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先生と私の恋愛事情  作者: 羽鳥藍那
高校編 - 前
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 お願いごとをした手前もあってか顔を合せたくなかった様で、午後の授業に五分遅れて井口先生がやって来てくれました。

「来てくれてありがとうございます。それとお昼も」

「一人で食う飯はわびしいからな」

「でも、贔屓が過ぎましたね。いろいろとバレましたよ」

 自覚は有ったのでしょう。苦笑いをしただけで、何も言わずに課題の進み具合を確認し始めます。午前中は真面目に進めていたので、はかどった方だとは思うのだけれど、出来栄えに関しては心許無い部分も間々あります。

 それではと手付かずだった英語の課題を解き始め、コツだの感性だのと教わりながら課題を進めて行きます。二時間たっぷりと、二人きりの時間を堪能しましたが、先生はどう思っていたのでしょう。淡々と教えてくれるその態度からは、緊張している様にも感じます。

 これがデートだったらとも考えなくもないですが、今の関係からすれば贅沢すぎる時間なので文句のつけようも無いのです。


「なんて言っていた?」

 あっと言う間に過ぎた午後の授業の終わり際、ぽつりと先生がつぶやくので端的に答えます。

「『あのクソチビ!』と」

 舌打ちしつつも黙って外を見る先生の横顔に、笑いかけながら言葉を続けます。

「それでも、お似合いなのだし思い合っているのならば、諦めずにうまくやりなさいと。元生徒と結婚した先生もいるのだから、と背中を押してくれました。だから成人するのが待遠しいですが、過ぎてしまえばあっと言う間なんでしょうね」

「前から思っていたんだが、お前の言う『成人』とは高校の卒業を指しているのか?」

「いいえ、そんな事ないですよ。それより、いい大人が助手席にぬいぐるみってどうなんでしょうか。けっこう引きますよ」

「引かれたくて置いてるんだから、ほっといてくれ。それより、思い直せと諭してくれる先輩はいなかったのか?」

「いませんでしたね。皆応援してくれました。ただ彼女では無いですと説明したので、反感は買ってしまいましたかね。だからこそのあの言葉だったのですけれど」

 反感の言葉に微かな反応を見せましたが、特段気にした様子も見られません。

 それ故、この期に及んでも進展させるつもりが無い事が窺えます。私も進展させるつもりは無いのでお相子ですね。


「そうそう。うちに幼稚園児くらいのクマが有りますから、今度取りに来てください。彼女にしてもらえるまで貸してあげますから、大事にしてくださいね」

 随分と幼かった頃から家に居たそれは、私の遊び相手でもあり相談相手でもあり、そばでずっと見守ってくれている大切なぬいぐるみ。だからこそ私の代わりに、私が欲してやまないその場所を守ってほしいと思ったのです。

「さすがに大きすぎやしないか?」

「私の一番の相談者ですから、大事にしてくれると嬉しいですね」

「わかった。考えとく」

 そうは答えてくれたものの、はたして取りに来てちゃんと載せてくれるだろうかは、はなはだ疑問ですが。


 放課後の部活では、先輩達の先生を見る目がいつにも増して厳しかったです。『そこまで睨み付けないでも良いのに』とも思いますが、先輩方にすれば態度をはっきりさせろとのプレッシャーなのでしょう。

 けれども、先生は何処吹く風とでも言う様にいつも通りの指導に徹していて、何かしら察した様な後輩達は、居辛そうにしつつも黙々と励んでいます。『触らぬ神に祟りなし』なのでしょうね、どちらにとは言いませんが。

「明日は六時にはバスが出るから、遅刻と忘れ物をしない様に。事故とか遭わない様に注意するんだぞ」

 早めの時間にそう締め括られて部活が終わりました。そう、明日が大会なのです。


 部室に戻ると防具袋に用具と本番用の道着を入れ、竹刀の手入れをしてまとめ置きます。

 シャワーを浴びている最中は一年生もいるので、お昼の話をしてくる先輩はいませんでしたが、一年生を帰らせた後は先生への文句が口を突きました。

「睨んでやったのに我関せずだったよ。ったく、堅物は揺るぎもしないね」

「だからこその約束なんでしょうけど、もう少し融通効かせても良いのにね」

「既成事実を作っちゃえば? そうでもしないと、卒業するまで手もつながないかもよ」

 好き放題言ってくれますが、私にも今事を進める気持ちは無いのです。

「どこで誰が聞いているか分らないですから、ここだけにして下さいね」

 そうして部室を後にしました。


 途中のコンビニで、明日のお昼用にパンを買います。共働きの家が多いのもあって、試合の日は手作り禁止が慣例になっているのです。ついでにプリンも買いましたが、こちらは課題を頑張った自分へのご褒美ですね。

 夕食後に部屋で試合の事を考えていると、タブレットにメールが立て続けに届きました。開いてみると、頼んでおいた旅先の写真が美紀ちゃん達から大量に送られていて、最後に『試合ガンバレ』とメッセージが入っていて嬉しくなります。

 笑顔の二人を見て元気をもらったので、明日は勝ちに行きましょう。


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