40.便りに滲む錆
「サリさん!
たった今、通信鳩が…」
「本当か!?
すぐに確認しよう。」
ニール達が出発して数日が経った時、バタバタと足音を響かせながら同僚のオルウェンが紙を手に駆け寄ってくる。
これまでとは違う悪魔の動きに嫌な予感を覚え、2つの部隊があの教会近辺を警戒しているのだが、何かあったのだろうか。
「ニールからだな…」
「ニール…確か、教会の襲撃時に行方不明になっていた?」
「そうだ。
療養も明けて今回の任務に出させていた。」
同僚と会話をしながらも、ニールからの報告書を読み進めていく。
薄汚れ、クシャクシャの折れ目が目立つ紙面から焦りの感情が伝わってくるようだった。
読み進めて行くうちに拳に力が入って行くのが自分でもよく分かる。
瓦礫をどこかに運ぼうとする悪魔を見かけた事、その先で戦闘となりノウマスが悪魔の能力にかかってしまった事、以前にも増してあの教会周辺は危険になっている事が力強く荒い筆跡で綴られていた。
「瓦礫を運んでどうするんだ…
…まさか、更地にしてまた教会を作ろうとしてるのですかね?」
「オルウェンもそう思うか。
悪魔は教会でクルォール・クリスタルなる大きな赤い石を神体として祀っているらしいからな。
早急に教会を建て直さないと災いが起きるなど何か焦る理由があるのかもしれん。」
「クルォール・クリスタル…
そうだ、確かに何年か前に拷問にかけた悪魔が言っていましたね。
覚えています。」
「ああ。
あれは悪魔にとって命のように大切なものらしい。
爆破と共に砕けていて欲しかったが。」
「そこまでは確認できていませんでしたね。
崩れた瓦礫が大きすぎて詳細までは分からず終い。」
「何にせよ、悪魔が動いているのは確実だ。
更に上へ掛け合おう。」
「すぐに配置図を作成できるように用意しておきますね。」
「さすが俺の友人だ。」
「サリさんと違って、今の俺にはこんな事しか出来ませんからね。
頭脳としてお情けで今の位置に居させてもらってるんだから。」
踵を返して部屋を去るオルウェンは、足を引きずって左右に大きく揺れながら歩く。
何年も前、悪魔との戦闘で足をやられてしまった。
それでも、我々には欠かせないほどの頭脳の持ち主であり、上からも何度も頼られてきたオルウェンは今も軍に残っている。
今回も最善の配置を考えてくれる事だろう。
「…さて、俺は俺にできる事をやろうか。」
本来の自分の役目、それは兵士の配置や作戦を考え指揮を執ることだ。
しかし、今は悠長に机を囲んでああだこうだと言っている暇は一切ないだろう。
悪魔たちが本格的に教会を復興させ、そして人間へ報復を始めるシナリオが目に見えている。
現時点でも、今までになかった自体が起こったばかりだ。
先ほど受かったニール達の報告も、今はどうなっているのかなど分からない。
常に変わる状況をこの目で確かめ、剣を取り、指揮を執らなくてはならないのではないだろうか。
兵を束ねる者として前線に立つことは許されないが、数時間前の報告を受け取ってかくにんをし、数時間後に現地へ指示が届いたところで全く意味を成さない可能性が高い。
今やるべきこと、それは自分も現地の兵士達と合流し、直接指揮を執ること。
普段は軍隊長として頭を下げられることが多いが、軍隊長よりも上の人物達がまだいる。
まずは床に額を擦り付け、出発を懇願する事が先だろうか。
市民を守る兵士たちを守るのも役目。
威厳なと関係ない。
喜んで頭を下げよう。
「サリさん!
用意はできています!」
オルウェンが不自由な足でバタバタと走り、報告に現れる。
1人で考える時間は終わりだ。
本格的に動き出そう。
「走らせてすまない。
すぐに行く。」
「どうせサリさんも現場に向かうんでしょう?
サリさんも含めた配置、何通りか考えてますよ。」
「はははっ
そうか。
お前にはお見通しか。」
「何年の付き合いだと思っているんですか。
もう一緒に剣を握り戦うことは叶いませんが、俺のできる事で力になりますよ。」
「ああ。
とても頼もしい。」
「俺も一緒に頭下げますからね。」
「そこまで分かっていたか…」
長い付き合いのオルウェンには、これから自分がやろうとしている事は全てお見通しだったようだ。
多くの兵を束ねる立場として決して褒められた事ではないが、これが最善の策であると判断をしてくれたのだろう。
「では、早速上層部に掛け合おうか。」
「はい、行きましょう。
でも、熱くなり過ぎないでくださいね。
流石に内密にサリさんを送り出すなんてしたくないですよ。」
「……肝に銘じよう。」
「何だかんだと歳を食ってきましたが、変わらない所は変わらずそのままなんだから。」
「オルウェンは年齢を重ねるとともに落ち着いたからな。」
「はははっ
若い頃の話しはしないでください。」
軽い話をしながらも、内心は非常に緊張していた。
これから、自分は立場も考えずに行動をする許可をもらいに行くのだから。
簡単に「はい、どうぞ。」とは行かないのは分かっている。
だが、今の戦況では先頭に立つのは必須だ。
執務室の落ち着いた暗い赤色の扉の前に立ち、大きく深呼吸をした。
…初めて味わう緊張感で拳の中が湿っているのを感じる。
元帥の前に、まずは総軍長から話をつけよう。
「オリバー総軍長、失礼致します。」
静かな廊下にノックの音が響き、中からオリバーの声が聞こえる。
キィとしなる扉の音と共に、明るく日差しが差す執務室へ入室した。




