あかねは無慈悲な夏の女王 01
「たいへんだみんな、集まってるか、聞いてくれ」
拓人、秘密基地に飛びこんだ。
基地と言っても、とある高校の部室をひとつ、払い下げてもらったやつだ。
昔、写真部が使用していた部屋で、場所はちょうどグラウンドの真下。
いまだ淀みの抜けない空気の中、そこかしこにスナップ写真が散らばっている。
初めてこの部屋を見せられた頃、「わあ可愛いワンちゃんねえ」デンちゃん、落ちていた写真を拾い上げ、じっと見てからぽそ、とそれを取り落とした。
犬の口から出ているのは正真正銘のエクトプラズムだった。
他にもアタマ数のわりに腕の数が多い、鶴亀算の問題にはちょいとふさわしくないような集合写真やら、窓に首だけニヤリと笑うヤツやら、妖しさ尽きるコトなし。
写真部は写真部でも、心霊写真部だったらしい、と彼らはずっと後になって気づいたのだった。
まあ、それでも明日から夏休み。
でもやっぱり、そこに集まっていたメンバーはみな冴えない顔している。
「てめー」スーちゃん、読んでいたマンガを放り出し(部室に落ちていたのだから、表紙がそれなりに血ぬられている)、ゆらりと立ち上がった。
「遅刻はてめえだけだ、タコ。このクソ暑いのにこんなトコに呼び出しやがって」
あかねも、いつになくイライラしている。
「ったく。地下の秘密基地だって言うのにクーラーもないんだから。それに何このホコリ」
上のグラウンドでは、サッカーの招待試合の最中だった。選手が走り抜けるたびに部屋中、不気味な振動が伝わってくる。こぎれいな女子高に慣れきっているユキは、心配そうに天井を見上げていた。
「ユキまで呼び出して、一体何の用よ」
「オメーら、聞いて腰抜かすなよー」拓人、ポケットから何か取り出そうとして
「あれ」なおも、探っている。「おっかしーなー」
その様子をさんざん観察しておいてから、朔太郎がおずおずと
「タクちゃん、これ?」
自分のポケットから、白い封筒を取り出す。
「あれ? 何でぇ?」
「さっき教室前の廊下で拾ったんだけど、あの、表を見たらさ」
宛先には
『県立とある高等学校 旧 心霊写真部付き
伍人衆変化メンバー様各位』
と、ある。
「そ、これだよ。で、問題は差出人」拓人、くるりと封書をひっくり返す。
『ものから団 総帥 取締役団長 ハピネス中目黒』
「ひえええ」みんな、飛び退った。
「爆発物だぜ、きっと」
「いやいやいやいやカミソリ仕込んであるん」
「いやー、名前も趣味悪い~」みんな、てんでにパニクっている。
「待て、落ち着けよ」
拓人、みんなを下がらせておいてから、用心深く封を開ける。
中に入っていたのは普通の上質紙一枚。何だか印刷してある。渡されたデンちゃん
「なになに……
『暑中お見舞い申し上げ候。日頃より我が団の活動に多大なご理解ご協力を賜りまして』なんや、見てみ、ココ」みんなで額をくっつけ合う。
「なんですって、
『勝手乍、八月一日より八月一五日、夏季休業のため、ものから団の活動を一時停止させて頂きますので悪しからずご了承下さい……』なんや、夏休みのご案内やて」
「なーんだ」ユキとあかね、同時にベンチに腰を下ろす。
「てコトは、だ」拓人、あごの下に手を持っていって
「少なくとも、この半月間はみんなで固まっている必要がないワケだ。久々に、変化から解放されるのか……」だんだんと、顔が緩んできている。
「待てや」スーちゃんはあくまでも疑い深い。
「ワナだったら、どーすんだ」
「だいじょーぶだいじょーぶ」もうすっかり拓人の口調はライトでビビッド。
「と、ゆーワケだ、みんな、元気でなー」
気がつくと、彼の姿はもう消えていた。
「あんニャロー」スーちゃん、怒りきれない。
「八月からだろ? まだあと十日もあんじゃねえかよ、タコ野郎め」
「ま、スーちゃん、あのお人はそーゆーお人ですんで」伝助、いつものなぐさめ。
しかし、残りのみんなの表情は、さっきよりかはずいぶん明るい。
「ねえ」帰りかけたあかねに、ユキが尋ねる。
「ココ、何?それにこの写真……」
ユキが一枚拾い上げたのを横からさっと奪い、あかね、ぽいっと向こうに投げ捨てる。
「だめ、拾っちゃ」
「どーして」まだ事情を聞かされていなかったユキ、無邪気にそう聞いた。
「だって……後始末がタイヘンなんだから。ネガごと焼却したり、お線香たいてお寺で供養したり……ま、いいから行こ」
七月中は幸いにも大きな戦いもなく、比較的平穏な日々が続いた。
そして八月。
「あーあ」
あかね、カウンターで大あくび。
真夏のドーナツ屋は、けっこうヒマだ。
「それにしても、みんな薄情なモンよねえ」
ユキは、高校の研修旅行で北海道、拓人は行方知れず、朔太郎は愛媛の親戚へ、スーちゃんは奥多摩のダム工事、デンちゃんは京都の知人宅。
結局、ここ、とある町に残っているメンバーはあかね一人だけだった。
「スーちゃんみたいに体力があれば、がっぽり稼げるのになあ」
ダム工事が一日二万からと聞いて、あかねはつくづく、自分のバイトが空しくなった。
「なんか、金になるコトってないのかしら。こう、濡れ手に粟、ってゆーか、一攫千金、てゆーか、漁夫の利、とか棚からボタモチ、つうのもぐっど」
ぼんやりとカウンターに頬杖ついて、はあ、とため息なんかついているトコロは、まるで夢見るぢょしこーせー。絵になっている。町内一の金の亡者になんかは全然みえない。
かよわい乙女の祈りは、しかし、意外な方法でかなえられることとなった。
なんと、続く! ホントーに続くのか? あかねの運命、特に金運や如何に!




