表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第1章 異世界営業
PR
16/214

第2話 大剣の価値(前)-7

 翌日、普段使わない筋肉を使ったせいか、目覚めると体のあちこちに鈍い痛みがあった。学生時代以来の筋肉痛のようだ。


 そういえば久しく激しい運動をしていない。あの重たい大剣を運んでいたら勝手に体が鍛えられそうだ、とぼんやり考えた。




 そうか……、ひょっとしてあの大剣は、剣士を鍛えるための道具ではないだろうか。自身の筋肉痛から意外な発想が浮かんできた。




 体を鍛えることに関してはこれ以上ない知識人に心当たりがある。酒場の料理人、ブルードさんだ。お昼時を過ぎた頃、いつも通り彼は酒場にやってきた。早速、例の大剣を持って尋ねてみる。





「この剣が体を鍛える道具かもしれない?」




 ブルードさんは怪訝そうな顔をしてそう言った。




「ええ、剣にしては異常なほど重くて切れ味もほとんどないんです。ひょっとしたら剣士の体を鍛える道具ではないかと思いまして相談した次第です」




 私は思いついたことをそのまま彼に説明してみた。




「鍛える道具と聞くと血が騒ぐな! どれ、ちょっと貸してみな?」




 ブルードさんは皮で刃を包んだままの剣を持って外へ出た。剣の柄を両手で握り、構えるような姿勢をとった時、わずかにふらついたようにみえた。ブルードさんでこれならカレンさんはどれだけ怪力なのか、と私は思った。




「ははーん、なるほどな」




 ブルードさんが姿勢を直して剣を軽く振り、うんうんと頷いていた。




「なにか気付いたことはありますか?」




「スガさんの予想は当たりだ。これはおそらく剣士の身体に芯をつくるための道具だな」




「芯……? 詳しく教えてもらってもいいですか?」




「オレは剣術に関しては無縁だが、以前に聞いたことあるんだ。いい剣士になるためには構えが大事だってな? そして、構えを確立するために身体の中に芯がいるって話だ。それを鍛えるために重たい棒を持って何時間も同じ構えでいるような修行があるらしい。この剣はおそらくその棒と同じようなモンだろ?」




 芯か……。私は武術やスポーツに明るいほうではないが、「インナーマッスル」のような意味合いだろうか。つまり、武器と同じ形状をしたもので、それを扱う筋肉を鍛えるための道具、ということか。




「しかし、剣士を鍛えるための道具ならカレンさんが気付きそうなものですが……」





 私は昨日のやりとりをブルードさんに話してみた。




「いいや、カレンくらいのレベルになると基礎的な筋肉なんて完成しきっているだろうからな。こいつを持つのに苦労しないだろうから逆に気付かんのじゃないか? それにあいつは一種の天才型だからなぁ……」




 なるほど、すでに完成されているカレンさんだからこそ気付かない場合もありえるのか。




「武器のことは知らんが、体を鍛えることならオレは誰よりも詳しいぞ! この剣は絶対に武器じゃない。体を鍛える道具で間違いない」




 ブルードさんは自信に満ち溢れた表情で、右手の力こぶを見せながら言った。彼に頼って正解だった。意外な方向だが進展した。私は続けていくつかの質問をしてみた。




 気になるのは、この世界に「トレーニンング器具」がどの程度存在するのか、そもそもそういった認知があるのか、だ。そして、もしそれがあるなら、どの程度の相場で売られているのか……、だった。




 ブルードさんの、いわゆる「筋トレ」に関する話の引き出しはすごかった。料理人よりスポーツトレーナーのほうが向いてそうだが、そういう職業はこの世界にないのだろう。




 彼の話によればトレーニング器具はあるにはある……が、どちらかというと木刀や竹刀のような実践を模して使う道具が多いようだ。ダンベルのような体を鍛えるためだけのものはほとんどない。彼はそういった器具を自前でつくっているようだが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ