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家に戻ると車を寄せてくれていましたので、圭祐さんの車を駐車場に入れて、一旦荷物を下ろして玄関を潜ります。
両親はリビングに居たので圭祐さんを案内して、ケーキを頂いたからと紅茶の用意をしてもらってソファーに座ります。父の表情はやはり暗く、母の態度も固い感じがするのは、私に後ろ暗い気持ちがあるからでしょうか。
「あの。昨日は、自分の気持ちと都合だけを押し付けてしまって、パパたちの気持ちを考えなくって、ごめんなさい」
「沙織さんをそこまで追い詰めてしまった責任は、私に有ります。申し訳ありませんでした」
母が座るのを待ってそう言うと、父と母は顔を見合わせてから、穏やかな表情で首を振ります。そして圭祐さんの謝罪に対しては、軽く頭を下げました。
「昨晩の会話は沙織さんから聴かされてはいますが、改めてお願いに上がりました。結婚を前提としたお付き合いを、お嬢様とさせていただく事をお許しください。そして、早い時期の結婚も考えて頂けないでしょうか」
「昨日は声を荒げてしまって申し訳なかった。娘には言ったが、二人が付き合う事も許そう。結婚については、時期も含めて二人で決めてもらって構わないが、娘の我儘に付き合う必要も無い」
「ご存知の通り一人娘ですが、婿入りを望んでいるわけではありませんから、この子で良ければ貰ってやってください」
ほっとして力が抜けそうになりましたが、圭祐さんが手を握って優しく微笑んでくれたので、もう一度気を引き締めます。まだ話は終わっていないのですから。
「ありがとうございます。私には兄と妹がおりまして、二人とも実家暮らしなものですから、両親の事はお願いしてあります。このまま井口の姓を名乗りたいと考えていますが、婿養子だと思って頼っていただけると嬉しいです」
「在学中は無理だと思うが、入籍はどうするかね」
「結納が必要であれば卒業式辺りでお願いしたく、式と披露宴に関してはお希望に沿いたいと考えますが、籍だけは三月中に入れさせてください」
「お願いします」
「さっきも言った通り、二人で話し合って決めてもらって構わない。ただ確認したかっただけだから」
「ですから、卒業式はちゃんとここから登校させます。引越しなどは先に行うかもしれませんが、それだけはお約束いたします」
それぞれが今ある思いを告げ合い、思うところに違いの無い事が確認できたようです。一段落したところでケーキに手を付けると、母が「熱いのを」と新しい紅茶を煎れに台所に下がりました。
「結納は両家の顔合わせ程度で良いだろう。こちらは親類が多い訳ではないので、式の規模もお任せする。二人で思う様にしてほしい」
「でしたら、身内だけでお願いできますか? その、職場の同僚や教え子を呼ぶわけにもいきませんし」
「友達は呼べないの?」
「四月の始めなんて、誰もが忙しいだろ。ましてや、就職組なんて休みも取れないだろうからね」
その後の雑談で私の黒歴史的なものが飛び出し始めたところで、圭祐さんが「そろそろ」と帰るそぶりを見せて、母に促されて二人だけで廊下に出ます。
「泊まりに行きたいのならば、急いで支度してきなさい。ただし、大晦日は帰ってくること」
「いいの?」
「時間も無いでしょうから、色々と相談してきなさい。迷惑はかけない事と、どうしてもと成ったら避妊はちゃんとしなさい。これは食材費にでも使いなさいね」
そう言って封筒を渡されたので、お礼を言って部屋に戻り、下着や着替えを詰め込んで玄関に急ぎます。
「それでは三日に」
圭祐さんが何か約束をしていましたが、母に急かされる様に靴を履きます。
「それでは、お預かりします」
「行ってきます。ありがとう」
ちゃんと見送られて、安心して家を出る事ができました。
途中でスーパーに寄って、使い勝手の良い豚バラや鳥モモ、キャベツと根野菜を中心に買い込みます。ジュースは要らないのかと聞かれたので、粉の緑茶を選んだら「回転寿司と同じのか?」と驚かれてしまいました。ちゃんと売っているのですよ。
相変わらず物も少なく綺麗されている部屋に上がると、まずは冷蔵庫のチェックをしながら食材を詰めていき、献立を考えていきます。
「ビール飲む?」
「折角のプレゼントだから使わせてもらおうかな」
それではと、豚バラで生姜焼きを作って山盛りの千切りキャベツを添えます。炊飯器が無くてご飯が炊けないから、パックのご飯をレンチンして分けると、ささやかながら夕ご飯の出来上がり。
注ぎ慣れていないので泡がこぼれそうになったけれど、お酌をして気分だけは新妻に浸ってみました。
「そう言えば、三日は何かあるの?」
「沙織を家族に紹介しようと思って、いつなら良いか聞いてたんだ」
「そっか、私も挨拶しないとね。でも、大丈夫なの? 私、女子高生だよ? 立場的には、教え子だよ?」
「妹は驚くだろうけど、兄貴はあまり気にしない方だし、両親にはそれとなく言っては有るから」
「それでは、よろしくお願いします」




