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ギルドの雑用係、実は最強でした ~俺は掃除してるだけなんだが、どうやら世界が詰むのを回避しているらしい~  作者: 鷹宮ロイド


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第5話 測定不能

 翌朝。


 冒険者ギルドの前には、開館前だというのに、妙な列ができていた。


「……何ですか、これ」


 私は受付カウンターの内側から、慎重に外を覗いた。


 並んでいるのは冒険者。

 しかも、初心者じゃない。中堅以上ばかり。


 全員、視線の先は一つ――ギルド中央に設置された、黒い水晶の装置。


「能力測定器よ」


 隣でミーナさんが、乾いた声で言った。


「……聞いてませんでしたけど」


「本来はね。でも昨日の今日で、上から話が降ってきたの」


 上、という言葉の指す先を考えて、胃がきゅっと縮む。


「国……ですか」


「国“も”」


 ミーナさんは曖昧に笑った。


「騎士団、魔導院、あと面倒な連中。みんな、“雑用係”に興味津々」


 嫌な言葉の並びだ。


 測定器は、魔力・身体能力・反応速度・総合適性を簡易的に数値化する装置だ。

 冒険者登録時に一度使うだけで、あとはランク昇格試験の時くらい。


 それを、今さら引っ張り出してきた理由は一つ。


「……アルトさん、ですよね」


「他に誰がいるのよ」


 その本人は。


「おはようございます」


 ちょうどその時、いつも通りの声でギルドに入ってきた。


 雑用用のエプロン。

 肩に小さな箒。


 完全に場違い。


 列に並んでいた冒険者たちが、一斉に視線を向ける。

 でも誰も声をかけない。かけられない。


 アルトさんは、その空気に気づいていない。


「今日は、何かイベントですか?」


 私は、即答できなかった。


 どう説明したらいいのか、分からなかったから。


 その時、奥から重たい足音がした。


「アルト」


 ギルドマスター、グランさんだ。


「少し、時間をもらえるか」


「はい。掃除の前でよければ」


 前提が掃除なのが、もうおかしい。


 グランさんは一瞬だけ言葉に詰まり、それから測定器を示した。


「簡易測定だ。念のため、受けてほしい」


「……測定?」


 アルトさんは、露骨に困った顔をした。


「えっと……必要ですか?」


「必要だ」


「……壊しません?」


 その場にいた全員が、息を止めた。


「壊しません、よね?」


 アルトさんは、本気で心配している。


 グランさんは、短く頷いた。


「……加減しろ」


「分かりました」


 分かってない。


 私は、思わずミーナさんの袖を掴んだ。


「だ、大丈夫なんですか……?」


「さあ。でも、やらない方が危険」


 アルトさんは、測定器の前に立った。


 まずは、魔力測定。


 水晶に手を触れる。


 ――カチ。


 一秒。


 ――ピシ。


 二秒。


 水晶の表面に、細い亀裂が走った。


「あ」


 アルトさんが、慌てて手を離す。


「ごめんなさい、今のなしで……」


 次の瞬間。


 パァン、という乾いた音と共に、水晶が砕け散った。


 破片が床に転がる。


 沈黙。


「……測定不能」


 魔導技師が、震える声で言った。


「魔力値、上限突破。記録、不可」


 ざわ、と空気が揺れる。


「つ、次、身体能力!」


 別の技師が叫ぶように言った。


 床に設置された魔導陣。

 踏み込んで、一定距離を移動するだけの簡単な試験。


 アルトさんは、慎重に一歩踏み出した。


 ――ズン。


 床が、沈んだ。


「あ」


 アルトさんが、また言った。


「……床、ですか?」


 沈黙、再び。


「……測定不能」


「反応速度!」


「待ってください、ちょっと――」


 アルトさんが制止する前に、試験は始まった。


 光の点が、ランダムに飛ぶ。

 それに触れたら合格。


 でも。


 アルトさんは、動かなかった。


 点が、全部、避けた。


 正確には、触れる前に消えた。


「……?」


 アルトさんが、首を傾げる。


「今の、何だったんですか?」


 技師が、崩れ落ちた。


「……測定不能……」


 記録用紙には、三つの項目すべてに同じ文字が並んだ。


――測定不能

――測定不能

――測定不能


 誰かが、乾いた笑いを漏らす。


「……数値、いらなかったな」


 グランさんは、深く息を吐いた。


「アルト。もういい。下がれ」


「はい……」


 アルトさんは、申し訳なさそうに頭を下げる。


「すみません。古い機械だったみたいで」


 誰も否定できなかった。


 測定が終わった後。


 ギルドの片隅で、ミーナさんが小さく呟いた。


「これで、“確定”ね」


「……何が、ですか」


「規格外」


 その一言が、やけに重かった。


 アルトさんは、何事もなかったように箒を持ち、床の破片を片付け始める。


「細かいガラス、危ないですから」


 私は、その背中を見ながら、思った。


 ――この人は、測れない。


 数値でも、言葉でも、常識でも。


 そして、それを一番分かっていないのが、本人自身だということを。


 噂は、今日で完全に形を変えた。


 “雑用係”から、“測定不能の何か”へ。


 それでも。


 アルトさんは、今日も雑用係のままだった。


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