45.再びの戦火
全員が己の脚で帰還すると、サリはすぐに上長への報告へと走った。
帰りを待っていたオルウェンとともに全ての軍を束ねるオリバー総軍長を訪ね、息継ぎをすることを忘れてしまう程に用紙を指差し体を使って出来事の説明を行う。
「…今回の作戦で得た情報はこれで全てです。」
「なるほど、これは非常に頭が痛いな…」
「悪魔が教会を復興すれば、大きな恨みを持った我々へ報復へからでしょう。
そして、犠牲になるのは力を持たない市民達です。
その前に再度の壊滅と、可能な限り戦力を削ぎたいのですが…」
「……
頭が痛いのは悪魔の事もそうだが、お前の事に対してもだ、サリ。」
「……
…勝手な真似をしてしまい申し訳ありませんでした…
オリバー総軍長にも、周りの者たちにも心配をおかけしてしまいました。」
「だが、まあ、今に始まった話じゃないな。
どうせオルウェンの働きだろう?」
チラリとオルウェンに視線を向けると、ピシッと伸びていた背筋が更に伸びる。
筋でも切れてしまうのではないだろうか。
場の空気を支配するような貫禄を持つオリバー総軍長は、サリやオルウェンが新人だった頃に前線で指揮をとり剣を振るっていたお方だ。
訓練では容赦なく投げ飛ばされ、何度も怒鳴られ、夜な夜な同僚の新人たちとオリバー総軍長の悪口大会をしていた事が昨日の事のように思い出される。
「サリが街を出たと聞いた時は驚いたが、それよりも許可が出たことの方が驚きだったがな。
繋がり的にオルウェンしかいないだろうと思ったさ。」
「いやあ、全てお見通しだったのですね…」
「いつからお前達のことを見てきたと思っている。
…だが、この話は後からじっくりしよう。
今は悪魔についてだ。」
「…はい、ウォルデ元帥もそもそもご到着される頃です。」
「ああ。
今までにない戦が起こるかもしれないな…」
会話が途切れて沈黙が訪れたタイミングで、ガチャリと重々しい扉が開く。
ブーツが床を叩く音だけが鳴り響き、3人の人物が入室する。
左右の護衛、その中心にいる方こそが、この国の軍隊に関する全ての指揮権を持つウォルデ元帥だ。
「待たせたな。
何が起こったのか、何が起ころうとしているのか、詳しく聞こう。」
起立をしている背筋に一筋の汗が流れる。
緊張なのか、先ほどまでの全身を使った状況説明の火照りなのかは分からない。
大きな会議テーブルは端に追いやられ、丸テーブルが部屋の真ん中へドンと用意される。
全員でそのテーブルに置かれた何枚もの用紙を囲み、再度サリがこれまでの出来事を説明していく。
ニールから通信鳩が届いたことから、自身も現場へ向かい目にしたもの、仲間達に起こったことを頭の中で思い出しながら喋り続けた。
「そうか、1人悪魔の能力に…」
「はい、ノウマスと言う青年です。
対象の悪魔を始末した事によって能力は解け、引き続き任務へも参加し無事に帰還しています。
現在も体に異常もなく良好です。」
「それは何よりだ。
任務に出て己の足で帰ってくることができない者も多い中、大きな被害もなく全員で帰って来たことは喜ばしい。
皆が頼もしいと言うことだ。」
「ウォルデ元帥からそのような言葉をいただけるなんて、皆喜ぶでしょう。
…そして、最大の脅威は悪魔が教会を再建している事です。」
「ああ。
あやつらはクルォール・クリスタルを祀り力を得ている。
完全復活となれば、容赦ない報復が来るだろうな。」
「前回と同様、奇襲作戦ですか?」
「いや、偵察時に悪魔と出くわしているのなら向こうも警戒を強めているのではないかな。
……オルウェン、お前ならどうする?」
「は、はい。
私なりに考えてはいるのですが、まだ…」
急に話を振られたオルウェンが、申し訳なさそうな顔で返答する。
今や軍の頭脳として信頼の厚いオルウェンだが、現時点で有効とみられる作戦は思い浮かばないらしい。
何にせよ、早期に乗り込まなければ今この時間も悪魔は力を取り戻すべく動き続けているだろう。
そうなる前に叩き潰さなければ…
飲み込んだ唾が妙に熱く、ゆっくりと喉を通り抜けた。
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数日後、再度集められた上層部の面々。
重苦しい空気は相変わらずで、テーブルに広げられた用紙にはびっしりと図や文字が書かれてあり、人員の配置である色のついた駒が置かれている。
「さて、どうしたものか…」
最初に口を開いたのはウォルデ元帥だった。
駒の1つをつまみ、図の上をなぞって置き場を探している。
その動きが止まると、自身の手の中に駒を握りしめてしまう。
「オルウェン、お前はどう考える?」
「はい、3通りを順にご説明いたします。」
大きく肩を揺らしながら前に出たオルウェン。
いつもの柔らかい表情はどこにもなく、真剣な眼光で駒を配置し、口を動かす。
作戦の説明中、周囲から「おお…」と賛同なのか困惑なのか、小さな声が時折あがる。
確かに、この内容は今までのオルウェンらしくない。
非常に大掛かりで、そして大胆だ。
「私らしくないと思われることでしょう。
しかし、一時的に弱体化しているこの状況を逃す訳にはいきません。」
「……この方向性は間違っていないと思います。」
思わず言ってしまった。
周囲の視線が一気に私へ向けられ、次の言葉を待つかのような沈黙が流れる。
「…悪魔も警戒を強めていると予想されます。
大掛かりになっても確実に復興を阻止できるのであれば、前向きに検討ができればと…」
じわりと頭皮に滲む汗を感じながら言葉を続ける。
だが、そんな私の緊張とは裏腹に、場の空気は思いのほか軽く感じた。
「ああ、むしろこの程度で向かわなければならない事態だろう。
出し惜しみはするべきではない。」
空気が軽く感じたのは、誰も反対的な思考を持っていないからだった。
そして、オリバー元帥の後押しで各々の意見の出し合いが盛んに行われ始める。
「サリさん、オルウェンさん、こちらに対してどう考えられますか?」
同僚に声をかけられ、会話の輪の中へ入っていく。
誰1人仲間を失う事のないよう、我々で皆を導こう。




