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ギルドの雑用係、実は最強でした ~俺は掃除してるだけなんだが、どうやら世界が詰むのを回避しているらしい~  作者: 鷹宮ロイド


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第19話 国が、気づいた

 王都は、今日も平穏だった。


 街路は整備され、人の流れは規則正しく、どこにも混乱の兆しはない。

 ――表向きは。


 王城の一角。

 装飾を極力省いた執務室で、ユリウス・フェインは一人、書類に目を通していた。


 積まれているのは、戦果報告でも英雄譚でもない。

 事故、異変、原因不明。


 数字と事実だけが並ぶ、地味な資料だ。


「……小規模ダンジョン、消失」


 ユリウスは、ゆっくりとその文字を指でなぞった。


 討伐記録なし。

 崩壊兆候なし。

 被害ゼロ。


 普通なら、あり得ない。


「自然消失は理論上否定。

 魔導院の見解も一致……か」


 報告書を閉じ、次の紙を開く。


 同時期の別資料。


――周辺地域の魔力濃度、異常低下

――不安定化の兆候、事前に消失

――原因不明


 ユリウスは、ペンを止めた。


「……“消えた”んじゃないな」


 独り言のように、静かに呟く。


「“片付けられた”」


 誰が?

 どうやって?


 その答えは、どこにも書かれていない。


 だが。


 ユリウスは、別の資料を引き寄せた。


――現地冒険者ギルド・対応記録

――責任者:グラン・ドーレン

――特記事項:なし


「特記事項、なし……」


 彼は、ほんの少しだけ口角を上げた。


「これは、“書けない”という意味だ」


 書けない。

 残せない。

 残すと危険。


 そう判断させる“何か”が、現場にいた。


 ユリウスは、椅子に深く腰掛け、天井を仰いだ。


「英雄が出たなら、こうはならない」


 英雄なら、名前が出る。

 功績が残る。

 称号が与えられる。


 だが今回は、違う。


「……英雄未満。

 だが、災害以上」


 ペンを回しながら、思考を整理する。


 力を持つ者は、管理できる。

 組織に組み込み、命令し、制御する。


 だが。


「管理しようとした瞬間、

 被害が出る存在……か」


 ユリウスは、結論に近づいていた。


 だからこそ、現地ギルドは選んだのだ。


 ――記録に残さない。

 ――触れない。

 ――前線に出さない。


 それは、現場判断としては、極めて正しい。


 だが、国の立場としては。


「……見ないふりは、できないな」


 ユリウスは、机の端に置かれた別の封筒に手を伸ばした。


 封は、まだ切られていない。


――現地ギルド所属

――役職:専属雑務担当

――ランク:非公開


 それだけが書かれた、簡素な書類。


 名前は、控えめな文字で記されていた。


「アルト・レイン……」


 声に出すと、不思議と重みがない。


「雑用係、か」


 肩書きだけ見れば、取るに足らない。

 だが、ここまで情報が揃って、

 その役職に収まっているのは、あまりにも不自然だ。


「……前線に出ていない。

 討伐記録なし。

 なのに、結果だけが残る」


 ユリウスは、静かに書類を閉じた。


「結論は一つだ」


 彼は、誰に聞かせるでもなく、言った。


「この人物は――

 “利用対象”ではない」


 英雄として祀ることもできない。

 兵器として扱うこともできない。


 だから。


「“観測対象”だ」


 それ以上、踏み込まない。

 だが、常に見ておく。


 接触は最小限。

 刺激は厳禁。


 ユリウスは、ペンを取り、指示を書き記す。


――現地ギルドへの直接介入、当面見送り

――非公式監査のみ継続

――対象への接触は、慎重に


 書き終えたあと、ふと手を止めた。


「……本人は、何も知らないだろうな」


 そう思うと、ほんの少しだけ、気の毒に感じた。


 だが同時に、こうも思う。


「知らないからこそ、

 今の世界が保たれている」


 ユリウスは、椅子から立ち上がり、窓の外を見た。


 王都は、変わらず平和だ。


 その平和の片隅で、

 一人の雑用係が、今日も箒を持っている。


 国は、気づいた。


 だが、動かないことを選んだ。


 それが、

 この“例外”に対する、

 唯一の正解だと理解していたから。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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