あかねは無慈悲な夏の女王 02
お土産の生八つ橋を抱えて、デンちゃん、いそいそと学校の正門をくぐる。
と、その時、彼は背後にかすかな気配を覚え、ぴたりと足をとめた。
「たっ」すかさず高く跳躍し、同時に変化した。頭上の松の枝に飛び移り、じっとあたりをうかがう。
人っ子ひとり、見えやしない。聞こえるのは蝉の声くらいだ。
「もしや、セミ……? でなきゃ……松?」
ワカクサ変化、疑いながらつくづく情けなくなった。何でもとにかくものからを疑ってみる、このクセ。
京都の知人からも
「デン、性格ちと変わらへんか」
と言われてしまったし。
しかし、セミやら松やら校門やらには、とりあえず危険はなさそうだった。
(まだ、13日なのに)スーちゃんの、ワナじゃないか? の言葉を思い出す。
それにしても、あまりにもタイミングよすぎる。少し前もってミーティングだけでもしておこう、と集合を決めた日に、いきなり基地の近くで気配を感じるなんて。
彼は首をめぐらせた。仲間の姿さえみえない。
「うーん」ワカクサ、アイマスクをちょいと上げて、『凡人サイト』でもう一度あたりを見渡す。
「我ながら、アホやね」つぶやいて下を見るとすぐ松の木の根元に、あかねがいた。
「あれ、あかねちゃん」
ワカクサ、ぴょいと木から飛び降りる。「びっくりしたわぁ、いつ来はった」
そのとたん、猛烈な気配を感じて彼はがばっと身をかわした。
あかねが変化していた。
が、いつもの変化ではない。頭にガン・メタリックの王冠、黒いアイマスク、むき出しの肩の下は黒いボンデージスタイルのボディースーツ、黒の網タイツにエナメルのハイヒール、手にした鞭で、猛然とワカクサに襲いかかる。
「な、何ですのんコレ」ワカクサ、逃げに徹しながらもなんとか問いただしてみる。
「あかねちゃん、こら、どーしたん、いで、いでででで、これっ、あかねちゃん」
その時、あかねは高らかにこう宣言した。
「あかねではないっ、ぢょおーさまと御呼び!」
いっしゅん空白となったワカクサ、ぐわんと一発食らわされ、不覚にもよろめいた。
そう言えばものからの気配はあった。それにいつものように、胸に『ぢょおーさまΣ』とネームの入ったインデックスシールも貼っている。こりゃ、どうみても敵だ。
しかし、なんかおかしい。ワカクサが決定的な反撃に出られないのにも、理由があった。
いつものアンドロイドやロボットよりも、ミョーに精巧な気がするのだ。まるで、生身の人間みたい。それも、あかねそっくり。このどーしよーもなく悩殺的なスタイルを別にしても、これではあかねそのものだ。
やっとのことで敵の鞭をかわし、ワカクサ『非常用ホイッスル・お助けピヨラー』を取り出して
ぴるるるるるるるるるるるるるるるるるる
息の続く限り、吹き鳴らした。
この笛は、伍人衆と犬のみ聴こえる特定の周波数で鳴り響く。これが鳴ると、近くにいる変化ならば気配を感じた時と同じように自動的に変化し、やや遠いところにいつヤツでも任意、変化して現場に駆け付けられるようになっている。唯一の欠点は、犬の耳にはずいぶんうるさい音らしく、近所で遠吠えが引きもきらない、という点か。
ぢょおーさまΣに殺されないうちに、なんとか他の仲間も駆けつけた。
「見参!」
ぢょおーさまも、声張り上げて言い放つ。
「覚悟をおし、伍人衆!」
「うへえっ」まだ事情が呑み込めていないバラ、のけぞった。
「なんか誰かに似てねーか?」
言い終わるより早く桜変化が叫んだ。
「な、なによあかねなの? どーしちゃったのよ?」
同時に敵も同じ声で叫び返す。
「ええい、あかねではない。ぢょおーさまと御呼びこの愚民共」
「うううう」アサギは首筋を手刀でトントンたたいている。
「オレ鼻血出そうかも」
「あ、あかね……」サクラ変化、涙声になって『ぢょおーさまΣ』に近づく。
「二、三日友だちとキャンプ行ってきます、って置き手紙してたの、コレだったの……それにしても、なんてカッコなのよ、どーせ金で釣られたんだと思うけど、よりによって」
「アンタね」ぢょおーさま、鞭先をサクラのあごに突きつけた。
「何さまか知らないケド」
わななきながらも、サクラはまともにとりあって
「女王様の、オネエサマよ」
「ったく。ちょっとカワイイからって、ざけた口きくんじゃないよ。アンタみたいな器量なんて十人並みだけど、うちの団の資金稼ぎにマカオに売り飛ばす手はいくらでもあんだからね」
「うわー」今さらのように感心しているウコン。
「ぢょおーさまだって、どこの国?」
アサギが答える。「せっけんの、くにかな~」




