたんだ!!』

『恐ろしすぎる……。自分は指一本動かさずに、Aランクのイレギュラー二体を噛み合わせるテイマーとか、どんな悪魔だよ……』

『性格が悪すぎる(最大級の褒め言葉)』


 配信のコメント欄は、あまりにも常軌を逸した戦術の前に、戦慄を通り越して狂ったような笑いと投げ銭の嵐で埋め尽くされていた。

 誰もが絶望した最悪の盤面。それを、ただの「幻惑」と「糸」の引っ張り合いだけで、完全な『自滅の劇場』へと作り変えてしまったのだから。


 ドズゥゥゥン……。


 数分に及ぶ凄絶な共食いの果てに、大百足は全身を腐らせて動かなくなり、死神もまた、大半の骨を融解させて満身創痍の状態で膝をついた。

 両者ともに、残された生命力(HP)は残りわずか一パーセント未満。

 漁夫の利を得るための、これ以上ない完璧な『収穫の刻』が訪れた。


「あ、あれ……? 二人とも、ボロボロになって倒れちゃった……?」


 佑は狐面を傾けながら、ふらふらと立ち上がった。

 そして、足元の瓦礫にわざとらしくつまずいたフリをして、大きく前のめりにダイブした。


「うわぁぁっ!? あぶなーいっ!」


 デタラメに転がったように見える、佑の肉体。

 だがその軌道は、古流武術における『無調律の刺突』そのものだった。

 転がる勢いのすべてを乗せた右手の解体ナイフが、まずは手前に倒れている大百足の、溶岩殻が剥がれ落ちた唯一の急所――脳髄のコアへと、音もなく突き立てられた。


 プツンッ。


 続いて、その回転の慣性をそのまま利用して跳躍し、膝をついている死神の骸骨の胸の奥――赤黒く脈打つコアへと、ナイフの刃先をミリ単位の狂いもなく滑り込ませる。


 カキンッ。


 二つの微かな音が地下墓所に響き渡ると同時に、Aランク級の二体の化け物は、悲鳴を上げる間すら与えられないまま、一瞬にして光の粒子となって霧散していった。


 後に残されたのは、崩壊した祭壇の床に、ゴロゴロと転がる、これまでに見たこともないほど巨大で、圧倒的な輝きを放つ二つの『中級最上位の魔石』だった。


「……」

「……」


 後方から恐る恐る覗き見ていたエリート探索者たちは、もはや声を出すことすら忘れていた。

 彼らが一生を懸けても到達できないかもしれない圧倒的な存在を、この青年は、ただ「すってんころりん」と転んだだけの動作で、二体同時に『解体』してしまったのだ。


「あ、あいたた……。また転んじゃった……。でも、なんか運よくお星様になってくれました……。お姉ちゃんの薬代に、なるかな……?」


 佑はナイフの汚れを払いながら立ち上がり、狐面についた埃をパンパンと落とした。

 そして、その二つの巨大な魔石を、当然のようにリュックの中へと放り込む。


『転んだだけでAランク二体を同時処理wwww』

『ギネス記録だろこんなのwww』

『この死神テイマー、化け物よりよっぽどバケモノだわ』

『「運よくお星様」じゃねえよ!!www』

『同接二十五万人突破!! 世界トレンド1位キターーー!!』


 画面の向こう側の世界が、完全にひっくり返るほどの熱狂に包まれる。

 底辺職の青年が、戦国の兵法をもってダンジョンを完全ハッキングするショーは、今や誰も止められない絶対的な神話へと昇華しつつあった。


 だが、二つの巨大な魔石を回収したその瞬間。

 佑の胸の奥で、前世から引き継いだ『妖将』のシステムが、かつてないほど激しい警告の音を鳴り響かせた。


【警告。対象魔石の吸収により、使役妖怪たちの霊格が限界突破オーバーフローを起こしています。】

【条件達成:大宮ダンジョン深層への『真の門』の鍵が錬成されました。】

【同時に――深層ボス『黒死の騎士』の、あなたに対する『明確な敵対追跡ヘイトリンク』が確立されました。】


「(……ほう)」


 佑は狐面の下で、初めて本物の、獲物を見つけた猛禽のような狂気的な笑みを浮かべた。

 祭壇の最奥の空間が、ドロリとした黒い影となって激しく歪み始める。

 そこに漂うのは、姉・凛の命を奪おうとしている、あの最悪の呪いの気配そのものだった。


「(待っていろ、黒死の騎士。前世の死すらも、今の俺の『罠』の糧にしてやる)」


 世界中が熱狂の渦に巻き込まれる中、太田佑の視線は、中層を超えたその先にある、本物の『深淵』を冷酷に見据えていた。

 

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