41.花弁が落ちる先①
「皆、大きな負傷もなくよく耐えてくれた。
これより、俺が直接指揮を執ろう。
どうか付いて来てほしい。」
通信鳩を飛ばした数日後、10数人の兵士とともにサリが拠点に現れた。
てっきり仲間の兵士達を増援として派遣してくれると思っていて、予想外にも程がある。
「サリ軍隊長…なぜ…」
「言っただろう。
俺が直接指揮を執ると。」
「しかし、サリ軍隊長がこんな前線に立って何かあったら…」
「ニール、お前は俺がこの任務で死んでしまうと?」
「い、いえ!そんな事など一切思っていません!
ただ、軍隊長として前線に来られるとは思っていなくて…」
「そうだろうな。
驚かせてしまった。
最近の悪魔の異常な動き、ニールからの報告書、今までにない出来事が起こるのではないかと予想している。
前例の無い事態に現場も見ず、頭の中だけで考えてああしろこうしろと口だけ出していても、戦力は削られていく一方だろう。
この目で直接見なければ、俺は口だけの無能になってしまう。」
「サリ軍隊長…」
「共に戦い、考え、悪魔の狙いを潰し、平和を守ろう。」
「はい!
とても心強いです。」
「早速だが、改めて報告書に書いてあった事について詳しく聞かせてくれ。」
「もちろんです。
順に説明させていただきます。」
予想外のサリの登場だったが、増援がサリだったからこそ、これからの戦況が見えなくても何故か大丈夫だと思えるほどにホッとした。
これまで以上にそれぞれの部隊との統率もとれ、個々も動きやすくなる事だろう。
「なるほど。
それでノウマスが悪魔に…」
「はい。
対象の悪魔を殺害したと同時にノウマスにかかっていた能力も解け、精神状態や体調にも問題なく過ごしています。」
「能力をかけている悪魔が死亡すると能力が解けると、過去にも報告がある。
実際に見たことがなかったが、聞く限りこれは間違いのない情報のようだな。」
「ですが、その悪魔以外は取り逃してしまいました。
申し訳ありません。」
「謝る事ではない。
やはり、来て正解のようだ。
これからは各自の動きをしっかりと認識して動いていこう。」
「はい。
お願いします。」
「まずはあの教会を確認しておきたい。
俺はあの作戦に参加していなくてな。」
一通りの説明を終えると、まずは崩壊させた教会の現状を確かめたいとの意向だった。
数人が代表となり、サリと共に拠点を後にする。
その中にはノウマスも選ばれており、即席の小さなチームとして森の中へ入っていった。
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「これは見事に崩壊しているな。
跡形もない。」
「本当にそう思います。
でも、見てお分かりの通り周辺の瓦礫が綺麗に寄せられていたり、片付けられています。
任務の中で瓦礫の中を探ることはあっても、いちいち寄せ集めて運んだりはしていません。
悪魔が来て、この場を綺麗にしているんです。」
「なるほど。
その瓦礫運びの最中に遭遇してしまったと。」
「そうです。
あちらの方向へ向かって運び出そうとしていました。」
そう指を指した方向は更に深い森になっている。
この場だけが綺麗に開かれ、ひっそりと教会が建っていた。
今はただの瓦礫と化した教会、そして周囲の木は折れたり刀傷が生々しく残っているだけ。
踏み荒らされた地面と、1進むたびに舞い上がる埃が喉を刺激する。
「悪魔はクルォール・クリスタルと言う神体を教会に祀っている。
そしてその教会は我々が木っ端微塵に破壊した。
となれば新たに祀る教会が必要なる。」
「…はい。」
「更地にし、ここに新たな教会を建てるのであろうな。
ニールの思った通りだと俺も思う。」
「やはり、そう思いますか。」
「何としても阻止したいところだ。」
サリも同じ事を思ったようだった。
そして、悪魔へこのような大きな被害を与えたのは今回が初めてとの報告も聞いている。
復興もそうだが、復讐のために何をしてくるか分からない。
疲弊させる事ができている今、力をつける前に叩きたいと思うのはサリも同感のようだ。
「もう少し周囲を確認してから戻ろう。
警戒も怠らないように。」
「「はい!」」
瓦礫の山を見つめるサリの自然はとても鋭く、1箇所1箇所を逃さず記憶するかのようだ。
時折、パキッと何かの破片を踏み割れる音が聞こえて来る中、じっくりと目に焼き付けるように進んで行く。
サリのペースに合わせて歩いていると、裾が燃えて焦げたカーテン、座面だけが残り脚のない椅子、そんな小さな物も自然と自分の目にも入ってくる。
考えてみると、瓦礫の一部として何も気にしていなかった事を思い出す。
「見てみろ。
ここに入り口のような物を作っている。」
「えっ?」
サリの声にハッとし目線を向けると、瓦礫の山の中に1部だけ空洞ができていた。
折れた柱や割れた壁で支えを作っており、どう見ても自然にできたものではない事が分かる。
「サリ軍隊長、中の捜索も行いますか?」
ジッと暗い空洞を覗いていたら、背後からノウマスの声がした。
内部に何があるのかはとても気になるが、中に何があるか分からない。
罠なのか、本当にただ悪魔が使っている出入り口なのか…
「……入りたい気持ちはもちろんあるが、今は危険だ。
人間をおびき寄せて、入った瞬間に崩壊し押し潰されるかもしれんぞ?
それに、中に入れたとしても捜索中の周囲の警戒も必要になる。」
「失礼しました。
早まってしまいました…」
「気になるのは皆同じだろう。
若い頃の俺なら1人で突っ込んだかもしれんな。
ははは。」
「……」
「まあ、一旦この空洞については持ち帰ろう。
そのままと言うわけには行かないし、どこかのタイミングで調べなければならない事は確実だ。」
ほんのり滑った空気を察したのか、はははと軽く笑った表情をすぐに締め直していた。
少しだけ頭を入れてぐるりと見渡すが、真っ暗で何も見えなかったようで、すぐにこちらに向き直す。
「時間を取らせたな。
この辺りで一旦戻り、明日からの動きを考えよう。」
「分かりました。
通信鳩が必要でしたらすぐに用意できます。」
「今日のところはいいだろう。
あいつに報告できる事は特になさそうだ。」
「あいつ…?」
「オルウェンだ。
知っているだろう?」
「オ、オルウェンさん!?」
「同僚でな。
今回の出発も取り計らってもらった。
帰ったらワインでも贈らなければと思っていてな。」
「そ、それは10本くらい贈った方がよろしいのでは…」
「そこにグラスでも付けないと文句を言われそうだな…
それくらい借りができてしまったぞ。」
オルウェン…まさかの名前に思わず目が見開いた。
悪魔の脅威だけではなく、自然災害など予測不能な自体でもより被害の少ない作戦を立案し、人員配置を行う軍の頭脳のような人だ。
今回も有益な報告ができれば、教会の復興を阻止できるような作戦を考えてくれるかもしれない。
「帰りはこちらの道から行こう。」
小枝や瓦礫を割りながら歩くサリの背中を追いかけ、教会を後にした。




