歌劇 マイダス王金銭慾 序曲
「人の欲望に、限りなし」
ものから団第四支部名誉支部長の『殿下』は相変わらず、すらりと華奢な指を組み合わせ、ゆったりと座っている。
スティールの折り畳み椅子であっても、彼が座っていると、まるで金銀宝玉で飾られたゴウシャな玉座におわしますように見えるのが不思議。
「今度の計画は、少し凝っています。ヤツらの欲望波長に焦点を合わせ、その欲望を実体化させるのですよ」
「もう少し具体的におっしゃってください」
「キミはギリシア神話に出てくるマイダス王の話を知っておりますか」
「前出し王、ですか」部下のコードネーム『Aマイナー』は何かとんでもないものを想像してしまったようだ。「はしたない」
「はしたないのはあなたの存在そのものです」さらりと殿下は彼を全否定。
「ま、いいでしょ。説明して差し上げます。彼は自らが触れたものは全て金に変わるよう神に祈った。願いは聞き届けられ、彼が触れたものはたちどころに金に変わった」
「すげーですね」
「……だが、彼が飲もうとした酒も、食そうとした果物もすべて、金に変わってしまう。彼は莫大な富を得つつも、それを使う事すら能わなかった」
「あたわなかったんですね、」Aマイナーも神妙な顔してうなずいている。殿下の日本語が完全に理解できているのかは疑問だったが。頭の中できっと、あたわったり、あたわなかったりしているに違いない。
殿下は高貴なる手つきで目の前のコーラ瓶を取り上げ、静かに傾けた。
「それにヒントを得た仕掛けが、今回開発されたのです。
ヤツら変化が欲しいと思ったカネが、その金額だけぴったり、彼らの目前に姿を現す。拾おうとする時にそれは実体化する。意識下感知装置と自動換金システムとを組み合わせた全く新しいシステム……名付けて
『マイダス王プロジェクト』
実体化する場所は、他の人間が見ていない場所と定められている。カネを拾う瞬間にあたりをうかがい、人けがないのを確認するでしょう? 変化の思念をサーチする機能がついているので、それをセンサーとして利用するのです。
例えば、変化のひとりが千円必要と感じつつ道を歩く、すると目の前の道路に千円が見える。あたりを伺ってからコッソリ拾おうとしてその札を手にとる、そうすると……」
「わかった」Aマイナーが大声をあげた。
「そのカネからヘンな電波が出ていてヤツらをおかしくしてしまうんだけど、またどっかから野良犬が飛び出してきてヤツらを追っかけまわしてどっか明後日のほうへ行っちまうんだ」
殿下は露骨に顔をしかめた。
「アナタは余計な記憶領域だけは妙に発達しているようですね」しかしすぐ気を取り直す。
「ま、いいでしょ。つまりそのカネは釣り餌、それに触れた途端、発生するタキオン粒子とエネルギーにより、彼らは凍りつき、立て続けにワープ転送されるのです
……元々カネのあった場所、つまり我々の基地に」
「イヌが出てくるヒマがないんですね」Aマイナーはよっぽどリレー大会の時で懲りたらしく、そうつぶやきながら何度もうなずいていた。「見事な計画です、殿下」
殿下は、その賛辞に鷹揚に会釈を返すと、コーラ瓶をまるでシャンパングラスのように持ち上げてみせた。
「この俗世間の全ての物欲主義者どもに、乾杯」




