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42.花弁が落ちる先②

拠点へ戻るために森の中を進んでいた時、妙な気配を感じた。

木の影に身を潜め、周囲を警戒しながら少しずつ進んで行った時、ニヤリと怪しげに笑う男の悪魔の姿が見えた。


「……ニール…」


「…ああ。

まずいな…」


悪魔の目線はサリを捉えており、緊張で張り詰めた空気に呼吸が浅くなって行くのが分かった。

手にはじわりと汗が馴染み、食いしばった歯が唇の甘皮を千切る。


ノウマスと2人であの悪魔に挑むべきだろうか。

サリの後ろに控えている仲間が行くのか。

悪魔とサリへ目線を行ったり来たりしながら考えを巡らせる。


自分たちが行くかとサリを見た時、目が合った。

声は発さずに口を動かし、指で遠くを指している。


に   げ   ろ


サリの口は逃げろと言っているのが分かった。

そして、指を刺している方向へ向かって逃げろと言うことだろう。


二手に別れた体制でこちらはノウマスと2人、サリには3人の兵士がついている。

1人の悪魔に4人であれば、明らかにサリ達が優勢だろう。


しかし、目の前に悪魔がいるのに背を向けて逃げてもいいのだろうかと迷いが生じていたとき、またサリと目が合った。

こちらを鋭い目で睨みつけ、早く行けと圧をかけている。


いつまでも隠れている事に痺れを切らした悪魔が、サリがある方向へ向かってゆっくりと躙り寄り始めた。

更にサリの目つきは険しくなる。


…サリなら大丈夫だ。

指示に従うのが今やるべき事だ。

そう信じ、サリが指さしていた方向へ足を向ける。


「かかれー!!」


大きな声とともに仲間が飛び出して行く。


「ニール、行くぞ。」


「…ああ。」


戦闘の声を背に、ノウマスと共に走り出した。





---------------






「はあはあ…

サリ軍隊長は逃げろって行ったけど、どこまで行きゃいいんだ…」


「はあ…っ

分からないけど、大分走ったからいいと思う…」


しばらく走ったが、変わり映えのない森の中の風景が感覚を狂わせる。

身を隠しながら素早くその場を離れると言う無茶な動きは、一気に体力を削られた。


「何か目印になるような物でもあればいいんだけど…」


「…無理だと思う。」


「だよね…」


あるのは木と草と土だけだ。

色で言うと緑と茶色。


それでも再度サリと落ち合うため、身を潜みながら動き出す。


「…ニールッッ

あれ、あれ見て…」


目を見開いたノアマスが肩を強く掴む。

ギュッと力の入った指が食い込み、痛みを発する。


「ノウマス痛い。

大きい声は出せないんだから気をつけてくれ。」


「すまない…

でも…あれ、やばいって…」


ノアマスが焦りが移り、思わず鼓動が早くなっていく。

何があるのかと視線を負けて飛び込んできた光景は、ドクンと心臓を強く打たせ、一気に体が熱くなるのを感じた。


それは、1人の悪魔が太陽に照らされてキラキラと赤く輝く大きな宝石を抱えて歩いている様子だった。


…クルォール・クリスタル


悪魔が祀る宝石で間違い無いだろう。

その宝石を抱えた悪魔を目で追っていくと、小さく粗末な小屋の中へ吸い込まれて行った。


あれは何だ?

なぜ長さも揃っていない木の板が打ち付けられ、並行すら保っていない小屋にクルォール・クリスタルが運ばれている…?


「…新しい教会ができるまでの仮設的なやつかな。」


「そうか…

教会を復興させるのは間違いない…」


ノアマスの一言で悪魔の行動の意味を理解した。

あれは新しい教会ができるまでの仮設小屋で、やはり悪魔たちは建て直すのだと。


しかし、ノウマスと2人でここから飛び出す訳には行かない。

まずはどうにかこの場所を記録し、戦力を持って改めるのが最善だ。


サリと別れ地、走ってきた方向を必死に思い出しながら紙に書き溜めていく。

ゴツゴツとした砂利の上で滑らす筆先は、ひどく歪み所々筆が紙を突き刺した穴が空いている。


それでも必死にこの場所を忘れないように、絵と文字をつかって紙いっぱいに現在地を示す。


「よし、サリ軍隊長と落ち合おう。」


後から見返して正確に読み取れるかは分からないが、どうにか書き終えることができた。

急いで紙と筆を片付けると、すぐに移動を始める。

悪魔も誰もいない今が、思い切り立ち上がって走れる瞬間だった。


「ノウマス、付いてきているか?」


後ろを振り返った時、すぐ近くにいるはずのノウマスの姿が見えなかった。


「ノウマス?」


念の為身を屈め、草を掻き分けながらノウマスを探す。

しかし、報告しなければとの気持ちが高まり過ぎて、1人で走ってしまったようだ。


「ニール、ニール。」


「お、おい…」


小さく名前を呼ぶ声が聞こえ、草の中から頭を出して姿を探すと、先ほどいた場所のまま移動していないノウマスかいた。

やはり、1人で先走って置いてしまったのか。

一気に申し訳ない気持ちが沸き、周囲を確認してから立ち上がって木の影から確認した時、思わず声を貼りそうになってしまった。


「ノ、ノウマス!」


なぜか、ノウマスの腰の高さ程の子どもの悪魔が服を掴んで辺りをキョロキョロ見渡していたからだ。

顔を左右に振るたびに、悪魔の象徴である赤いピアスが太陽に反射して眩しい程に輝いている。


この子どもは、ノウマスの服を掴んで人間を捕獲した気にでもなっているのだろうか。

下手に刺激して大人を呼ばれても困る。


緊張で強張った顔のノウマスと目が合い、殺れと言う意味を込めて手で切るジェスチャーを送った。

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