地球を大切にね 02
「どうして分かるんだ」
「そうよ、掟は破れないわ」サクラも一歩、ワカクサに寄った。
「う……ん」
その時、彼らの戦っていた工場跡地に、どやどやと人が入ってきた。取り壊しの作業らしい、かなりの人数だ。
「な、なんだコイツら」親方らしい一人が大声をあげた。
バラ、弱りきった目を向ける。
「やば。テッテー的に、間が悪いなー」
「おい、立ち入り禁止だぞここは」威勢良く歩いてきた親方、急に足を止めた。何か考えているようだったが、いきなり両手で頭を抱え、その場にうずくまった。
「どーしました」駆けよってきた連中も次々と頭を押さえて倒れていく。
「何なんだよ、いったい」アサギ、彼らのもとに駆け寄ろうとしたが動けない。
かすかな振動は、いまや骨組だけになった工場の建物全体を不気味に震わせている。
ぱら、ぱらと錆ついた欠片が彼らの頭上に降りかかる。
「あの人たちをどうしたんだ」バラが言い終わらぬうちに、彼らは揃ってゆらり、と立ち上がった。
どの顔も一様にこわばり、仮面のように虚ろだ。そして、みな口々につぶやいている。
「おきてを、まもれ、こーさんしろ、おきてを、まもれ、こーさんしろ、おき」
「何だよこれイッタイ」
「ものから化だ……」ワカクサが、絶望的な目でつぶやいた。
ものから化した連中、わらわらと五人の周りを取り囲む。
「まもれ、こーさんしろ、おきてを」
「そーよ」サクラの口調も、彼らとすっかり同じく平板だった。
「アナタが斬れば、この人たちも死ぬのよ。降参しましょう」
「その刀を、捨てなさい」オゾーンは優しく囁く。
「うーん、どうしようかな」
「あまり考えていると」ぼっ、と彼らの周りに火柱があがった。
あっという間に、炎は高くたかく彼らを取り囲んだ。
「この生身の人たちが、焼け死んでしまいますよ。かわいそうでしょう」
その人たちは、別に可哀そうといった感じもなく、燃え盛る火には目もくれずにまだ同じ言葉をつぶやき続けていた。「……さんしろ、おきてを……」
「だよねえ」ウコンも納得している。
その声を聞いたとたん、バラはがちゃん、と破魔の刃を捨てた。
「よし決めた、コーサンしよ」
その途端、地の底を揺るがすような唸りが止み、彼らはふっと体が軽くなってよろめいた。
「ふははははははは」オゾーン、ずいと前に出て、その刀を拾い上げようとした、が、そのきわ
ワカクサが横から飛び出し、タンクの体を突き飛ばすと刀をすくい取った。
どんがらがらがらがらかっしゃ~~ん ぷしゅーぷしゅーぷしゅー
「何をするっ」
その途端、あの唸りが再び彼らを包み込んだ。
「な」バラ変化、それに他の変化衆も、ワカクサの方を気でも触れたかという表情でみつめている。
「どーしちゃったんだよ、ワカ」
「今度こそ、負けるワケにはいかんのや」
ワカクサ変化、真っ正面にバラ変化の顔をみる。
「頼む、バラちゃん。コーサンするなんて言わんといて」
「ワカ……」バラ、四方をやっとで見渡しながら
「んだってオマエ、このままじゃ」そこではっと気がついた。
「今度こそ、ってどういう意味だよ、オマエ」
「ウチなあ」炎の照り返しの中、ワカクサ、かすかに口もとに笑みを浮かべている。
「前にも、やってたん」
「えっ」
「前にも、こうして戦ってたんだよ」
「て、ことは」バラ変化、周りの状況もすっかり吹っ飛び、でっかい声で叫ぶ。
「へんげぇ!?」
若草が叫ぶ。「みんな、破魔の力が切れてまう、はよ、パワー送り直して!」
ほとんど反射的にみな、手を差しのべ、自らの太刀に思念を加えた。ワカクサの手の中で分離しようとしていた太刀は再びひとつに融合し、直視できないほどの光を放った。
「バラちゃん!」ワカクサが投げた太刀を、バラはしっかと手に収めた。瞬時にその太刀は息を吹き返す。彼は刃を握り直し、息もつかずにまっすぐ、敵の懐に飛び込んだ。
「ぐをぁっっっ」ばふ、と鈍い破裂音をたてて、アンドロイドはもろ手を挙げて崩れ落ちた。そして、みるみるうちにただの鉄くずと化していった。
すべては瞬時の出来事だった。炎が幻と消え、あの気味の悪い唸りがぴたりと収まった。
人々は、いきなり眠りから覚めたように、はっと顔を上げる。
バラ変化、すかさず片手を高く挙げ
「散!」高らかに叫ぶと、五つの影は目にもとまらぬ速さでそれぞれの方向へと散っていった。
ややあって
「おやかたー」
一人が、間の抜けた声をあげた。「何か、見ました? オレ」
太い眉の間を押さえていた親方、田沼源蔵52歳、やっとのことでその手を離す。
目の前には、何だか小汚いタンクのような鉄くずがひとつ、転がっていた。
「……とりあえず、こっから片付けるか」
今夜はあんな酒はやめておこう、作業につきながら彼はそんなことを思っていた。




