臨時ペット吹き募集中 02
それにナリは、薄々ではあるが拓人の置かれている立場に気づいているフシがあった。一緒に飯を食ってて、突然気配を感じて拓人が窓から飛び出しても、平気な顔してパンなどを食っている。あとで帰ってみると
「食いかけだったから袋に入れといた」くらいで、余計な詮索は一切、しなかった。
ただ単にニブいだけなのか、そこが実はよく判らなかったが。
どちらにせよ、ヘンゲ以外では一番の親友と言ってもよかった。
「デンに手伝いって? ヤツ何か楽器できんの?」
「何でもこなすって聞いたよ、二年生から。できればペット頼みたい、校歌とかあるから音が欲しいんだよ、とにかく。でもサックスもあるしフルートも余ってる、何やってくれるかなあ」
「キーボードは弾いてるの見たことあるな……でもそんなに楽器イロイロ余ってたって、いくらヤツでもフルート二本鼻にさして吹けねえぞ」
ナリは弱ったように頭を掻いていた。
「じかに聞いてみりゃいいじゃん」
「あんまし口きいたことないし……それにさ」そこにちょうど噂のデンの姿。
「あ、ちょうどよかった、デン。ナリが頼みがあるって」
デンは不思議そうにこちらにやってきた。「なあに」
「あの、あのさ」ナリはかなり緊張している。横から拓人が口をはさむ。
「つき合って下さいってさ」
「うわぉ」ちゃうちゃうちゃう、とナリは真っ赤になって首をふる。
「卒業式に、ブラバンが出るんだけど手伝ってもらえないか、と思って」
「ウチに?」「うん」
「6日だっけ?」考え込むデンにナリはさらにあわてる。
「午前中で終わる、できれば8時半に合宿所に来てもらっていっぺんだけでいいんで、リハも。でさ、楽器がペットかサックスか、あの、ペットでも?」
「うん……別にええわ。ペットも校歌くらいなら何とか。朝から午前中いっぱいなんでしょ? リハも朝一だけで」
「うん。え? いいのホント」
「8時半にね、了解よ」ナリはほおっと大きく息をついた。
「助かる、ホント、ありがと、6日の8時半、でさ……」
まだモジモジしているナリを、拓人は「帰ろうぜ」と引っ張ろうとした、が急に彼が立ち止まったので軽くつんのめる。
「あのさ」ナリ、帰ろうとしていた伝助に勇気を出して聞く。
「その、15日ライブやるって聞いたんだけとさ……チケットまだ余ってない?」
帰り途を流しながら、満足げなナリコマに拓人はあきれたように聞く。
「あんなうるさいオンガクに金払うの? しかも3枚も?」
伝助が組んでいる『ルーク』のライブ自体、かなり久々なことだったのでチケットはすでに売り切れていたが、デンが直接持っていた予備の3枚、全部ナリコマが特待料金で買い取ることで取引は完了していた。
「どうして、デンと話す時にあんなにグズグズしてたんだよー」散々な言われようだが、ナリはまだ上気した頬で拓人の顔をみた。
「だって、アイツ有名じゃん」
「え? なんで」
「だってさ、『ルーク』のヴォーカルだよ、あの」
信じらんねえ、ブラバン手伝ってくれるなんてさ、まだうわごとのようにつぶやいている。
「そうなの?」拓人は、変化以外のデン、特に歌関係のことはほとんど知らないに等しい。
しかし急に気がついて、ナリに言ってやった。
「だってオメエ、ヘーキな顔して一緒にメシ食ったことあるじゃん」
「三回かそこらだぜ、それに全然知らなかったんだもん。まさかさ、歌やってるって聞いたけど、まさかあの『ルーク』だったとは」
いつもチケットは即日完売で、ブラバンの元部長だったナリですらいつも一枚手に入れるのがやっとだったらしい。しかも当日は何かと用事ができて、泣くなく別のヤツにそのチケットを転売していたのだと、少しだけ料金上乗せして。
「それが3枚もだぜ、しかも裏にサインまで入って、吉岡の」
「あれサインて言わねえ」取り扱い者の欄にデンが自分で「ヨシオカ」って書いてあっただけだし。
まあいいや、それにしても、アカネならあのチケットにいくらずつ上乗せすんだろうな、なんてそんな感じ。その時には、デンの卒業式飛び入り参加については拓人の中で特に頭にひっかからずに終わっていた。




