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ギルドの雑用係、実は最強でした ~俺は掃除してるだけなんだが、どうやら世界が詰むのを回避しているらしい~  作者: 鷹宮ロイド


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第6話 雑用依頼(難易度S)

 その依頼は、掲示板の一番下に貼られていた。


 他の依頼書よりも紙が古く、端が少しだけ折れている。

 報酬も低い。危険度の欄には、いつものように「F」。


「……これ、まだ残ってるんですね」


 私が思わず声に出すと、ミーナさんが小さく鼻で笑った。


「残ってる、じゃないわ。誰も“取らない”の」


「でも……雑用ですよね?」


「表向きはね」


 私は、依頼書をよく見た。


――街道脇廃施設の後始末

――瓦礫撤去、清掃、残留物処理


 確かに雑用。

 でも、“残留物処理”という言葉が、やけに引っかかる。


「これ……昨日の魔物騒ぎの……」


「正解」


 ミーナさんは、声を潜めた。


「討伐は、他のパーティが請け負った。でも失敗。半壊。撤退。で、残ったのが“後始末”」


 嫌な予感しかしない。


 その時だった。


「おはようございます」


 いつも通りの声で、アルトさんがカウンターに来た。


「今日の雑用、何かありますか?」


 私は、一瞬だけ迷った。


 この依頼を渡していいのか。

 でも、渡さない理由も、断る理由も見つからない。


 結局。


「……こちらをお願いします」


 私は、依頼書を差し出した。


「ありがとうございます」


 アルトさんは、内容をざっと見て、頷いた。


「清掃ですね。分かりました」


 危険度F。

 雑用。

 表向きは、間違っていない。


 ***


 廃施設は、街道から少し外れた場所にあった。


 建物の半分は崩れ、周囲には焦げ跡と血痕。

 空気が、重い。


 すでに撤退した冒険者たちの装備の破片が、あちこちに転がっている。


「……ここ、掃除しづらそうですね」


 アルトさんは、真剣な顔でそう言った。


 私の隣にいた新人冒険者トムは、青ざめている。


「こ、ここ……S級魔物が出たって……」


「そうなんですか?」


 アルトさんは、驚いたように目を瞬いた。


「でも、もう倒されたんですよね?」


「……えっと……」


 倒された、とは言えない。


 正確には、追い払えた、でもない。

 生きて逃げただけだ。


 その瞬間。


 瓦礫の奥で、何かが動いた。


 ――ズルリ。


 巨大な影が、崩れた壁の向こうから姿を現す。


「……まだ、残ってましたか」


 アルトさんは、ため息をついた。


 トムが、悲鳴を上げそうになる。


「ア、アルトさん! あれ……!」


「大丈夫です」


 アルトさんは、箒を地面に立てかけた。


「瓦礫の下敷きになってるみたいなので。動きづらそうですし」


 次の瞬間。


 アルトさんは、瓦礫に手をかけた。


 ――ゴゴゴ。


 建物の残骸が、まるで積み木みたいに持ち上がる。


 魔物が、驚いたように暴れた。

 でも、その動きは、鈍い。


「あ、暴れると危ないですよ」


 アルトさんは、淡々と言って、瓦礫を横にずらした。


 その“ついで”で、魔物の身体が、地面に叩きつけられる。


 ――ドン。


 土煙が上がり、視界が白くなる。


 煙が晴れた時。


 そこには、完全に沈黙した魔物がいた。


「……終わりました」


 アルトさんは、手を払う。


「じゃあ、掃除しますね」


 トムは、声が出なかった。


 ***


 後始末は、驚くほど早く終わった。


 瓦礫は片付き、血痕も消え、危険物は一つも残っていない。


「……すごい……」


 トムが、ぽつりと呟いた。


「こんなに綺麗に……」


「雑用ですから」


 アルトさんは、当然のように言った。


「危ないものが残ってると、次に来る人が困りますし」


 その言葉に、私は背中がぞくっとした。


 ――“次に来る人”。


 この人は、いつも“次”を考えている。

 自分が何をしたかじゃなくて、その後を。


 ギルドに戻ると、報告を聞いたグランさんが、深く息を吐いた。


「……処理完了、か」


「はい。清掃と撤去、終わりました」


 アルトさんは、きっちり頭を下げた。


「危ないものも、片付けておきました」


 グランさんは、一瞬だけ目を閉じる。


「……助かった」


「いえ、仕事ですから」


 そのやり取りを、周囲の冒険者たちが固唾を飲んで見ていた。


 誰もが分かっている。


 今のは、雑用じゃない。

 でも、誰も言わない。


 言えない。


 トムが、意を決したようにアルトさんに近づいた。


「ア、アルトさん……」


「はい?」


「……ありがとうございました」


 深く、頭を下げる。


 アルトさんは、少し困ったように笑った。


「こちらこそ。一緒に手伝ってくれて」


 トムは、泣きそうな顔で頷いた。


 その日。


 ギルド内で、新しい認識が共有された。


 ――アルトは、前に出ない。

 ――でも、後始末に回った時、すべてが終わる。


 雑用係。


 それはもう、役職じゃない。


 “役割”だった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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