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無音の世界

初めての投稿です。

ろう者の少女と、不思議な力をめぐる物語を書いてみました。

温かく見ていただけたら嬉しいです。

無音の世界に、ふとカラフルな風景が広がる。

空を翔んでいく鳥が舞うその中で、私の心を開いていたのは、“視える君”だった。


私は神楽舞。高校二年生。


昼休み、2年1組の教室の隅で、今日もひとりスマホを見ている。

外は雨。教室は騒がしいのに、私の世界には音がない。


画面には、YouTube。

推しのダンスプラクティス動画が上がっていた。


音は聞こえないけど、動きとリズムだけでも分かる。

何度も再生して、同じところを繰り返す。


——こうしていれば、周りのことを考えなくて済むから。


話したい。

友達を作りたい。

そう思っているのに、一歩が踏み出せない。


(今日こそ……話しかけてみようかな)


そう思って隣の席の方を振り向く。


——けど。


その子はもう、楽しそうに誰かと話していた。


(……今は、やめとこう)


結局、何もできずに前を向く。


どうして私は、こんなにうまくできないんだろう。


私は、ろう者だ。

耳が聞こえない。


この学校は普通の高校で、ろう者の生徒は私ひとり。

授業は文字起こしアプリを使って受けている。


不便だと思ったことはない。

これが、私のやり方だから。


——でも。


私には、もうひとつ秘密がある。


人の心の声が、見える。


それは音じゃなくて、文字になって空中に浮かぶ。

読もうとしなくても、勝手に目に入ってくる。


笑っている子の頭の上に、「つまらない」って文字が浮かんでいたり。

誰かの周りに、細かい言葉がいくつも漂っていたり。


それが、私の日常だった。


放課後。

ひとりで帰り道を歩く。


今日は、ビデオ通話の約束がある。

少しだけ足早になる。


「お母さん、ただいま! ビデオ通話するから、ご飯遅くなる!」


部屋に入ってスマホを立てると、すぐに画面が繋がった。


「やほ! 久しぶり、遥!」


画面の向こうで笑っているのは、桜井遥。

私の親友だ。


小学生の頃から、ずっと一緒だった。

高校は別々になったけど——七月には、同じ学校に転校してくる。


「ねえねえ、転校してくるんでしょ?

今日さ、ずっと雨で暇だったの。話したくて通話しちゃった。

早く会いたいなー!」


「もー、相変わらずおしゃべり好きなんだね、舞」


遥が笑う。


その声は聞こえないけど、口の動きと表情で分かる。

私は手話で返す。


遥の心の声も見えている。

でも、不思議と気にならない。


静かで、やわらかくて——安心できる。


七月。


ついにその日が来た。


「桜井遥です。よろしくお願いします!」


教室の前で挨拶をする遥に、周りがざわつく。


——え、美人じゃん。

——最高な夏になりそう。


そんな心の声が、空中に浮かんでいく。


でも私は、それどころじゃなかった。


席を立って、まっすぐ遥のもとへ向かう。


「遥〜! おかえり! やっとだね!」


学校で手話を使うのは、これが初めてだった。


周りの視線が一気に集まる。


——え、あんなに明るい人だったっけ?

——名前なんだっけ……?

——桜井とどういう関係?

——手話できるの、かっこいい……


いくつもの言葉が浮かぶ。


でも、そんなのどうでもよかった。


目の前に遥がいる。それだけで嬉しくて——

私は自然と笑っていた。


休み時間。


遥はきっと、友達を作りたいはずだと思って、私は少し距離を取った。


ひとりでいた方が、動きやすいから。


それに——


さっきのことを思い出して、ついニヤけてしまう。


嬉しくて、ぼーっとしながら階段を降りていた。


そのとき。


足を踏み外した。


(あ——)


体が傾く。

時間が、ゆっくりになる。


目の前に、誰かがいた。

上がってこようとしていた男子生徒。


驚いた顔が見える。


(やば……!)


ぎゅっと目を閉じた。


——ぶつかる、と思ったのに。


痛みは来なかった。


そっと目を開ける。


気づけば私は、その人の上に座り込んでいた。


「おいおい、何やってんだよ(笑)」


からかう声が飛ぶ。


顔を上げると、日野大輔が笑っていた。


——ヒューヒュー。


周りの冷やかす声が、文字になって浮かぶ。


でも——


目の前の人だけは、違った。


そこには、何もない。


文字が、ひとつも浮かんでいない。


(……え?)


目の前にいたのは——


誰だろう。


そのときの私は、まだ名前も知らなかった。


ただ。


顔を見た瞬間、思わず息が止まる。


(え……なに、この人)


整いすぎてる顔立ちに、一瞬で思考が止まる。


(普通に……めっちゃかっこよくない……?)


いや、今それどころじゃないでしょ。


はっと我に返る。


「大丈夫?」


その人が、私をのぞき込む。


ゆっくりとした口の動き。


私は慌ててうなずいた。


「あ……けが、大丈夫です。ごめんなさい……!」


恥ずかしさと混乱で、頭がいっぱいになる。


さっきの“空白”も、うまく整理できないまま——


私は、その場から逃げるように立ち上がった。


後ろで、誰かが言っているのが見えた。


——城ケ瀧じゃん。

——やば、あの人とぶつかるとか運良すぎ。


(……城ケ瀧?)


その名前だけが、頭の中に残った。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

続きもゆっくり書いていく予定です。

よければ感想いただけると嬉しいです!

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