真昼の血糖値
家も判ったし、電話番号も知れた。しかし、
吉岡伝助、あえて彼のロッカーに置き手紙。日時と場所を指定して、これだけ書いた。
よっちゃんイカは、入れないでおいた。
―― 二人きりで話をしたい。
そして例の西町公園。時刻は影が足下に縮こまる、まさに正午。
いきなり背後から「スキだらけだな」
声をかけられて、伝助は飛びあがる。
ふり向くと、ヤツが立っていた。白昼堂々、丸々姿をさらして。
やや小柄な学生服姿、どちらかというと痩せているが丸顔、前髪がフケツなベタツキをみせて目にかぶっている、そんな奴が彼を睨んで(目までは見えなかったが、確実に睨んでいるのは判った)じっと立っていた。
先日の戦いの時よりもはっきり姿が見えるのに、なぜか黒々とした黴のようなオーラがみえる。
「ええと、アオバじゃなくて」
「ツヅキだ、ツヅキヒトシ」
「はあ」
デンの反応に明らかに苛立った様子だった。中指で神経質に前髪をかき上げる。
「それよか今日こそ取引だ。オマエに償わせてやる」
不遜な口調に、デンもつい攻撃態勢に入る。つい先日、ようやく貯金をこっそり下ろして、ケンタローのベースを弁償したばかりなのに。
「何を、償えって言うんだよ」
拓人たちやバンド仲間とオフにつき合う時は一応『温和な』デンちゃんとして通しているが、元々彼は戦闘派。特に歌っている時にはもの凄く鋭い牙をむく。
それに、中三になったばかりの春にヘンゲとなっちまったのも、その闘志が原因とも言えた。
きっかけとなったのは、近所の公園にアンドロイドが突如現れたことだった。
奴らは遊んでいる子どもらに向かって絡まりもつれあった大量のミミズを投げつけ始め、それが髪に降りかかってパニックに陥った小学生の一人が車道に飛び出したところをデンが体当たりで止めた、そこを当時の変化プロに見出されて、やはり半分騙されるような形で変化改造されてしまったのだ。
その時の仲間は、拓人の場合と違ってすぐに集まった。つき合いは多い方だったし、いざとなれば一緒に戦いたい、という連中も多かった。ミミズ投げ込み事件が近所で大騒ぎになっていたのも追い風だった。
逆に、俺も俺も、と変化希望の連中も多くて口止めに苦心した。何とかメンバーを選抜して本格的活動に入るまで約3週間、その間に噂が広まるのを恐れて選に漏れた連中には記憶操作まで行った。彼らは変化の話を聞いたことすら忘れ、日常生活に戻っていった。
そして彼ら5人は、固い結束の元、正義のために動き出したのだ……そう、5人は。
「これをバラまかれたくなかったら、すぐにヘンゲをやめろ。そんでオレらの前で土下座して謝れ」
伝助は完全に固まった。以前、暗がりでちらっと見せられた写真、いつの間にか10枚ほど焼き増しして持っていた。同じ隠し撮り写真がここまで揃うと、更に気味悪さがつのる。
「アンタ、一体誰なんだ、つうか、何? えとツルミ……」
イラついた相手がつばを飛ばして遮った。「言っただろう、都筑均だ」
確実にその名前には、記憶がなかった。ツヅキは今にも地団太を踏みそうだ。
「都筑茂の弟だよ、忘れたのか」
「シゲル?」
ますます判らない。伝助が完全に途方にくれているのを見て、ツヅキは少しだけ近くに寄ってきた。細い目を見開いてまじまじと彼の顔をみている。
「本当に、覚えていないのか?」
「悪いけど」
「仲間だったのに?」
「なかま?」
何仲間、と聞こうとしてすぐに気づく。コイツが話しているのは変化のことだ。仲間と言えば変化のことしかないだろう。しかし
伝助の方にこそ、記憶がなかった。その事実に急に思い至って愕然とする。
あの時いったい、誰がメンバーだったのか。




