体育
体育ということで、校舎からグラウンドに出てきている生徒たちを、のっしのっしと体育教師らしくたくましさを思いきり漂わせて歩いてきた近藤は、男女ともに集合させて、偉そうに言いました。
「今日行うのはサッカーだ」
「へー、サッカー。ずいぶんとメジャーでまともなものをやるんだな」と子どもたちが思ったのもつかの間、近藤は着ていたジャージの上下を派手に脱ぎ捨てて、一人だけバリバリ試合用のユニフォーム姿になったのです。
今の時代にしてはパンツの丈がかなり短いのが目についたのですが、しかも、それはただのユニフォームではありませんでした。
「わかるかい? この格好が」
「は?」
生徒たちは小首を傾げました。
「比良戸中のものだ。つまり、私は次藤くんなのだよ、次藤洋」
漫画好き、とりわけ上の世代であれば、その名前にピンとくる人も多いことでしょう。近藤は、ちびまる子ちゃんの担任の先生のような容姿でありながら、キャプテン翼のキャラクターである次藤洋に憧れているのでした。
試合を始めると、その次藤くんがするように、しゃべる際は語尾に必ず「タイ」とつけ、相手チームの選手をなぎ倒さんばかりにパワフルなディフェンダー役をすこぶる張り切って演じてプレーしました。
「行けタイ! 佐野!」
前線にパスを送るときは、原作での次藤くんの相棒のフォワードのキャラを意識して、そう叫ぶのです。
俺は佐野じゃねーよ。
ボールをもらうコは皆、心の中でそうツッコんだのでした。
さらに近藤は、一息つくと、こんなことを言いだしました。
「よーし、じゃあ、海外編で見せた、次藤くんが立花兄弟を片足ずつに乗せてジャンプさせて兄弟二人が同時にシュートを放つ、スカイラブツインシュートをやるからな」
「え?」
原作を知ってるコたちはその発言に驚きました。なぜならそれは、現実には到底不可能な、漫画ならではの技だからです。
けれども近藤は、長年の夢だったのか、ゆっくりですし、何人もの生徒に黒子役をやらせながらも、一応それらしくできるまでずっとやり続けたのでした。
そして最後に、過去のトラウマなのか、こう言い放っていきました。
「いいか、遊びでやってるサッカーなのに、『半スローだ』なんて絶対に口にするんじゃないぞ! せっかく楽しんでいたのに、テンションがガタ落ちになるからな!」
いやいや、あんたの指導を受けているせいで、こっちのテンションは毎日ガタ落ちさせられっぱなしだよ。
生徒たちは胸の内でそう反論したのでした。




