44.花弁が落ちる先④
「サリ部隊長!
無事でよかったです!」
「お前達こそ、無事でなによりだ。」
しばらく進んでいる内に景色が変わり、見覚えのある場所にたどり着くことができた。
寿命なのか、災害があったのか、朽ちて折れた鋭い裂け目を空に向かって伸ばしている大木は目印代わりに記憶していた物と同一だ。
日の高さや己の記憶を頼りに進み、どうにか合流できたことは喜ばしいが、必死に草木をかき分けて走った火照りの汗は、一瞬にして緊張の汗に変わる事になる。
しかし、合流を喜ぶこの空間でそれを知るのはニールとノウマスのみ。
「大きな怪我もせずよく戻ってきた。
小休憩を挟み、拠点へ急ごう。」
パンパンと膝に付着した土汚れを払い、襟を正すサリ。
そんな様子を見て、他の仲間たちもササッと身嗜みを整えて装備の確認を行う。
ニールがノウマスへ目線を送ると、バチっと視線がぶつかった。
コクンと頷く動きを確かめると、口を開く。
「サリ部隊長、その前に重要な報告をさせてください。」
「…何かあったのか?」
「はい、俺とノウマスで悪魔の新しい根城と思われる建物を発見しました。」
「何だと…?」
「仮設小屋のような粗末な建物でしたが、その中にクルォール・クリスタルを運び入れている様子を目撃しています。」
「ノウマス、これは間違いないな?」
「はい、ニールと同じくこの目で確かめています。」
一瞬にしてその場は緊張で重い空気に変わり、火照りを抑えるように、緊張を抑えるようにゆっくりと深く息を吐いた。
そして、先ほど見た光景を思い返す。
あの教会とは程遠い、有り合わせの端材で建てたであろう小屋に運ばれて行った赤く輝く石。
吸い込まれそうだと感じたほどの赤色が目に焼き付いている。
「…非常にまずいかもしれないな。」
小さく呟くサリの声に、あの深い赤色がスッと消えた。
眉間に皺を寄せ、どこか遠くを見つめながら何かを考えている様子だ。
「ニール、ノウマス、その悪魔の新しい拠点の位置は把握しているか?」
こちらに視線を戻すと、サリは悪魔の拠点について聞いていた。
「はい。
走り書きではありますが、道中で目印になるようなものなどを紙に記録してあります。」
「もう一度その場へ行けと命じれば、ここからどの程度かかるだろうか。」
「恐らくですが…
1時間程度ではないかと。」
「よし、わかった。」
悪魔の拠点について確認をすると、サリは辺りを見回して近くの木に触れたり足で地面を軽く掘るなどをしている。
不思議な行動が終わると、チームへ向き直り口を開いた。
「この話、全員聞いていたな?
まずはこの場をしっかりと記憶してほしい。
木の種類、感覚、何でもいい。
そして、ここを覚えたら拠点へ戻るまでの道筋もだ。」
サリの謎の行動は場所の記憶だったようだ。
1つの木にガリッと獣の爪痕のような線を残すと、改めて周囲の景色を見て回っている。
その行動に倣い、各々が辺りを見回し用紙に記録をしていく。
悠長にスケッチをしている余裕はなかった。
「通信鳩もない今、やるべき事はこの情報を確実に持ち帰る事だ。
早急に拠点へ戻り帰還しよう。」
「「はい。」」
全員揃っていることを確認すると、拠点へ向かって移動を始める。
道中でも変わり映えのない景色の中から目印になり得るものを探しながら歩いていく。
「ノウマス、大丈夫か?」
「…ああ、何でもない。」
ふとノウマスの姿が目に入った時、左手を開いたら握ったりを繰り返している様子が見えた。
そして、その手をさすって顔をしかめている。
「もしかしてさっきの事を…」
「いや、違う。
大丈夫だ。
間違ったことはしてない、だろ?」
「…うん。
そうだな。」
悪魔の子どもの事を思い出していたのだろう。
顔面を掴んで叩きつけた所だけで見れば非情かもしれないが、相手は悪魔だ。
あの子どもも成長すれば自ら人間を襲い始める。
そうなる前に対処しなくてはならない。
ここで子どもだからと見逃せば、今後の自分達や大切な人が傷つく事になってしまう。
だから、情など必要ない。
…拠点へ戻ったら、子どもの悪魔を攻撃するも確実に殺した事を確認できていない旨もサリヘ伝えなくては。
そして、次こそは殺ってみせる。
「なあ、ニール。
次はもう迷わないよ。」
ノウマスも同じくあの悪魔の子供のことを考えていたようだった。
もう迷わないと告げる目は、真っ直ぐこちらを捉えていた。
「当たり前だ。
信じてる。」
「任せろ。
新しい拠点を叩く時も呼ばれる筈だし、もう自分に負けない。」
「ヴァロンもジェムも俺もいる。
みんなで勝とう。」
「おう!」
やっとノウマスの笑みを見れた気がした。
悪魔の能力に支配され、逃げた先では悪魔の新しい拠点を目撃し、妹と重なるような子どもの悪魔に出会してしまう、何とも濃くてストレスの大きい時間だった筈だ。
それでも任務は終わらないし、折れている暇もない。
今やるべき事は、ひたすらに同じような景色を何度も見直しながら、全員で拠点に向かって進んで行く事。
結構な時間が経ち、残してきた仲間達だって心配しているだろう。
頭の中が木・土・枯葉の茶色で埋め尽くされそうになりながらやっと思いで拠点へ辿り着き、息つく間もなく撤退を始めた。




