落雷の奇跡
彼は体勢を立て直し、黒いマントを怪鳥のごとく脇に遊ばせて自らは弾丸のようにサクラの元へと。
「やだー来るなヘンタイ!!」
ようやくサラシが留まったサクラ、よほどのショックだったのかすっかり素に戻り、岩の上から大きく飛んで逃げまくる。
「誰か助けなさいよ~~~」
オブジェと化した仲間たちの間を、太刀振り回しながらちょこまかと逃げるサクラ、そしてそれを払いながらも弄ぶように突きを入れたりして追う殿下。
「もういいでしょう。止まりなさい」
ついに、彼らは追いつめられた。
サクラはまん中のオブジェ(作品№3 イクシマタクト)の前で殿下と向き合い、ウコンは山側の№1 ヨシオカデンスケの台座によじ登り、周りのアンドロイドたちをまだ蹴散らそうと空しく太刀をうち振っていたが、殿下の掛け声と共に、すべての動きがとまった。
雷鳴がまた、あたりを轟かす。雨は無い。ただ、不穏な震えだけが大気の中に満ち満ちていた。
「もう一度だけ、お聞きします」
殿下はすでに剣を収めていた。だが、もっと恐ろしげなものを構えて立っている。短い矢のついたボウ・ガンをしっかと目の前のサクラ変化に向けて、彼は落ちついて尋ねた。
「負けを認めますか。それとも、この場で死にたいですか」
「どっちもイヤよ」
声が震えないように、サクラはしっかと胸元に縛った黄色い帯の結び目を握っていた。
殿下は、やや面倒くさくなってきたのか、急にゾンザイな口調になる。
「ならばその3体を売って差しあげてもいいですよ、そうですね、3億ほどで」
「あのね」
サクラは息を大きく吸い込んだ。
「お金を払って返してもらえるんなら、いくらでも出す、って言いたい所だけど……私たちビンボーな小市民だし。
第一、人間の価値を金で換算しようなんて、信じられない。人ひとりの命は簡単に奪えるかも知れない、それに運命だってお金があればある程度変えられるでしょうね。
でもね、結局お金なんて、いくらあっても全然役に立たないのよ。
人の命の重さには、とうていかなわない。アナタも覚えておいた方がいいわ」
白く眩しい閃光と共に、どしんっ、というもの凄い衝撃、居並ぶ者どもは思わず身をすくめる。がらがらとひっくり返るような雷鳴に、台座の上にあぶなっかしく掴まっていたウコンが落ちそうになってよろめき、はずみで作品デンスケにぎゅっとしがみついた。が、手がすべり思わずこちらに向いた顔に自分の顔が当たる。「うっ」軽く開きかけた唇に、ウコンの口がもろ、ぶつかった。がきっと歯が当たる。「痛ぁ……」その時
「ぷはーーーっ」
突如、彫像はがばっと身を起こす。「歯が痛い! 何なの~~これ一体!」はっ、と起きかけたすぐ近くにウコン変化の顔があって、彼はぎょっとして叫ぶ。
「何? ウっちゃん! どしたんそのカッコ」
「デンちゃん、変化!」ウコンのいつになく切迫した口調にデン、即座に周りの状況を目に収め同時に気配を感じ取る。反射的に
「見参!」
みごと、一瞬のうちに若草変化が出来上がり。ウコンと共に台座の上に立ちはだかる。
「ど、どーゆーこと!?」状況が上手く呑み込めていないサクラ。そこにちょうど駆けつけたのは
「ユキ!」サクラが叫ぶと同時に、殿下の後ろに小柄な影がぐい、と迫る。
「ちょっとオジサン、少しでも動いたらカミナリくらいの衝撃がくるよ」
「……スタンガンか」
「オジサン、ヘンゲ封じのバリアはあるみたいだけど、生身の人間には疎いみたいだね」
ツヅキがしっかと、殿下の動きを封じていた。
「奴らに復讐するのは、僕だけで十分だ」ぐい、と後ろから武器を押しあてる。
「教えるんだ、殿下。どうしたら奴らは元にもどる?」




