クマさん貯金は利率ゼロ
「伍人衆変化、見参!」
声がぴったしそろった時、浅葱変化は心の中でこうつぶやいた。
「ったく、やってらんねえぜ」
が、自然、体が動いてしまうのが、この変化の辛いところだ。
薔薇変化が跳ぶ、と同時に、自分も敵の背後に大きく跳んでいた。
「たっ」桜変化、得意のまわし蹴りでものから団の一人を倒した。面白いことに、あかねの時もユキの時も、同じようなまわし蹴りをする。
若草は空手。鬱金(彼、浅葱はいつも「ウンコちゃん」と呼んでいたが)もがんばっている。二人の敵に両方からかいなを取られたが、一人はうまくふりほどき、もう一人をはずみをつけて背負い投げた。
「おお、やるやる」のんきにそう思いつつも、自分だっていつの間にか
びしっ
ケンカで鍛えた左拳が相手のみぞおちにめりこんでいる。
右からのヤツのパンチをひらりとかわし、一歩後退。ちょうど同じように後ろに下がった薔薇変化と肩がふれる。立ち位置的にちょうどいい。
「おう」背中越しに、相棒(今だけ)に声をかける。
「どうだ、そろそろイくのかよ」
薔薇変化はちらりとふり返り、マスクをわずかにずらしてささやいた。
「だめ」
「なんでだよ」
「なんででも」
「わかった!」一歩踏み込んできた敵に強烈な蹴りをくらわし
「またオマエ、アレ忘れて来たんだろ」
「アタリ」
薔薇変化、いったん身を沈ませて、突進してきた敵の下に潜り込んでから勢いよく体をはね上げた。
だが、敵はますます増えてくる。しかも
とうとう出てきた。今日のお相手・シンウチは製紙型アンドロイド、パルプン。
どうしていつも名前まで判るかっつうと、胸のところに名前のついたインデックスシールが貼ってあるからです。便利だね。でも老眼だと読めないかも。
「ぷ」危機的状況も忘れ、薔薇変化ふきだす。「ぱるぷんだって? ぴんぽろぺ~ん」
後ろからドツキを入れる浅葱。
「てめえパワーチェーン忘れて来やがっただと?」
「ちゃうよ、アサちゃん、パワーロックチェーン」ちっちゃな声で、薔薇、付け足す。
「はーふのくせにえいごもしらないんだから」
「聞こえたぞぉタコ。そんでどうつけてくれんだよ、この落とし前」
薔薇、遠くで息を切らしている鬱金に、すがりつくよな声で
「ねえねえウッちゃん、まさかさ、持ってないよね……」
「う、なにお」
「パワーロックチェーン」あるわけねーだろ、と浅葱が言うより早く
「あるよ」懐から、ぐるぐるに巻いた鎖を出して、放ってよこす。
「なんでだよ!」
「今朝さ、たく、う、バラちゃんち寄ったらさ、玄関の前に弁当が落ちててさ、」
「あー、誰かに盗まれたかと思ってた」
「それと一緒に落ちてたんで、自転車のチェーンかなあって思って、それがあの?」
「そうそう」薔薇変化、両手で鎖を頭上高くかかげ、巧みに回し始めた。初めはゆっくり、そしてだんだん速度を上げ、ついには目に見えぬほど速く。
パワーロックチェーンは、伍人衆の武器のひとつ。鎖を回転させることによって、一人ひとりの思念をとらえ、増幅させ、巨大なエネルギーに変えて敵を撃つのだ。
「ウっちゃん、ホント、オマエってやつはサイコーだよ」薔薇の声は感動で震えている。
ちょいと小太り、だいぶスローモーな朔太郎には、だがしかし、すさまじいとも言える能力があった。
いつも必ずと言っていいほど、その時必要になる小物がポケットに入っているという恐るべき能力。しかも、これは変化中に限ったことではないから、ますますすごい。
朔太郎の両親は、幼い頃から彼のこの能力にうすうす気づき、始めは恐れおののいていたが、やがてそれを認め、放っておくことにした。何かと、便利だったからだ。
まあ、それはさておき。製紙型アンドロイド・パルプンは彼らの武器の前にあっけなく敗れた。詳細は、聞かないでください。
戦い終わって、黄昏にたたずむ薔薇変化に、桜、歩み寄る。
「薔薇変化」ぽむ、とと彼の肩に手をおいて、しみじみと
「罰金、払ってもらいましょうか」すっ、とかわいい小熊の貯金箱を彼の前に差し出す。
「オ、オマエこんなところにまで持ってきたのか」
「そうよ。お金は記憶に新しいうちに回収しとかないと。で、伍人衆キットの忘れものは百円、だったわよね」
薔薇、情けなさそうにあたりを見回す。目があった若草、果てしなく憐みのこもったまなざしでしかし
「ま、みんなで決めたことやし」きっぱりと言い放つ。
「ぐをぉぉ」意味もなく呻きながら薔薇変化、コスチュームのあちこちを探り、ようやく百円玉をみつけた。
「くれてやらあ」ちゃりーん。
「あ、り、が、とー」浅葱、クマくんの声色でかわいくごあいさつ。
やったぜ、伍人衆! 今日も快勝! いつまでも、あると思うな金と運。
(続かず)




