いざ冒険へ⁉︎いや冒険者の正装!
「たのもー!」
「たのもー?」
冒険者ギルドのドアがバンッと勢いよく開いた音、それに振り向くギルド職員や冒険者たち。
威勢の良い声と、言葉の意味がよくわかっていないであろう少年の声がギルド中に響き渡る。
「あの・・・。ドアはゆっくり静かに開けてもらえませんか⁉︎」
音に驚いた一人であるリーナが来訪者であるオーウェンとアリオに小言を言った。
「はあ、とりあえず応接室を押さえるので一緒に来ていただけますか?」
3人は昨日の応接室へ向かった。
応接室にあるソファーに向かい合うように座ると、リーナが抱えていた書類を長机に広げた。
「こちらが冒険者登録証とその受領書、こちらは【冒険者之掟】の写本、それとこちらはダンジョン探索許可証です」
受領書にサインを、写本は無くさないように、探索許可証は再発行は可能だが再発行にはエルフリア王国か西方諸国連盟が発行する金貨一枚が必要、と手続きを手早く済ませていくリーナ。
言われるがままサインし、頷くアリオ。
リーナは受領書にサインがされたことを確認し、安堵したように息を吐く。
「これで手続きは完了しました。アリオ様は今日から冒険者として活動していただけます」
「ありがとな、リーナちゃん」
手続きが終わるまで見守っていたオーウェンも無事手続きが終了したことで胸を撫で下ろした。
アリオはというと、冒険者登録証を掲げ子供のようにキラキラした眼差しで眺めていた。
「これが、冒険者の証!これで冒険者になれたのか!」
そんなアリオの様子を、オーウェンとリーナは微笑ましい気持ちで見守った。
「さて、登録は済んだ。これからどうしたい?」
「決まっている!これからダンジョンに向かう!」
「ま、待ってください!その前に武器や防具、それに回復薬も用意してくださいね!」
「リーナちゃん、大丈夫だ。その辺は俺がフォローするさ!ということでアリオ、これから冒険者通りに行くぞ。そこで装備品を揃えたらダンジョンに向かおう」
「冒険者通りなんてものがあるのか!早速行こう!」
冒険者通り、冒険者ギルドから歩いて10分程度の距離にある装備品や消耗品の調達ができる店が多く並ぶ。その品揃えはエルフリア王国一と謳われるほど。
「そういえば、武器は何を使うんだ?」
武具店を見繕いながらオーウェンが尋ねる。
「そうだな、剣術が得意ではあるが、槍術や弓術も問題なく使える」
「なら武器選びは悩んでしまうな」
何も気負わずに答えるアリオ。
オーウェンは気づいてしまった。成人もしていない少年が剣術だけではなく、槍術や弓術も使えると言い切れる。それがどれだけ異常なことなのか。
実際にどの程度使えるかはわからないが、もし『ウェストニア王国近衛騎士を基準に』使えると言っているのだとすれば、すでにその実力は西方諸国連盟の最上位に位置することになる。
まあ、ダンジョンで測ればいい。オーウェンはそう結論づけた。
「やはりこれに決めた!」
一時間ほど悩み、多くの武具店を周り手に取ったのは片手剣。
金額は銀貨15枚程度で片手剣としては一般的な価格。
しかしオーウェンはあることに気づいた。
「これは、エンチャントか?」
「はい、これは切断強化が施された剣です。しかし正しく刃が入らないと通常よりも切れ味が早く落ちてしまうという欠点もある剣でして」
店の店主が二人に声をかけてきた。
エンチャントを施した剣は、通常の剣よりも高価になる。
アリオが選んだ剣にもエンチャントが施してあったが、欠点も抱えていることもあり価格が通常の剣と変わらない価格で販売されているのだ。
「なるほど、切れ味が落ちるという欠点は大きいな。アリオ、その剣は扱いが難しいらしい。他の剣を選ぼう」
「ん?いやこの剣にするぞ?」
なぜ変えねばならん?と首を傾げる。
「そもそも正しく斬れば問題ないじゃないか」
王族であるが故の傲慢さか、自分の剣への自信か。
自らが選んだ剣は変えないという態度に折れたのはオーウェン。これを説得するのは不可能と断じて諦めた。
「ダンジョンで使えなかったら剣を変えろよ」
そう釘を刺すのが精一杯の抵抗だった。
購入を済ませ、店の外に出るなり抜剣するアリオ。
目を輝かせ、己の愛剣を眺めている。
「さあ、ダンジョンに向かうぞ!」
「その前に防具を買いに行くぞ!」
そのままダンジョンアタックをする勢いのアリオの首根っこを掴み、隣にあった防具屋へ向かう。
「身長はこれからデカくなるだろうから」
せっせとアリオの防具を選ぶオーウェン。先ほどまでの好奇心はどこへ消えたか、死んだ目でオーウェンを眺めるアリオ。その表情からは防具なんていらないと伝わってくる。
「なあオーウェン、俺の剣術は軽装を前提としている。そんな重装備では戦えない」
何⁉︎と驚いた顔で振り返るオーウェン。持っていた鎧兜を見つめ、そっと棚に戻した。
そこからまた防具棚を何周も周り、あれも違うこれも違うと呟きながら防具を手に取っては戻しを繰り返す。たっぷり二時間ほど悩みながらついに装備が決まった。
「これならまだ我慢できるな」
オーウェンが選んだ防具を装着し、体を動かしながら確かめる。
急所を守るようにとチェストプレート、剣を握る腕を守るためのアームガード、剣士の生命線とも言える脚を守るためのレッグガード。視界を遮らないように頭には防具はない。
全ての防具が高品質の鉄製。光輝く銀色は、美しさと共に高い防御力を有していることを
見るものに理解させる。
締めて銀貨50枚、エンチャントされた剣の3倍強。
「これは俺からの祝い品だ」
そう言ってオーウェンが防具屋の代金を支払った。
「俺も先達に払ってもらった。礼はいいからお前に後輩や弟子ができたら同じようにしてやってくれ」
礼をしようとしたアリオを制止して、そう伝えた。
冒険者は、ダンジョンのファーストアタックで簡単に命を散らしてしまう。
それは歴戦の冒険者の経験則ではなく、事実として一度目のダンジョン探索で命を失う割合と二度目以降のダンジョン探索で命を失う割合には大きな差がある。
先達の冒険者からの後進の冒険者への生きてくれという言葉なきメッセージ。
それが『後進の防具を買ってやること』なのだ。




