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「申し訳ないレディ、あの場から連れ出したかったのです」
「いえ、あの……ありがとうございます」
タイミングよく曲が変わったために、彼とダンスを踊る。
彼の艷やかな黒髪が揺れる。
ターンする度にムスクの香りがして、ドキドキと胸が高鳴ってしまう。
ダンスが終わると彼は変わらず手を引いてくれて、給仕からグラスを受け取ると果実水を手渡してくれた。
喉を潤していると、彼の赤い瞳とぱちりと見つめ合ってしまった。
「申し訳ない、夜会は久しぶりでして……」
「いえいえそんな、ダンスもお上手でした」
「ありがとうございます」
彼からはこの短い時間で二度、謝られた。
けれど彼の謝罪は嫌に思わなかった。
「申し遅れました。私はヴィンセント・ヴァルモント。ご令嬢、貴女を何とお呼びしたら?」
ヴァルモントの名前を聞いて私も、周囲にいた人たちもヒュッと息を呑んだ。
ヴァルモント公爵家の方だったなんて、と私は震えながらも礼をした。
「私はロザリンド家の、ソフィアです」
「貴女に似合う良い名前ですね」
果実水のグラスが空になる頃、お父様が戻ってきた。
ヴァルモント様に挨拶をして、それからお父様と会場を出る。
帰りの馬車の中で私はお父様に尋ねる。
「お父様はヴィンセント様をご存知ですか?」
「あぁ……彼は貴族学園を卒業してからずっと国境で外交官として務めていた」
「そうなの……?でもどうして……」
「ヴァルモント家の当主であったヴィンセント様の兄君が重い病を患ってしまった。彼が戻ってきたということは……当主が代わるのやもしれない」




