ウマもシカも投げられた
殿下は、黙って立っていた。ボウガンは降ろさず、そのまま静かに微笑んでいる。もちろん、後ろのツヅキにはその笑みは見えない。
「キミは……」ようやく、殿下が声を発した。
「あの少女を、愛しているのですね」
「がーーーーっ」妙に通る声で、周りに筒抜け。ツヅキは一人で真っ赤になった。
「な、なななななな何言ってんだキサマは!!」
「教えてさしあげましょうか」
殿下は急に声をひそめる。
「あの彫像たちを目覚めさせるもの、それはただ一つ」
もちろん、目の前のサクラ、ウコン、目覚めたばかりのワカクサ、そして台の下にいたユキもじっと次の言葉を待つ。
「……その者を信じ、真に蘇って貰いたいと願い、この世に一番大切なものが、金ではないと信じる者から与えられる口づけなのです」
「はああああっ?」く、くちづけですと? ツヅキは一瞬、頭の中が真っ白。映画観ているワリにリアルな話に弱い少年。うぶです。
「しかも……」その後の殿下の言葉は「分かった!」サクラ変化の叫びにかき消されたが、ヒトシの耳にはしかと届いたらしい。一瞬で彼はその意味を把握、さあっと顔が青ざめ、それからまた真っ赤になった。
「やめろおっ!!」ツヅキヒトシの悲痛な叫びも空しくサクラ変化、ためらいなく拓人の頭に腕を回してその唇に自分の口を重ね、すぐにぱっと離れた。
それに気づいたユキ、とっさにスーちゃんの台座に駆け上がり、目をぎゅっとつぶってから小さな声で「ごめんね」そうつぶやいて、彼の口に軽い軽いキス。
「ぷはーーーーっ」
「っあんだーーーっ?」
それぞれ勝手な雄たけびを上げて、拓人、そしてスーちゃんが元の姿に戻る。と、同時にもの凄い気配を感じてすぐに変化章に手をやって
「破っ」
あっという間にそこには、5色のたすきも鮮やかな全メンバーが勢ぞろい。
同時に殿下ががばっと身を振りほどき、後ろのヒトシをひねるように前に突き飛ばす。殿下の前によろめき出たヒトシ、手には脅しのシャープペンを握り締めたまま。
「やっぱりね」殿下の笑いは、明らかに闇の色に染まっていた。
「つまらない邪魔をしたものだ、まずはオマエから」ヒトシがぎゅっと目をつぶり構えたボウガンが発射されるせつな、「やめろ!」バラが台座から飛び降りた、が一瞬早く
「がっ」ヒトシをかばうように一つの影が間に割り込む。その肩にはぐさりと短い矢羽根がつき立っている。
「あ、あんた……」
目だし帽の下の表情は、苦しげだった。「……生徒に何をするんだ」
「セイト?」バラが叫ぶと同時に、今まで眠ったように静かだったアンドロイドたちが一斉に襲いかかってきた。
「やれ、殺っておしまいなさい!」
殿下のよく通る声と共に、陣形は一気に変化衆に迫る。
「見参!!」揃った伍人衆の前に敵はない。「行くぞ!」「おおっ!」
掛け声とともに、大粒の雨がぽつりと音立てて台座に染みをつくる。一つ、またひとつ、熱せられた土の匂いが立ち上がる。ぽつりぽつりと落ち始めたしずくはあっという間に激しく強く、あたりは急にバケツをひっくり返したような大雨となった。
かすむ景色、森の奥から、山道の向こうから、どっと押し寄せるアンドロイド大軍団。そりゃそうだろう、第四師団、今回は起死回生のチャンスとばかり、在庫のアンドロイド全てを調整して油をさして、すでに倉庫の隅で引退生活を送っていたヤツまでかり出してきていたのだから。
「とにかく斬って斬って斬りまくれ!」そう叫ぶバラ変化、それに応えようとワカクサも「了解!」振り上げた腕を急に、がきっと何かに掴まれた。
「ちょっと!」ふり返ると何と、ツヅキヒトシががっしりと彼を羽交い締めに。
「アナタ!」サクラ変化も叫ぶ。「いったいどっちの味方なのよ!!」
「僕の敵を誰か一人って言われたら、そりゃコイツだ」歯を食いしばりながらもヒトシが声を絞り出す。
「とにかく手の空いてるヤツ、どんどんやっつけてくれー」少し離れた崖っぷちから雨音に負けぬようバラが叫んだ。アサギは相変わらず職人のように黙々と働いている。ウコンも少しスースーする腹をかばいながらも、いつもよりわずかにスピードをあげて心なしか余計に働いていた。




