後ろ指さしたりさされたり
ヘンゲに身を変えていたワケもないのにどうしてそんな高所に立っていたのか、デンにもよく解らなかったが、拓人は元もと木登りが好きだったらしく
「どーだ。いい場所キープして待ちかまえてたんだぞ」
偉そうに言ってから、
「とおっ」
つい、変化のつもりで飛び降りたら前のめりに倒れて地面にがん、と額を打ちつけた。
「ごぉぉぉぉぉぉ」かなり星が飛び交っているらしい。
「このアホ」
ツヅキはセンパイに対する礼儀なぞ全然持ち合わせていないらしい、拓人を指さして
「こんなんで、バラ変化だったんだろう? 信じらんねえよな」
そう毒づいてから、ああ、という顔をデンに向けた。
「まあ、前回のバラ野郎もヒトデナシだったからな」
「お兄さんは、今、どうしてるの」
悪態は耳に入らなかったフリしてデンが聞いた。
「オニイサン? オマエ、兄貴のこと何て呼んでたかも忘れたのか」
「オマエも話は聞いた事あるだろ」押さえた額に大きなこぶを生成中の拓人が、それでもどうにか向き直る。
「キオクソウサされてんだよ、コイツも」
「だから何だよ」
「覚えてないのは、コイツの罪じゃない」
はん、ヒトシは吐き捨てるような笑いを漏らす。
「忘れさせてくれ、ってヘンプロに泣きながら頼んだんじゃねえか、オマエは」
伝助は完全に凍りつく。容赦なく突きささるヒトシの言葉。
「仲間は4人とも、たしかに『ものから化』されたんだ、最後の戦いでね、その晩の事は忘れない……」
「見てたのか?」
返事はない。ヒトシの目はすでに、どこか遠くを見つめていた。
「それで、どうなったんだ」ややあって、拓人が尋ねた。ようやく、ヒトシは視線を彼らのもとに戻す。
「4人は倒れていた。ヘンプロが駆けつけた。コイツは俺の兄貴……ワカクサを抱えて座り込んでいた。わあわあ泣いて、わあわあと」
ツヅキヒトシの話はこうだった。
ものから団は地区を制圧した。ものから団の白黒フラッグはためく下に、彼らは倒れ伏していた。
とりあえず倒れた連中はいったんラボに運ばれた。
ツヅキヒトシが見た時には、変化が解けた伝助は号泣していた。
ヘンプロの主任が言うには、多分戦いの一部始終を味方にちゃんと伝えて己らの無力さを噛みしめるように、との考えで、記録係として彼の記憶が残されたのであろう、との話だった。
伝助は言った。
「ヤツらが戻らないのならばボクだけ生き残る理由はもうない、この場でとどめを刺してくれ」
そこでヘンプロは告げた。
「彼らは今のままでも十分日常生活が送れる、逆に何も知らずに過ごす方がいいこともあるのだ、今はそのままでいい。
君は何も心配することはない、時が必ず解決してくれるから。」
オトナの論理など頭に入らない伝助、更に食い下がった。
「だったら、ボクの記憶も消してよ。できるんだろう? 記憶を操作してくれよ」
ワカクサにすがりついたまま、天を仰いでこう叫んだ。
「コイツらがいない……仲間がいない人生なんて何の意味もないんだよ!」
そこまで聞いたとき、ヒトシは物影からこっそりと逃げ出した。
自分の記憶まで消されたら……兄貴の無念は誰が晴らせるんだ、と。
「なあんだ」拓人は感心したようにつぶやいた。
「結局、オマエ、そん時も覗き見だったんじゃねえかよ」
「そこに反応すんなボケ!」ヒトシの罵声が飛ぶ。
「しかも、逃・げ・出・し・た、と」何か帳面に書き込むようなしぐさをして、拓人は真っ正面からヒトシを見た。
「オレから見れば、オマエの方がもっとヒキョウモノだな」




