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「その、ありがとうございます」
「気にしないでよ。それより、なんで行かなかったの? 修学旅行」
いろいろ有ってクラスで浮いていたことや、水着になるのが嫌だったこと、沖縄ならばいつでも行けるから等と説明すると、「気にし過ぎだ」とか「一度きりの思いで」などと言い返されてしまいます。
いいのです。井口先生が来てくれたのなら行きますが、顔を合せない日が続くくらいなら、こうして補習を受ける方が納得できるのですから。
「自由行動を彼氏と二人で、なんて考えなかったの?」
「い、いませんよ。彼氏なんて」
見透かすように不意に言われて、泳いでしまった目に周りの視線が突き刺さるようで怖いです。
「だから考えなかったの? それまでに作ろうとか、この機会に告白しようとか」
部長の執拗な質問に窮していると、結城先輩が確信めいた口調で決定的な言葉を放ちました。
「一緒に行けなかったのかな? 学校に来た方が会える人なんだよね」
私は今、どんな表情をしてどんな顔色だろう。
どこでバレてしまったのだろう、どうしたらあの人を窮地から救えるだろう。考えれば考えるほど不安に押しつぶされそうになる。
すると、結城先輩にポンっと肩を軽く叩かれました。
「べつに責めてるわけでも、告げ口する気も無いから安心して。どちらかと言えば、想像通りならば応援したいなってね」
たぶん呆けた顔をしているだろう私は、言葉も無く結城先輩を見ます。
「あのチビッ子ならば、橘さんくらいが釣り合うかなって見ていて、お互いが距離を測りかねているように見えて、春先の一件で無理しているのかなって思ってね。今日のお願いで確信めいたものを感じたんだよ」
結城先輩のその言葉に、ウンウンと頷いていた部長が後を続ける。
「最初は結城の妄想癖が始まったと思っていたけど、そうでもなさそうだし。でも良いと思うよ、あのチビッ子は融通が利かないほどの堅物だし」
「体育の前垣や社会の田端だって元教え子と結婚しているんだし、在学中に問題さえ起さなければ大丈夫じゃないかな」
普段口数の少ない新庄先輩までも、そう言って後押ししてくれます。
「でも、二股とかされていないんだよね? クルマ選んだって彼女とも続いているとかさ。助手席にぬいぐるみを置いてまでって、そこまで思っていたって異常じゃない?」
部長のその言葉に、先輩たちは一転心配そうな表情を浮かべます。それも私ですと言っていいものなのか、言わない方が良いのか判断が付きません。
「い、一回切れています。私が成人するまで彼女は作らないと宣言してくれました。だから二股とかないです。大丈夫です」
心配させるのも悪いと思ってそう言ったものの、先輩たちの表情は曇ったままでお互い顔を見合わせて、『貴女から言ってあげなさいよ 』とでも訴えているようでした。何か言い間違えたでしょうか? 理由が解りません。
それとも、そこまで先生の信用は無いのかと可哀想になっていると、結城先輩が口を開きます。
「橘さんとチビッ子は、付き合っているわけではないの?」
「はい。成人するまで教師と生徒の線は超えない、と約束しましたので」
「貴女の腕時計。もしかしなくてもプレゼントだよね?」
「高校に合格した時、入学祝でいただきました」
「車を選んだ彼女の顔、貴女は頻繁に目にする、よね」
「えぇ。見ているかと言えば、見ています」
そこまで答えると、結城先輩は頭を抱えて黙ってしまう。
不安になって周りを見回すと、誰もが苦虫を噛んだような表情を浮かべています。
どうしようもなく空気が重くて食事を取る雰囲気ではない中で、新庄先輩が唯一人ニッコリ笑って確認してきました。
「好きな人から、『成人するまで待つからそれまで我慢してくれ』と言われ、入学祝と称した束縛の気持ちとして、時計をプレゼントされました。相手はその誓いを有言実行する為、助手席にぬいぐるみまで置いて、誰も座れない様にしています。そこに座って良いのは車を一緒に選んだ、当時中学生だった女の子だけ。そうです、チビッ子が求める唯一無二の存在は私なのです。と、貴女は語っているのだけれど合っている?」
口調がいつにもましておかしい気がするけれど、指摘する間違いがないので黙って頷くしかなくって、怒気を孕んだ「あのクソチビ!」にハッとして弁明します。
「あの、でも、言い寄ったのも告白したのも私で。そんな幼い私に誓いまで立ててくれて。あの時だってワガママを聞いてもらったのに、立場を危うくしてしまった私自身が許せなくて泣いてしまって、それでも困りながらも改めて誓ってくれたんです。先生は悪くないんです。今回だって……」
「ならば! うまくやりなさい。私たちは卒業してしまっているだろうけど、来年の春には貴女は一八歳になるんだから。『成人しました』って押し通して、ちゃんと彼女にしてもらうのよ」
私の言葉を遮ってまで言い切った部長の言葉に、思わずプッと噴いてしまって睨まれてしまいます。
「それ、春に友達にも言われていて。言質も取ったから安心しなさいって励まされたんですよ」
ならそう言うことよ、と食事を再開して時間一杯を楽しませてもらいました。『考える事ってみんな一緒なんだなぁ』と変に感心してしまった昼休みでした。




