表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルドの雑用係、実は最強でした ~俺は掃除してるだけなんだが、どうやら世界が詰むのを回避しているらしい~  作者: 鷹宮ロイド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/35

第29話 代わりを置かない理由

 休暇明けの朝。


 アルトは、いつも通りの時間にギルドへ向かった。


「……おはようございます」


 声は、変わらない。

 歩幅も、呼吸も、昨日までと同じ。


 だが――迎える側が違った。


「……おはよう」


 返事はあったが、視線が多い。

 露骨ではない。

 けれど、確実に“見られている”。


「……何か、ありました?」


 アルトが首を傾げると、リリアは一瞬だけ間を置いた。


「いいえ。何も」


 それが、今朝一番の嘘だった。


 ***


 執務室。


 グランは、昨夜まとめられた報告書に目を通していた。


――休暇期間中

――小規模トラブル:未然解消(偶発)

――依存兆候:軽微

――代替措置:未実施


「……未実施、で正解だな」


 ミーナが、腕を組んだまま言う。


「正直、一部からは

 “代わりを置くべきだった”って声も出てる」


「愚策だ」


 グランは、即座に切り捨てた。


「代わりを置いた瞬間、

 “代わりが必要だ”と世界が勘違いする」


 それは、最も避けるべき誤解だった。


 ***


 同じ頃、王都。


 ユリウス・フェインは、同じ報告を読んでいた。


「……代替なし、か」


 部下が慎重に言う。


「一部の部署では、

 “不在時マニュアル”の作成を提案しています」


「却下だ」


 間髪入れず。


「マニュアルとは、

 再現可能だと宣言する行為だ」


 ユリウスは、机に指を置く。


「彼は、再現不能だ。

 だから“手順”を作ってはいけない」


 部下は、言葉を失った。


 ***


 ギルドの裏庭。


 アルトは、いつものように柵の点検をしていた。


「……ここ、昨日直した気がしますね」


 休暇前に直したはずの場所。

 だが、わずかに歪んでいる。


「……気のせいでしょうか」


 木を削り、釘を打つ。

 ほんの数分。


 その瞬間、

 街道沿いで起きかけていた小競り合いが、

 第三者の介入で自然解散した。


 因果は、誰にも見えない。


 ***


「アルト」


 背後から、グランが声をかける。


「昨日は、どうだった?」


「休暇ですか?」


 アルトは、少し照れたように笑う。


「楽しかったです。

 普段通らない道を歩けましたし」


「……不安は?」


「え?」


「街が気になる、とか」


 アルトは、少し考えた。


「……ちょっとだけ」


 正直な答えだった。


「でも、一日くらいなら大丈夫だろう、って」


 その言葉に、グランは内心で頷いた。


(“一日くらい”という感覚が、救いだ)


 ***


 昼。


 冒険者たちの間で、噂が囁かれていた。


「昨日さ……アルト、いなかったろ」

「なのに、何も起きなかった」

「……じゃあ、いなくてもいいんじゃ?」


 その会話は、途中で止まった。


「……いや」

「それ、違う気がする」


 理由は言えない。

 だが、感覚が拒否している。


 “代わりがいる”という発想を。


 ***


 夕方。


 アルトは、業務日誌に目を通しながら言った。


「……昨日、特に何もなかったんですね」


「ええ」


 ミーナは、静かに答える。


「だからこそ、

 今日も“いつも通り”でいてください」


「……はい?」


「掃除して、整理して、

 余計なことをしない」


 アルトは、少し笑った。


「それなら、得意です」


 ***


 その夜。


 王都の最終報告には、こう書かれた。


――対象者不在耐性:短期のみ確認

――代替計画:策定不要

――結論:現状維持が最適


 ユリウスは、ペンを置いた。


「……代わりを置かない理由は、簡単だ」


 誰にともなく、呟く。


「“代わりがいない”と、

 世界が理解してしまった瞬間、

 それはもう、依存になる」


 アルトは、その頃、

 道具を磨き終えて帰路についていた。


「……明日は、どこを掃除しましょうか」


 変わらない日常。


 だが、世界の側は、

 一つの選択肢を永遠に封じた。


 ――彼の代わりを、置かない。


 それが、

 この世界が学んだ、

 二つ目のルールだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ