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ギルドの雑用係、実は最強でした ~俺は掃除してるだけなんだが、どうやら世界が詰むのを回避しているらしい~  作者: 鷹宮ロイド


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第7話 ギルドマスターの判断

 その日の夜。


 冒険者ギルドの執務室には、灯りが一つだけ点いていた。


 分厚い扉の向こうで、書類をめくる音が規則正しく響く。

 その音の主は、ギルドマスターのグラン・ドーレンだった。


 机の上には、今日一日で積み上がった報告書。


――廃施設後始末完了

――S級魔物、完全沈黙

――被害追加なし


 どれも、事実だけを書けばそうなる。

 だが、そこに至る過程は、一文字も記されていない。


「……まったく」


 グランは、額を押さえた。


 扉が、静かにノックされる。


「入れ」


 入ってきたのは、ミーナだった。

 いつもの無表情だが、さすがに疲れが見える。


「処理、終わったわ」


「報告は聞いている」


「聞いてる“だけ”で済ませるの?」


 ミーナは、机の端に腰を預ける。


「今日の件、もう隠しきれないわよ。中堅どころは全員察した。新人は怯えてる。噂は、街の外にも出始めてる」


「……分かっている」


 グランは、椅子にもたれかかった。


「だからこそ、判断が必要だ」


「判断?」


「アルトをどう扱うか、だ」


 ミーナは、少しだけ目を細めた。


「表に出す気?」


「逆だ」


 グランは、即答した。


「より深く、隠す」


「……どうやって?」


「役職を固定する」


 ミーナが、片眉を上げる。


「雑用係、でしょ?」


「ああ。正式に“ギルド専属雑務担当”にする」


 ミーナは、一瞬言葉を失った。


「……それ、降格じゃない?」


「違う。保護だ」


 グランは、机の上の書類を一枚引き寄せた。


「依頼を選ばせない。前線に出さない。だが、後始末と補助は全部任せる」


「それって……」


「誰も文句を言えない位置だ」


 ミーナは、理解した。


 前線に立たない。

 だが、必要不可欠。


 評価できない。

 だが、排除もできない。


「……ずるいわね」


「長くギルドマスターをやっていると、そうなる」


 その時、再びノックが鳴った。


「失礼します」


 扉を開けたのは、リリアだった。


「あの……お呼びでしょうか?」


「来てもらって正解だった」


 グランは、優しく言った。


「今日の廃施設の件。現場にいたな」


「は、はい」


「どう感じた?」


 リリアは、少し考えてから答えた。


「……アルトさんは、いつも通りでした」


「“いつも通り”とは?」


「掃除して、危ないものを片付けて……それで終わり、みたいな」


 グランは、頷いた。


「それが、あいつの本質だ」


 彼は、窓の外を見る。


 夜の街。

 静かで、平和だ。


「強さを誇らない。

 恐怖を振りかざさない。

 力を持っている自覚がない」


 ミーナが、ぽつりと言った。


「……厄介ね」


「だからこそ、守る価値がある」


 グランは、書類を一枚、机の中央に置いた。


――人事通達

――アルト・レイン

――役職:ギルド専属雑務担当

――ランク:非公開


「ランク、非公開……?」


 リリアが、思わず聞き返す。


「公表しない。測定もしない。記録も残さない」


「そんなこと、できるんですか?」


「できる。ギルドは、そういう場所だ」


 ミーナが、腕を組んだ。


「国が文句言ってくるわよ」


「来たら、俺が出る」


 グランの声は、静かだが強い。


「アルトは、俺の管轄だ」


 その言葉に、部屋の空気が変わった。


 覚悟を決めた人間の、重さ。


「……本人には、どう説明するの?」


 ミーナの問いに、グランは少し考えた。


「仕事が増えた、とだけ言う」


「それで納得する?」


「する」


 三人とも、同時に頷いた。


 その頃。


 ギルドの宿舎で、アルトはベッドに腰かけていた。


「……今日は、ちょっと疲れました」


 誰に言うでもなく、独り言。


 魔物のことじゃない。

 噂のことでもない。


 掃除が大変だった、という意味で。


 翌朝。


「アルト」


 グランが声をかける。


「はい」


「今日から、お前は“ギルド専属雑務担当”だ」


「……?」


「依頼は、こちらで選ぶ。前線には出さない。だが、後始末と補助は任せる」


 アルトは、少し考えてから、頭を下げた。


「……分かりました。掃除、頑張ります」


 その返事に、ミーナは思わず目を逸らした。


 リリアは、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。


 こうして。


 誰にも気づかれない形で、

 だが確実に。


 アルト・レインは、“守られる側”になった。


 ――世界にとって、最も危険で、最も無自覚な存在として。


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