第23話 仕事が増えただけ
最近、アルトは少しだけ忙しかった。
「……この依頼、終わったら、次はあっちですね」
依頼書の束を抱え、廊下を歩きながら呟く。
内容はどれも似ている。
――倉庫整理
――通路確保
――不要物撤去
――安全確認
戦闘はない。
討伐もない。
ただ、量が多い。
「……前は、こんなにありましたっけ」
ギルドの裏口で、アルトは立ち止まった。
そこには、荷車が二台。
どちらも、雑用用の資材でいっぱいだ。
「アルト」
声をかけてきたのは、ミーナだった。
「今日の分、これで最後よ」
「ありがとうございます」
アルトは、ほっとしたように息を吐く。
「最近、仕事が増えた気がして」
「……そうね」
ミーナは、それ以上言わなかった。
仕事が増えた理由を、
説明できる言葉が、存在しないからだ。
***
その日、アルトが向かったのは、街の外れにある古い見張り塔だった。
何年も使われていない。
だが、完全に放置するには、少しだけ危ない。
「……階段、傷んでますね」
手すりを直し、崩れかけた石を取り除く。
ついでに、床を掃く。
「……これ、魔導具?」
埃を被った小さな装置を見つけ、首を傾げる。
起動はしていないが、内部に魔力が残っている。
暴走するほどではないが、放置すれば不具合の原因になる。
「……危ないですし、処分しましょう」
アルトは、装置を慎重に分解し、魔力の通り道を断った。
――それだけ。
***
同じ頃。
王都では、ユリウス・フェインが、短い報告を受けていた。
「街外れの見張り塔付近で、
断続的に観測されていた魔力ノイズが消失しました」
「原因は?」
「……不明です。
当該区域では、本日、雑務依頼が一件のみ」
ユリウスは、指先で机を軽く叩いた。
「雑務……」
彼は、苦笑にも似た表情を浮かべる。
「もはや、偶然とは言えないな」
だが、声には出さない。
出したところで、何も変わらないからだ。
***
夕方。
ギルドに戻ったアルトは、依頼完了の印を受け取りながら言った。
「……あの見張り塔、だいぶ使いやすくなりました」
「そう」
リリアは、微笑みながら答える。
「何か、問題は?」
「いえ。
ただ……」
アルトは、少しだけ言い淀んだ。
「……こういう仕事、
前より“必要とされてる”気がします」
その言葉に、リリアは一瞬だけ視線を逸らした。
「……そうかもしれませんね」
必要とされている。
それは、事実だ。
だが、その“必要性”は、
アルトの想像とは、少し――いや、だいぶ違っていた。
***
夜。
ギルドの業務日誌には、淡々と記録が残された。
――倉庫整理 完了
――見張り塔安全確認 完了
――特記事項なし
特記事項なし。
その一言が、今日も書かれる。
アルトは、日誌に目を通すことはない。
ただ、帰り道で、こう思った。
(……忙しいのは、悪くないですね)
体は少し疲れるが、街は静かだ。
誰も困っていない。
それなら。
仕事が増えただけなら。
それでいいと、アルトは思っていた。
その“だけ”が、
どれほど多くのものを支えているのかを、
本人だけが知らないまま。
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