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ラヴレター・フロム・彼方

 正式に文書が届いたのは、秋の気配も濃くなった10月の暮れ。

 あの、ウンコ山モリ公園での戦いから約二週間後。


『ものから団第四師団活動停止のお知らせ』と、表題にはあった。


 なになに、と拓人、封筒から書面を出し、一応拡げて読むフリをしながらホイ、と傍らのデンに放り投げる。

「なんやて……」デン、皆の前で大きな声で読み上げた。

「ホラホラ、『誠に勝手ながら、今後、とある町を中心とします当県中西部地区のものから師団(第四区域)の活動を一時的に停止させて頂きたく、ここにご連絡させていただきます』だって」

「負けを認めたってワケ?」

 あかねは、グラウンド下の基地に入った時に必ず取るポーズ・両足は肩幅、腕組み&眉根にしわ寄せた格好で一言。

「そうね……」

「それ、いつまでなんだよ」スーちゃんはちらっと拓人の方をみてから(条件反射でびくっとする拓人)、またデンの持つ紙に目をやった。ごく普通の白い封筒に入っていた、ごく普通のA4サイズの上質紙。

 文面は、事務文書のようにかなりそっけない。

「期日は特に書いてないけど、ココ『当面の間、御不便をおかけいたしますが』ってある、だからしばらくは復活することもないでしょ」

「ほんとかなあ」そう言いながらも、サクの口調はやはりのんびり。

 ちょっと見せて、と紙は皆の手を一周、

「ほんとだ、『ものから団 総帥 取締役団長 ハピネス中目黒』ってある」

 あかねが感心したように叫んでからまたすぐ腕を組んで

「結局このナカメグロってヤツには一度も会えずじまいだったわね」

 それにはみな、うんうんとうなずいた。しかし、わざわざ会ってみたいというヤツはやはり一人もいなかった。

「最後が泣かせるわね」ユキも珍しく、しみじみと口を挟む。

「『皆様の今後のご活躍とご健勝をお祈りいたします』だって……」

「いいんじゃねーの」拓人、つとめて軽い口調。「めでたし、めでたしだよ」

「だよな」囁くような声でスーちゃん。気づくと、拓人のすぐ左脇に迫っている。

「これでオレらの役目も終わりだよな、特に……オメエの」

 はっ、と飛び下がろうとした拓人の襟首をスーちゃんはきゅっと押さえる。

「待て、待てよ何すんだ」

「ようやく、この日が来たんだヨ生嶋くん」スーちゃんの鋼鉄の右腕が上がる、拓人は徐々に吊り下げられたような格好となった。

「お、おい待てよぐ、ぐるぢい」

 ドタバタと動かしているスニーカーのつま先がようやく床にかする。

「言ったよな、オレは」

 スティーヴンはゆっくりと、周りのメンバーを見まわした。

「終わったら、オマエを片付けてやる、ってよ」

「待って」意外なことに(?)、デンが口を挟んだ。

「スーちゃん、ユキちゃんと約束したんちゃいます? ヘンゲでない時はタクちゃんを殴らない、とか」

「そうよ」ユキも前に出た。「殴っちゃだめ」

 スーちゃん、いっしゅん拓人を取り落としそうになったがすぐに襟がみを掴み直す。

「殴らなきゃいいんだよな」うんうん、とうなずくユキに向かい真面目な顔で

「なら絞め殺すから」

 宙に半分浮かせたままの拓人の首を、左手をいっぱいに拡げて締めつける。

「ま、まで! おいっ! じぬ!」

「当たり前だぁコロシてんだからなー」


 いきなり、天井から声が響いた。


「伍人衆変化のみなさま、タイヘンお待たせいたしました。ただ今から、解除処置を行いますので御準備ください」

 拓人を吊るしたままのスーちゃんも、止めに入ったデンもユキも、ただ見守っていたサクもあかねもその場に固まって、ゆっくりと天井を見上げた。


 今まで気づかなかったが、天井の隅に拡声器がとりつけてあった。声はそこから聞こえてきたらしい。そして、アナウンスが終わると同時に一番奥の壁がきしみながら観音開きに向う側へと開いていった。そこには、更に奥に続く通路があった。元心霊写真部の部室と違い、その壁はかなり近代的なメタル素材でできており、壁からは燐光が発していた。数名の白衣をつけた連中が、すでに向う側に立って待っていた。

「お名前で呼ばせていただきます、まず、イクシマ・タクトさま」

 呆けたようなスーちゃん、気づいたら手の力が抜けていた。ぱたっと床に着地して、何度かむせてから拓人「はぇ」気の抜けたような返事をした。

「これは……」あかねがようやく腕組みをほどく。「カイジョ?」

「そう」ようやく拓人が、本来のペースに戻った。

「今日呼んだのは他でもない、ものから敗北宣言が出たらさ、すぐこれやってもらう予定だったんだ……『ヘンゲカイジョ』をね」

 のどを押さえながらも、奥に向かって歩んで行く拓人。

「次、ヤマモト・サクタロウさま」声が続く。


 誰にとっても、必ずいつかは来る日だと分かっていた。

 だが、あまりにも、それは突然だった。


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