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伍人衆変化<ごにんしゅうへんげ>見参!!  作者: 柿ノ木コジロー
よにんからごにん、と思ったら 驚愕
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おー、ふぉーちゅな

「由希さん」

 はじめ、自分のことだとは気がつかず、あかね(今は聖ニコラウスの制服に身をつつみ、『ユキモドキ』であるが)すたすたとその前を通り過ぎた。

「ユ・キ・さん」

 うわ、いけない、ユキったら何してんのよ、内心あわててふり返る。

「はい?」

 それでも、顔にはしっかりと『ユキスマイル』を貼りつけて。

 腕組みをして、さんさんと日の当る窓際に立っているのは、

 まぎれもない『シタバキ・メクリ』 いや、北垣メグミさん。

 それと、『クソ……』いや九ノ宮カオリさん。

 逆光とは言え、今にも舌なめずりしそうな表情は、隠しようもない。

 出たな、ハナクソオンナどもめ。ユキモドキ、知らず知らずのうちに息を大きく吸い込んでいる。

 争いごとを極力避けて通るユキとは正反対に、この双子の妹あかねは、厄介事を嗅ぎつけると、サバンナでたき火をみつけたサイのように自ら飛びこんでいってしまう。

 サイと違うのは、この女、それがカネになるのなら、見つけた争いにガソリンをぶっかけるのさえためらわずにやってしまうことだろうか。

「あら、メグミさん、それにカオリさんもおそろいで」

 このリアクションに、彼女たちは目をぱちくりさせた。

 その後の言葉にも、少なからず動揺したらしい。

「一時間目からいらっしゃらなかったから、どこかでクタバッてしまわれたのかと思いましたわ。今どき学校にいらっしゃっても、購買にはもうウグイスパンしか売られてなくってよ」

 相手の隙につけこんで、あかね、ますますじっくりと敵を観察する。

 ユキに写真を見せられた時には、どちらもただの図体デカデカ、態度もデカデカ女だという印象しかなかったのだが、これは確かにすごい。デカデカだけでなくケバケバも。

 まずメグミ、はっきりした目鼻立ちは確かに可愛い。スタイルもいい。しかし、校則ギリギリのところできっちりメイクアップされた顔は、内心を映す鏡とも言える、醜い歪みにすでにおかされている。まあこのエジプト顔でスッピンだったら、人はみな魔よけだと思って、屋根の上に担ぎ上げて据え付けてしまうだろう。

 そしてカオリ、顔がデカイ上にこの髪の量。しかも自称『テンパー』らしいが、茶髪のクリクリカールが、また一層顔をデカく見せている。体つきもがっちりしている。農村で手ぬぐいかぶってまめまめしく働く方が、どんなに似合っているか、この白菜体型め。

 そして、二人そろって制服の素晴らしいこと。これは確かに聖ニコの制服だが、胸元やウエスト、スカート丈など少しずつ改ざんを加え、一見フツーのかっこうを、よくもここまで好き勝手にアレンジできたものだ。

 サブタイトルをつけるとしたら『ハイトクのカホリ』かな。あかねは彼女たちのこの無駄な労力に涙ながらの拍手をおくりたい気分にまでなってきた。

 メグミは、わずかの間に心の動揺を押し隠し、逆襲開始。

「週末は、楽しゅうございました?」

「は?」ユキモドキ、ぽかんと口をあける。

「金曜の夜は、どちらにいらしたのかしら、ねえ」

 口元が笑いでひきつれるのを、お上品にレースのハンカチでかくし、メグミはちらりとカオリを見て、それから二人でじっとユキモドキを観察している。

「金曜の、夜?」

(ええと、えーとアタシはずっと家にいたよな、ミナちゃんと電話してて、で、ユキは)

「あっらぁぁ」見事な巻き舌で、メグミ。カオリはくすくす笑っている。その少女笑いは似合わないぞ、ハクサイ。

「もう、お忘れになったの」

「ええ」正直に答える相手に、メグミはちょっと意外そうな顔になったが、すぐに舌なめずり顔に戻る(カナリア屋敷のネコだ、こういうのがそうだわ)。

「まあ、ワタクシの口から申すまでもありませんけど。でも、ユキさんたら見かけによらず、ずいぶんダイタンでらっしゃるのねえ」

「テストの時もそうでしたけど」カオリが合いの手を入れる。

「そうよね、それに一緒におられた方も、ずいぶんご熱心な様子でしたし」

「一緒? ご熱心?」

 そう言えば、ユキは出かけてたんだ。帰ってきたのが九時半過ぎだった。トヨキくんのドラマ、半分も観られなかった、って悔しがって、録画もしてるクセに……。

 でも誰かと一緒だったなんて全然聞いてないし、特に変わった様子もなかったけど。

 そう言われれば、近頃何度かそんなことがあったような気もする。

 お互いもう高校生だし、私生活についてはそれぞれの暮らしを尊重し合っているつもりなので、彼女がどこにだれといようが、あかねには特に問題はないはず。

 しかしメグミのこの言い方からすると、一番考えられないことだが……

「冷たいのね、ユキさんたら。あの時はあんなにしっかり手を握られてたんじゃあないの、あの方に。とある高の制服でしたわね、確か」

 オトコか、しかもあかねの学校の。

「しかもユキさん、手をひっこめもしなかったご様子で、まんざらでもなかったのかしら」


 かつて、町なかでこんなことがあった。お店の前であかねが出てくるのを待っていたユキ、ぽん、と後ろから肩を叩かれた。

「なんだよぉ、今日はヤケに澄ましちまってさぁ、どーしたんだよビョーキ?」

 ぞんざいそうなスポーツ刈りのニイチャンがチャリで通り過ぎざま、そう叫んで去って行った。あとで判ったが、あかねのクラスの今井という男だった。

 もちろん、今井クンにはぜんぜん悪気はなかったんだって、アタシと間違えていただけだし。何度もそう言ったが、ユキがそのショックで二日ばかり熱出して寝込んだのが、つい昨日のことのよう。


 そんなユキが、オトコに、手を握られていたぁ?


 しかし待て。メグミがかなりの『ジャロ』かも知れない。

 問題は、このオンナが何をどこまで見ていたかだ。

 心の声が聞こえたのだろうか、メグミが続けた。

「びっくりなさるでしょうね、その方がどーゆー方か、ワタクシたちも知ってる、なーんて言ったら」

 またカオリがくすっと笑う。だからやめろ。四つに割ってキムチに漬けるぞ。

 しかし、何だか謎かけの世界。あかね、気づかぬうちに身構えている。

 ユキったら、何してたワケよ?

「メグミさんやカオリさんが、ご存知なの?」

「ええもちろん」相手がかなり警戒しているのをみて、彼女たちは背筋がゾクゾクするほどのコーフンを味わっているようだ。今や、うす笑いを隠そうともしない。

 ユキモドキの態度を、すっかり取り違えているらしい。

「たまたま、カオリさんのお連れがね、教えて下さったんですのよ、かなりユーメーな方だったみたいじゃない?」

「ユーメー」オウムのように、ユキモドキは繰り返す。

「と言うより、メイブツ、と言った方がよいんじゃなくて?」カオリもレースのハンカチを出して口に当てた。はいはい、ちゃんとブランドのロゴがこちらに見えてますわよ。

「あの方、ほら、お名前が」じらすなよ。

「あの方、そう、イクシマ・タクトさん」

 ユキモドキ、声も出ない。得意げに続けるカオリ。

「かなり前に、こちらの近くに住んでらして、なにか……トクシュな学級か何かに進まれるので、あわてて引越しなさった、って。オトモダチでしたのねえ」

 完全に了解。と、同時に新たな謎。

 ユキが、あの忌まわしいイクシマタクトと? 二人で? 手を握り合って?

 アイツのおかげで完全なる男性不信に陥ったと言っても言い過ぎではない、あの引っ込み思案のユキが?

 ユキモドキの顔色が変わったのをみて、ますます彼女たち、図に乗った。

 カオリがたたみかけるように言う。

「そう、何でもオツムのせいで普通の中学に通いきれなくなって、お母様といっしょにほとんど夜逃げ同然で街から出て行かれた、ってワタシの連れが」

「彼はね、字がうまく読めないの」ユキモドキ、感情を殺した声でカオリの言葉を遮った。

「失読症、って言ったわ、確か。それ以外はまったく普通なんですけど」

 いや、普通以上というべきか。

 悔しいながらも、あれほど彼を毛嫌いしているあかねですらも、彼の一種特別な能力、インスピレーションの鋭さとでもいうのだろうか、判断の素早さ、意思を行動に結びつける力の確かさというものに、ある意味では一目おいてはいた。

「ああら、そう。じゃあ、あんな所であの方に親切にそこらの看板でも読んでさしあげていたのかしらね」

 だんだん、メグミからもゆとりの笑みが消えていく。相手が思ったほど狼狽していないせいもある。

 それよりも彼女をビビらせているのは、ユキモドキの目の中の光。

 メグミもカオリも、ここまで断固とした挑戦を受けたことがない。

 地元の運送会社の一人で、ほしいものはつぶやくだけで目の前にすべて揃うこの『第二十八回および二十九回ミス聖ニコラウス』のメグミと、大学教授と医者を両親に持ち、兄が有名なスポーツ選手(何のスポーツ? サッカーか鬼ごっこかそんなもんかな)であるというカオリとは、それでも彼女らなりに、勇敢に『弱い者いぢめ』を続けた。

「たいしたボランティアねえ、ユキさん」

「もしかして、ホテルでもかなりご奉仕されたんじゃ、なくて」

 ここでユキモドキ、出方を決めた。すっ、と一歩、彼女たちの前に進み出る。

「メグミさん、それにカオリさん」

 二人の顔を交互に見据える。声の調子があかねに戻り、今や、イニシアティブを完全に我が手に握る。

「彼のオツムがどうのこうの、あまりとやかく言わない方がいいわよ。

 この世にはね、世間から見れば日常生活でいろいろとハンディを背負ってる人もいるけど、誰しも何か、世の中に活かせるものは持っているものなの。

 それにどんな人間一人ひとりにも何かしら、世の中に対してハンディがあると思うの」

 彼女たちの顔に、注目。ハトが豆鉄砲(ただし核弾頭つき)をくらったかのよう。

「アナタがたのように、見かけはカンペキ、環境もカンペキ、同性のワタシからみてもホレボレしちゃうような方でも」

 とりあえず、メグミの鼻先にびしっ、と指をつきつける。今やすっかり毒気を抜かれたミス・聖ニコラウス。

「心の中にどんな疫病が巣くっているものやら。ハタが気づかない分だけ、重症なのよ。ワタクシ、同情すら覚えるわ」

 あかねが一歩離れると、メグミ、思わず足をよろめかせる。カオリがあわてて支えた。

 幼子を見守るようにあかね、二人ににっこり笑い

「ニンゲン誰しも、五十歩百歩なんでしょうね、ところで、ごめんなさいね難しい言葉ばっかり使ってしまって。あとで図書館でお調べになってね。図書館、どこだったか覚えていらっしゃらなかったら、またお聞きになってちょうだい」

 捨て台詞を吐きまくり、くるりと向きをかえて、つかつかと去って行った。

 後に残された二人組、すっかり灰になっている。まだ自分が敗北したのにも気がついていないかもしれないが。


 あの手のオンナどもは、そんなものよ。あかね、高揚した気分が冷えてくると、今度は冷たい怒りがふつふつと湧き起こってきた。

 どうしてアタシがあんな初対面のポヨンチョオンナどもに、いちばんキライな、憎んでも憎みきれない男のことを弁護してやんなきゃならないワケ?

 それにユキがアイツと会ってたって、なに?

 拓人が姿を現してから、なんだかやはりロクなことがない。

 もう頭の中がグチャグチャ。ヤミナベでゴムゾウリが出てきたくらい、キている。

 とにかく家に帰ったら、ユキを問い詰めなくちゃ。そして事情がハッキリしたら、今度は拓人にびしっと釘を刺してやる。ホンモノの釘よ、五寸釘。

 なんにせよ、拓人の方が悪いに決まってるから。

「アタシたちに構わないで、一生アンタとは口もききたくないし、視線すら合わせたくない。いっしょの空気も吸いたくないから、目障りなところでうろつかないで、いいわね」


 ずしずしと歩いていく聖ニコの『ユキモドキ』、しかしその日の放課後には、思いもかけない方向に人生の途をそらせていくことになる。

 ああ、運命ってば。


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