数学
数学の時間に、自身が担任を受け持っているクラスの教室にやってきた近藤は、授業の開始時刻になると、何も言わずに黒板に問題を書き始めました。
いくつもの数式を記し終え、てっきり生徒に解かせるのかと思いきや、自分で答えを出していきました。
何だ?
生徒たちは近藤の魂胆がわかりません。
実はそれらの問いは高校生レベルで、中学生の彼らの大半はまったく手に負えない難しすぎるものでした。
けれども大人、何より教師である近藤には、さほどでもありません。とはいえ、中学生の目には「すごい。賢い」となります。
それをわかっている彼は、すべて悩まずにすらすら解答し、しかも全問正解だったことも理解させると、「どんなもんだい」という表情を見せたのです。
でありながら言葉にはせず、しかしそれと誰が見てもわかる、その自慢に満ち満ちた顔つきといったら、非常に鼻につくものでした。
生徒たちは黙ってその屈辱を受け入れました。本当によくできたコたちです。どうか皆さんも彼らを褒め称えてあげてほしいと思います。
そして、近藤はようやく声を発しました。
「よし。じゃあ、きみたちに円周率の覚え方を教えてあげよう」
コホンとそれらしくせきをすると、続けて口を開きました。
「さんてん、いちよん、いち、ごうきゅう」
近藤は「ごうきゅう」のときに右腕で目もとを拭うジェスチャーをしました。どうやら「号泣」とかけているようです。
「では、みんなも続いてな。はい、さんてん、いちよん、いち、ごうきゅう」
またしても「ごうきゅう」のタイミングに右腕で目を押さえました。そのポーズも同じようにやれということのようです。
「さんてん、いちよん、いち、ごうきゅう……」
生徒たちは引きながらも近藤をマネてやりました。
「アハハハハハハッ」
近藤は、自分でやらせておいて、生徒たちを指さして馬鹿にしたように笑いました。
そうして、アホ丸出しな数学の授業は終わったのでした。




