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交わる視線


俺は城ケ瀧翔太じょうがたき しょうた


霊を視える力を持っている。


はっきりと、見える。


小さい頃からずっと——嫌になるほど、見てきた。


そのおかげで、霊について調べるようになった。

名前や、どういう存在なのか。なんとなくだけど、分かるようになってきた。


日野と話しながら、階段に向かっていたときだった。


上の方から、誰かが落ちてくるのが見えた。


(危ない——!)


とっさに動く。


その瞬間。


その人の“後ろ”に、何かが見えた。


(……霊?)


違う。


(あれは……)


背筋が冷たくなる。


——死霊だ。


まずい、と思った。


とにかく支えたが、その拍子に——


“それ”が離れた。


(どこ行った……?)


周囲を見渡すが、もう気配はない。


(見失ったか……)


小さく息をついて、教室へ向かう。


***


教室がざわつく。


——さっき階段で転んだやつって誰?

——え、探してるの?

——城ケ瀧が呼んでるっぽい


いくつもの言葉が浮かんでくる。


(……あ)


なんとなく、分かってしまった。


(さっきのことだ)


(ここで言わないでよ……!)


私は小さく息をのんで、自分を指差した。


無意識に、手が動く。


——さっきの、私です。


そう伝えた、つもりだった。


でも。


(……あ)


一瞬だけ、手が止まる。


(今の……手話)


声に出したわけじゃないのに、


“言ったつもり”になっていたことに気づく。


教室の視線が一斉に集まる。


城ケ瀧が、まっすぐこちらに歩いてくる。


(ち、近い……!)


目の前で足が止まる。


何か言っている。


でも——聞こえない。


私はすぐにノートを開いて、ペンを走らせた。


『ごめんなさい。口は読めないので、書いてもらえますか?』


差し出すと、城ケ瀧は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。


それから、小さくうなずく。


ペンを受け取って、短く書いた。


『気をつけろよ。死ぬところだったぞ』


——え。


(説教!?)


周り、めっちゃいるんだけど……!


視線が痛い。


私は慌てて、またペンを走らせる。


『はい、気をつけます』


そのとき——


ふいに、横から人影が入り込んできた。


「おいおい、説教かよ」


(……っ!?)


びくっと肩が跳ねる。


知らない男子が立っていた。


口が動いている。


何か言っているのは分かる。


でも——分からない。


「せっかく助けたのに、印象最悪じゃん」


城ケ瀧が短く返す。


二人の会話が続いているのは分かる。


でも、その内容は一つも拾えない。


私は小さく会釈だけして、その場に立ち尽くした。


***


そのあと。


席に戻ると、遥がすぐに身を乗り出してきた。


「ちょちょ、どういう状況? 舞、何かあったの?笑」


「あとで話す。さっきのこと」


「ん? ……あー、なるほどね?」


「何もないってば」


「ふふ、顔に出てるけど?」


「出てない」


「出てる出てる」


軽く言い合って、二人で笑う。


そのとき。


(……?)


ふと、視線を感じた。


横を見る。


さっきの——知らない男子。


日野が、こっちをじっと見ていた。


——何あれ? 手で会話してる……?


その言葉が、ふっと浮かぶ。


遥はそれに気づくと、さらっと言った。


「それはね、手話だよ」


日野が少し目を丸くする。


「えー? 手話って……もしかして、聞こえない?」


一瞬、空気が止まる。


「うん、そうだよ」


遥が自然に答える。


「でも全然普通だから、気にしなくていいよ」


軽く笑いながら付け足した。


「……あ、悪い。なんか変なこと聞いた?」


日野が少し気まずそうに頭をかく。


「でもさ、めっちゃ仲いいじゃん。なんか楽しそうでいいな」


そう言って、少しだけ空気を緩めるように笑った。


(……)


少しだけ、胸の力が抜ける。


そのとき。


ふと、気配が引いた気がした。


顔を上げる。


教室の入口の方。


——いない。


(……あれ)


さっきまで、そこにいたはずの人の姿がなかった。


城ケ瀧は、何も言わずに出ていってしまっていた。


理由も分からないまま、


ただ、その背中だけが、頭に残る。


教室のざわめきが、少し遠くに感じた。

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