気になる人
教室に戻ると、遥がすぐに私のところへ来た。
「舞〜、どこ行ってたの? 探したじゃない」
「え、ごめん。遥の友達作りタイムかなって思って」
そう言うと、遥は少し呆れたように笑う。
「もー、そんなの気にしなくていいのに」
ふと、じっと顔を覗き込まれる。
「あれ? 舞、顔赤いよ?」
「え……?」
思わず頬に手を当てる。
(そんなに赤い……?)
「なにかいいことあった?」
遥が楽しそうに笑う。
——何かあったのかな。舞、話してくれるかな。
その言葉が、いつものように空中に浮かぶ。
私は一瞬だけ迷って——
でも、すぐにごまかすように笑った。
「何もないよ」
少しだけ間を置いてから、続ける。
「あの、遥……城ケ瀧さんって、誰か知ってる?」
そう聞くと、遥はきょとんとした顔をした。
「え? あたし、転校生なんだけど? 知ってるわけないじゃん」
「そっか……ごめんね。ありがと」
視線を落とした、そのとき。
「なんてね、実は知ってるよー」
くすっと笑う声。
顔を上げると、遥が楽しそうにこちらを見ていた。
「さすが遥、情報屋だもん」
思わず笑ってしまう。
「でしょ? こういうの得意なんだから」
遥は少し身を乗り出してきて、声を潜める。
「城ケ瀧って、めちゃ有名だよ? モテるし、人気あるし」
「っていうか、なんで舞が知らないの?」
「いや……私、友達いなくてさ」
軽く言ったつもりだった。
でも——
「え!? 嘘でしょ!? あのおしゃべり大好きな舞が!?」
遥が本気で驚いた顔をする。
思わず、苦笑いがこぼれた。
「あ……そっか」
ぽつりと、言葉がこぼれる。
「だからか。みんながちょっと羨ましそうに見てたの」
さっきの視線を思い出す。
「知らなかったな……」
小さく息をついてから、ふっと笑った。
「遥が来てくれて、よかった」
その瞬間。
——やっぱり、無理してたんだ。
遥の心の声が、静かに浮かんだ。
少しだけ、胸が痛くなる。
でも私は、気づかないふりをして——
ただ、笑った。
そのとき。
教室がやけにざわついた。
(……なに?)
顔を上げると、廊下の方から声がする。
「おーい、さっき階段で転んだやつ、いるかー?」
——え。
一瞬で、空気が止まる。
(……は?)
ざわざわと、いくつもの言葉が浮かぶ。
——誰それ。
——階段ってさっきの?
——え、まさか同じクラス?
その中心に立っていたのは——
城ケ瀧。
(……なんでここにいるの!?)
心臓が一気にうるさくなる。
(いや、ていうか、はっきり言わないでよ……!)
思わず机に顔を伏せそうになるのをこらえる。
「誰か心当たりない?」
城ケ瀧が、教室を見渡す。
その瞬間。
——やっぱり、何も見えない。
周りには言葉が浮かんでいるのに、
彼のまわりだけ、静かだった。
(……ほんとに、見えない)
さっきの出来事が、はっきりと現実になる。
「……あの」
気づいたときには、立ち上がっていた。
自分でも、なんで声をかけたのか分からない。
でも——
放っておけなかった。
「さっきの、私です」




