第2話 大剣の価値(前)-6
外の空気はとても澄んでいて、風が吹くとわずかに冷たさを感じる。外で待っていた彼女に追いつくと抱えていた大剣を取り上げられた。
「これか……? ずいぶんと重たい剣だねぇ?」
そう言うと、私が持つよ、と軽々と肩に担いで歩き始めた。見た目は、モデルのようなスタイルの女性だが、これほどの怪力だとは思っていなかった。
彼女について夜道を進んでいくと、商店の並ぶ大通りを脇に抜け、その先の空き地へと入った。
そこで大剣を包んでいた皮をとると、彼女はまじまじとその刃を見つめていた。いつもの酒場での雰囲気とは違った表情を見せている。刃を指でなぞった後、柄を両手で握り、大きく振り上げたかと思うと凄まじい勢いで右に左に振って見せた。一時おいて風が吹き抜け、そして再び夜の静寂が訪れる。
あの大剣をこうも振り回すことができるのか……?
彼女は所属しているギルドでも指折りの実力者だと噂で耳にしている。しかし、その力は私の想像を遥かに超えているようだ。
彼女は右手で柄を握って大剣を立てたまま、じっと見つめている。剣先が夜空に突き刺さるかのようだ。そして口を開いた。
「普通の金属じゃない……。遺跡で掘り出されたものだろうねぇ。それにしても重さが武器としてはまるで実用的じゃない。それにこの刃……、見た目に反してまるで切れ味がなさそうだねぇ?」
私が伝えたかったことは、今の素振りですべて理解してくれたようだ。
「やはりそうですか……。そうは聞いていたのですが私は武器を扱えないので、わかる人に使ってもらい、ちゃんと確かめてほしかったんです」
「うん、私だからこう振り回せるけど……、普通はスガみたいに抱えるだけでも大変な重さよね? なにか特殊な仕掛けがあるようにもみえないし」
今の剣捌きを見て、彼女なら私には気づけないこの剣の特性を発見してくれるのでは……、と淡い期待を抱いていたのだが、どうやらそうはいかないようだ。
「これだけ重かったら叩きつけるだけで武器にはなるけどねぇ。それなら斧なりハンマーなりを使うだろうし……。この形でこの重さ、私にはちょっと使い道がわからないねぇ」
なるほど、もっともすぎる意見を頂けた。やはり武器以外の方向で売る方法を模索するのが正しそうだ。――というより、腕利きの彼女が使って価値を見いだせないとなると、これが本当に武器なのか疑わしくなってきた。
形は「剣」なのだが、そもそもこれは本当に「武器」として遺跡に眠っていたものなのだろうか。
カレンさんは酒場の近くまで送ってくれた。大剣も運んでもらい、至れり尽くせりだ。
空き地からそのまま帰路につくと思っていたが、夜道にひとりは危ないからと、付き添ってくれた。性別を考えると本来逆なのだろうが、先ほどの彼女の動きを見た後では自分が守るなんてとても言えない。
「最近この辺りで通り魔の被害がちょこちょこあってねぇ……。スガは荒事には無縁そうだから万が一があったら困るだろ?」
彼女は大剣の刃を皮で包みながらそう言った。通り魔・切り裂き魔の噂は以前にも聞いている。酒場の話題でも時折耳にしていた。
「ここ数件は衣服を切られたりとかにとどまっているけどねぇ……。ひとりは殺されてる。物騒なもんだよ」
最近噂になっている切り裂き魔、最初の被害は私がまだこちらの世界に来る前の話だった。そして、その被害者は殺されているらしい。改めて耳にすると背中の辺りが薄ら寒くなる。
「酒場は夜まで開いてますからね……、気をつけます。ラナさんもいますし」
「まあ……、案外ラナはそういうとこ大丈夫だったりするんだけどねぇ」
カレンさんは軽く笑いながらそう言った。どういう意味か聞こうとしたところで彼女は立ち止まった。いつの間にか酒場の前に着いていたのだ。
「私はこのまま帰るからラナによろしく言っといておくれ? 明日もまた来るけどね」
「はい、付き合ってもらいありがとうございました!」
大剣を両手で受け取り、去っていくカレンさんの背中に一礼した。風がかすかに爽やかな香りを運んでくる。これは例の虫よけ薬に使った柑橘の香りだ。
酒場の扉には「close」の札がかかっており、中に入るとラナさんがカウンターを丁寧に拭いていた。
「すみません、遅くなりました。あとは私がやりますのでラナさんはもう休んでください」
「あらあら、お帰りなさい。カレンとのデートはもう終わったのですか?」
ラナさんがいつもの笑顔で、声を出さずに笑いながら茶化してきた。そんないいものじゃないですよ、と言いながらカウンター掃除を代わった。大剣は一旦カウンターの横に立て掛けて置いた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えてボクは依頼書を整理してきますね」
ラナさんはいくつかの書類を持ってカウンターの奥へと消えていった。私は掃除をしながら視界にある大剣について考えを巡らせていた。
これは本当に武器なのだろうか。形状はどう見ても剣そのものだ。ただ、実用性ではあまりに剣からかけ離れている。
実は単なる飾りではないだろうか?
それにしてもこの重さは不自然だ。これを必要とする人はどういう人だろう……? 考えがうまくまとまらないまま気付くと掃除は一通り終わっていた。




