地球を大切にね 01
その戦いは楽勝、のはずだった。
「この世の闇を斬り裂く、破魔の刃受けて……」
バラ変化が大見得きって光り輝く太刀を振り上げた瞬間、敵が大声で
「待あぁっっった!!」
をかけた。
今日の敵は、環境を考えないアンドロイド、正式の名を『環境不適応型ロボット・オゾーンⅢ』。
手足の指先や、体中のいたる所にフロンスプレーのノズルがくっついていて、何かの拍子にそれが押されるたび、しゅーしゅーと音たててフロンガスが噴き出るようになっている。
しかも、体全体が巨大タンクとなっており、背中にはフロンガス製造機まで装備。いつ、いかなる時でも好きな時に好きなだけ、ガスを出すことができるのだ。
始め見た時、バラ
「なんだかなあ……」思わずため息。
「セーギって、何だろな? って思わない? 時々」
急に話しかけられて隣のワカクサ、軽く彼の肩をたたく。
「ま、オセンチな話はオシゴトの後でゆっくり、ね」
それでも気力を振り絞り、こんな敵相手でも一生けんめい戦いはしたのだ。
それがいきなり「待った」ときたもんだから、バラ、斬り込みの態勢を崩し
「何だよ」休めの姿勢になった。
「斬っちゃいなさいよ、早く」イラチのあかね・サクラが横でせっつく。
いばりくさった口調で、オゾーンが言った。
「私を斬ることはできぬぞ、変化たちよ」
「くっそー」アサギもムカついた様子。
「たかだかタンクのクセして、デカい口たたきやがる」
バラ、刃先をアンドロイドに突きつける。
「どーして斬れねえんだよ」
敵は悠々と答えた。
「なぜならば、私を破壊すると大量のフロンガスが放出され、地球のオゾン層に多大なダメージを与えるからだ」
「おっきく出たわねー」サクラ、けっこう喜んでいる。
「大量って、どのくらいなの」ウコンが聞いた。
オゾーン、少しばかり考えるように間をあけてから「かなりのもんだ」
「なーんだ」バラは安心したように太刀を構えなおした。
「大爆発でもすんのかと思った。そんじゃ、この世の闇を斬り裂く……」
「まてまてまてまてまて、聞いてください」敵はあわてた。
「お前ら、何とも思わぬのか」
「何を」
「オゾン層を護ろー、とか、地球を大切にね、とか」
「いや特には」バラ、左側にいたアサギをちらとみる。アサギ、軽く肩をすくめる。
バラは代表して答えた。「そんなコトまで、考えてねーよ」
急にオゾーン、低く嗤い出す。伍人衆、ぎょっとして身構えた。
「お前ら、知らぬとみえる」
「何をだ」
「伍人衆の掟をだ」
バラ変化、首かしげて他の変化と顔を見合わせる。
「なにそれ」
「教えて、ほしいか」
敵の声がぐん、と下がり、バラは思わず身を乗り出す。
「ああ」
「伍人衆の掟、其の一」他の変化も知らず知らず、もう一歩ずつ前に出る。
「『世のため、人のため、正義に反することをするべからず』」
「してねーし」
「いや、オゾン層破壊は、正義に反することだ。それは、解るな」
「ったってなー」バラはあやふやな声をあげる。
「ゴチャゴチャ言わせてねえで、はよ斬れや」アサギ、とうとう堪忍袋の緒が切れたようだ。しかしオゾーンは動じた様子がない。
「斬ってみるがよかろう。その代わり、刃が私に触れるか触れぬかのうちに、オマエらは消滅するぞ」
ロボットの声は、今や聴き取れるか聴き取れないかくらい。そしてゆっくりと一定のリズムをもって響いてくる。
「どうした、斬ってみるがよい」
「うーん」
「やれ」
「なんか……」ウコンがぼんやりとつぶやいた。
「なんかさ、頭痛くなってきた」
「アタシも」サクラが頭を押さえている。
「オイ、ウメボシ」アサギの声も、どこか不明瞭だ。
「ヤバイぜ、なんか、これ……」
「うん……」バラ変化、じりじりと敵との間を詰めつつも、やっとのことで声を出す。
「オレも頭痛え。何だかヘンな感じするな」
「オメエが狙ってるからじゃねえのか?」え、何を? という顔でふり向くバラにアサギが続ける。
「あのクソタンクを」
「マジかよ」
オゾーンはその間にも、骨の髄まで響くような気味の悪い唸りをたてながら、少しずつ、にじり寄って来ている。
「その通りだバラ変化。お前が掟に反する行動を取り続ける限り、お前らのパワーは少しずつ無くなって」
「嘘だ」今まで黙っていたワカクサが急に叫んだ。
「バラちゃん、早より、早よ斬って、間に合わんくなる。コレは……」
「ダメよ」サクラもひとり言のようにつぶやく。
「斬ったら、みんな死ぬわ」
「死なへんて」
「いや」アサギも額に手をやっている。「オマエ、掟も忘れたのか? ワカ」
「ヤツの言うこと、嘘や」そう言うワカクサの声も、苦しげだ。
「どうして分かる?」
バラ変化、すっかり人が変わったような冷たい声でワカクサに向き直った。手には、しっかり破魔の刃を握ったまま。




