臨時ペット吹き募集中 01
拓人、朔太郎、スティーヴンの三人、陽だまりの校舎影に並んで腰かけていた。そこに伝助通りかかる。
「お?」
「おー」これであいさつ終了。
「どしたん」
「パン待ち」「パン?」「ジャンケン敗者を待ってんだよ、ふみ屋までツカイッパー」
おー来た来た、と言っている所に、ナリコマが葉の落ちた桜の間をゆうゆうと帰ってきた。
「おせーよ」
「激辛カレーなかったんだよ、迷った迷った」
「何だよこりゃ」スーちゃん受け取っておいて口を尖らせる。
「マヨネーズじゃねえかよ」
「あそれオレ」拓人があわてて手を伸ばす。スーちゃん渡そうとしてす、と引っこめる。
「でも美味そうじゃん」
「貸せよ」
「カレーと半分こしない」「しゃーねーな」
サクはこういう時にはもの凄く反応早い。すでに袋を開けて食べ始めている。
半分ほど食べてからふと伝助に
「デンちゃん、少し食べる?」ときた。
「いや、うちはもう頂きましたわ」デン、そう応えつつも、ぼおっとした顔で脇に座り込む。
ナリも温まったコンクリートに尻を落ちつけた。
「ハラ減った~」ガツガツした目で焼きそばパンの袋を破り捨てている。舞っていきそうになった袋をデンが拾ってやる。ナリは自分だけパンプルを買ってきたようで、さっそく飲み始めた。
「おめー、よく金あったよな」拓人がうらやましそうに横目でみた。
「ブルジョワめ」ナリは息つぎせずに半分ほど飲み干してから、派手にゲップする。
「そう言や」ゲップで空腹も収まったのか、小鳥に向かう聖フランチェスコのごとき優しき目をして、パンを分けている拓人とスーちゃんとを見やった。
「イクとスーさんてさ、仲悪いんだったよね~」
「悪いよ」間髪入れずに二人の声が揃う。
「その割にいつも一緒じゃん。パンも分けっこしてるしさ」
「オメエも一口欲しいか」スーちゃんが差し出したのを手を振って
「オレ、カレー駄目だもん」
ナリはいつもヤキソバパン、よくよくヤキソバ好きなようだ。
「近くにいると、いつでも好きな時に苛められるからな」スーちゃんのことばに拓人は目を三角にした。「何となく分かってきたぞ、オマエって鬼畜ヤローのことが」
サクが淡々と解説する。
「きっとそれ、アフリカのサバンナでさ、シマウマの近くにいつもライオンがウロウロしているようなものかな」何だかな……それオマエが象だから言える科白なのかもな、と拓人はつぶやいて残りのパンを丸のみした。
暗くなりかけた昇降口近くの廊下。
「お、イク」
成駒に呼び止められ、拓人は珍しくボットーしていた物思いから覚めてふり返った。
「オマエの友だちでさ、25HRの、いたろ、吉岡って」
「あ、ああデンちゃん」
「そう、アイツにさ、ちょっと頼みごとあるんだけど。卒業式、ブラバンいつも出るじゃん、でも人手が足りないんだよ。でさ、手助け探してんだけど」
ナリコマは吹奏楽部の前コンダクター。普段はヘラヘラしているクセに、指揮となると豹変する。あんだけの人数を一つの曲のためにまとめる、そのプレッシャーとプライドはハンパなものではないらしい。
始めは、棒振りだろ? そんなのいなくてもエンソーなんてできるじゃん、なんて言ってやったんだが、その時彼にマジな顔でこう言われた。
「演奏はできるけどさ、曲には他にも必要なものがあるんだよ。例えば思想とか、理念みたいな。いや、もっとカンタンに言うと芯とでも言うのかな……棒振りってさ、みんなの演奏をまとめるんじゃなくて、方向をまとめるのに要るんだと思う」
確かにそうかもな。オレも『変化』じゃナリと同じような立場かも知れない。しかしそこまでちゃんと考えたことはなかった。いつもいつもその場しのぎ、みんなを騙したりおだてたり……思い返して拓人、しんみり。
伍人衆はいつも、崩壊寸前の自転車操業だった気がする。
その時改めて、拓人はナリのことを
「見かけはアホな単なるヤキソバパンと下ネタの好きな男だが、かなりスゴイ奴」
と、見直すようになったのだった。




