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最弱テイマーとして見捨てられた俺、前世(戦国武将)に目覚めて未知のバグ職【妖将】となる  作者: ぱすた屋さん


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第18話 エリートたちの絶望を尻目に。索敵と分断の芸術的スルー


 大宮ダンジョン第六階層。

 ルーン・ゴーレムの残骸が光の粒子となって消え去った後も、古代の神殿跡には重苦しい静寂が漂っていた。


 腰を抜かしたまま動けないエリート探索者たちを背に、太田佑は一人、迷宮のさらに奥深くへと歩みを進めていた。

 彼らのプライドと魔法信仰を物理の罠で完全にへし折った佑の背中は、怯えた底辺テイマーのそれとは思えないほど、静かで、そして巨大な威圧感を放っている。


「(……さて、先を急ぐとしよう。あの鉄屑が落とした魔石のおかげで、手駒たちの霊格はさらに安定した。だが、この先に漂う瘴気は、これまでの有象無象とは訳が違う)」


 佑は狐面の下で鋭く目を細め、ひんやりとしたダンジョンの空気を肺に吸い込んだ。

 微かなカビの匂いに混じって、肺腑を直接焼くような、冷たくて悍ましい気配が濃くなっている。

 それは紛れもなく、最愛の姉・凛を蝕む西洋の呪い――大宮ダンジョン深層に君臨する『黒死の騎士』と同質の匂いだった。


「ひ、ひぃぃ……。なんか、急に空気が冷たくなってきました……。お姉ちゃんの薬、もっと必要なのに、怖いよぉ……」


 ドローンのカメラに向かって、佑はいつものように身を縮め、震える声で泣き言をこぼす。

 だが、その白々しい演技に対する視聴者の反応は、先ほどの圧倒的なゴーレム討伐を経て、完全に「様式美」として受け入れられつつあった。


『出た出た、定期的なビビりアピールww』

『太田ニキの「怖い」は「(敵にとって)怖い」の略だからな』

『エリートたちを絶望させておいて、どの口が言うんだwww』

『でも実際、この先のエリアはマジでヤバいぞ。第六階層の最難関、『大列柱室』が控えてる』

『あそこ、本来は複数のパーティが連携して一時間かけて突破する超激戦区だろ……単独なんて自殺行為だぞ』


 視聴者たちのコメントが警告を発する中、佑の視界がふいに開けた。


 そこは、天井の高さが数十メートルにも及ぶ、広大な地下空間だった。

 何十本もの巨大な石柱が等間隔に立ち並び、まるで古代の闘技場か神殿の中心部を思わせる。

 そして、その広大な空間を埋め尽くすように、おぞましい数のモンスターが徘徊していた。


『ガシャァン……ガシャァン……』

『ギィィィィッ……!』


 全身を重厚な西洋甲冑で覆い、身の丈ほどのハルバードを持った『リビング・アーマー』の部隊。

 さらに、石柱の上部や暗がりに潜み、侵入者を空から狙い撃つ石像の怪物『ガーゴイル』の群れ。

 ざっと見渡しただけでも、その数は五十を下らない。しかも、それぞれが連携して動く知能を持った、中層の精鋭部隊だ。


「あ、あわわわっ! い、いっぱいいるぅぅっ! こんなの絶対ムリだよぉっ!」


 佑は石柱の陰に慌てて身を隠し、狐面を両手で覆って悲鳴を上げた。

 ドローンが上空から大列柱室の惨状を映し出し、視聴者たちも息を呑む。


『うわぁぁぁ、完全にモンスターハウスじゃん!』

『リビング・アーマーとガーゴイルの混成部隊とか、地獄の配置だろ』

『あいつら、互いの死角をカバーし合うから、一匹でも手を出したら全軍がリンクして襲ってくるぞ!』

『さすがの太田ニキでも、この数を全部ハメ殺すのは物理的に時間が足りない!』

『逃げろ! 一旦引いて、ギルドの討伐隊を待つんだ!』


 絶望的な数の暴力。

 正攻法で挑めば、どれほど強力な魔法を持っていようと、魔力切れを起こしてすり潰されるのは明白だ。

 だが、石柱の陰に隠れた佑の瞳には、恐怖ではなく、冷徹な戦術家の演算の光が点っていた。


「(……愚かな。これだけの数を相手に、正面からやり合う必要がどこにある?)」


 佑は足元の影に視線を落とし、酷薄な笑みを浮かべた。


「(戦の基本は、全軍を殲滅することではない。自軍の損害をゼロに抑え、敵の陣地を『無傷で通過』することこそが、最上の兵法である。……無駄な血を流すのは三流のやることだ)」


 佑は腰のポーチから、先ほどルーン・ゴーレムから手に入れた高品質な魔石を取り出し、影の中へと放り込んだ。

 管狐と土蜘蛛が、その強大な霊力を貪り喰らい、主の期待に応えるべく限界までその力を研ぎ澄ませる。


「(往け、管狐。土蜘蛛。……この大軍の目と足を奪い、俺のための『花道』を作れ)」


 シュンッ!


 佑の影から、極小の黄金色の光が飛び出した。管狐だ。

 しかし、その姿は一匹ではない。中層の魔石で霊格を高めた管狐は、自らの『幻影(分体)』を三体まで同時に顕現させることができるようになっていた。

 三つの淡い光が、水彩画の筆が宙を舞うように、大列柱室の全く異なる三方向へと散開していく。


 同時に、佑の足元から『土蜘蛛』の極細の粘糸が、地を這う蛇のように音もなく広がり、石柱から石柱へと幾重にも張り巡らされていく。


『キィィィィンッ!』


 突如、広間の右奥で、管狐の一体が眩い燐光を放ち、甲高い音を立てた。


『!? 侵入者、発見……!』


 リビング・アーマーの部隊の注意が、一斉に右奥へと向けられる。

 彼らが重い足音を立てて右奥へと陣形を動かそうとした、その瞬間。


 今度は広間の左奥で、二体目の管狐の幻影が岩壁に激突する音を擬似的に響かせ、ガーゴイルたちの視線を強引にそちらへと誘導した。


『ギァァァッ!』


 空のガーゴイルと、地上のリビング・アーマー。

 本来ならば完璧に連携するはずの二つの部隊の意識が、管狐の巧妙な分断工作によって、完全に真っ二つに引き裂かれたのだ。

 広間の中央に、ポッカリと、ほんの数十秒だけ生じる『完全な死角』。


「ひぃっ……! だ、誰も見てない! 今のうちに……っ!」


 佑は怯えた声を上げながら、狐面を手で押さえ、広間の中央へと飛び出した。

 ガクガクと震える足取りで、ひどく無様に、フラフラと歩いているように見える。


 だが、その歩法は、古流武術における『無足』の極致だった。

 重心の上下動を完全に殺し、足音一つ、空気の乱れ一つ起こさずに、滑るように空間を移動する。

 ドローンのカメラだけが、その奇跡的なすり抜けの軌跡を捉えていた。


『えっ……?』

『は!? 太田ニキ、ど真ん中歩いてるぞ!?』

『いやいやいや、絶対見つかるって! アーマーがすぐ横にいるじゃん!』


 視聴者が悲鳴を上げた通り、一体のリビング・アーマーが不意に振り返り、佑の姿を捉えようとした。

 しかし。


 ガキンッ!!


『!? 姿勢制御、不能……』


 振り返ろうとしたアーマーの足首が、あらかじめ張られていた土蜘蛛の粘糸に引っかかり、不自然に体勢を崩したのだ。

 転倒しまいと踏み止まったアーマーのハルバードが、横を歩いていた別のアーマーの鎧に激突する。


『敵襲カ!? 同士討チ、警告……!』


 混乱が連鎖する。

 佑は、そのガチャガチャと騒ぐ鎧の集団の真横を、「ひぃぃっ、ごめんなさいぃっ!」と半泣きになりながら、絶妙なタイミングで通り抜けていく。


 上空からガーゴイルが急降下してこようとすれば、土蜘蛛の糸が空中に見えないネットを形成し、その翼を絡め取って墜落させる。

 墜落したガーゴイルがリビング・アーマーの陣形をさらに破壊し、怒ったアーマーが空に向かってハルバードを振り回す。


 佑は一回もナイフを振るっていない。

 魔法も使わず、ただ震えながら歩いているだけだ。

 にも関わらず、彼の周囲数メートルの空間だけが、まるで目に見えない結界に守られているかのように、あらゆる攻撃と視線から完全に隔離されていた。


『………………』

『ウソ……だろ……?』

『あの大群のど真ん中を、無傷で歩いてる……』

『敵が勝手に転んで、勝手に同士討ちして、勝手に道が開いていく……』

『なんだこれ。まるでモーゼの十戒だ……モンスターの海が割れていく……』

『管狐の幻影で視線を誘導して、土蜘蛛の糸で動きを制限してるのか!?』

『いや、それにしたってタイミングが異常すぎる! 一歩間違えれば即死なのに、なんであんなに完璧にすり抜けられるんだよ!』


 配信のコメント欄は、戦慄を通り越し、もはや宗教的な畏怖すら感じさせる熱狂に包まれていた。

 これは戦闘ではない。

 盤面上のすべての駒を完全に支配し、自らのためだけの花道を構築する、芸術的なまでの『戦術の舞』だ。


 その光景を、背後の通路から息を切らして追いついてきたエリート探索者たち――先ほど佑に命を救われたパーティの面々が、唖然として見つめていた。


「バカな……。俺たちが一時間かけて、命懸けで切り抜ける大列柱室を……」

「あんな風に、歩いて通り抜けるなんて……あり得ない。あいつの周りには、俺たちには見えない『不可視の守護霊』でもついているのか……?」


 彼らのエリートとしてのプライドは、もはや欠片も残っていなかった。

 魔法の火力がすべてだと信じていた彼らの眼前で、底辺職のテイマーが、ただの『歩行』だけでダンジョンの最難関を突破してしまったのだから。


「あ、あはは……。なんか、みんな別の方見てて、運よく通れちゃいました……」


 大列柱室の最奥、第七階層へと続く巨大な扉の前に辿り着いた佑は、狐面越しにドローンへと振り返り、オドオドと笑ってみせた。


『運よく(神の如き盤面支配)』

『もうそのセリフが一番怖いんだよ!www』

『サイコパス工場長、今日は「収穫」すら面倒くさくなったらしい』

『戦わずして勝つ。これぞ孫子の兵法……って、テイマーのやることじゃねえ!』

『「見えない守護霊」説、ガチであるんじゃないか?』


 同接数は十七万人を突破し、もはや誰にも止められない社会現象の渦となっていた。

 だが、その熱狂の裏側で、佑の表情は狐面の下でひどく険しく引き締まっていた。


「(……ようやく辿り着いたか。中層の最奥。深層へと続く門の前に)」


 佑の目の前にそびえ立つ、巨大な黒曜石の扉。

 そこからは、浅層で感じたものとは比べ物にならないほど濃密で、絶望的な冷たさを伴った『死の瘴気』が、黒い霧となって漏れ出していた。

 肺に吸い込むだけで細胞が死滅していくような、圧倒的な呪いの気配。


「(間違いない。姉ちゃんの体を蝕んでいる呪いは、この奥から放たれている。……特級魔石は、この門の向こう側だ)」


 佑は震える演技を完全に止め、まっすぐに巨大な扉を見上げた。

 その背中から放たれる戦国武将の覇気が、周囲の瘴気を切り裂くようにして空間を支配する。


「あ、あの……皆さん。この奥、すごく嫌な感じがします。……でも、行かなきゃ。お姉ちゃんのために」


 佑がゆっくりと黒曜石の扉に手をかけた瞬間。


 ドズゥゥゥンッ……!!


 扉の奥から、心臓を直接握り潰されるような、重く、悍ましい衝撃音が響いた。

 それは、空間そのものを揺るがすような、深層の主の『鼓動』。


【警告。異常なマナの波長を検知。】

【対象エリア内の空間安定率が著しく低下しています。】


 無機質なシステム音声が佑の脳裏に響く。

 戦国の亡霊によるダンジョン蹂躙劇は、いよいよ『イレギュラー』が待ち受ける絶望の領域へと足を踏み入れようとしていた。

 

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